第19話 思考は通じ合う

「なんかお前ら朝からよそよそしくね……?」

「え?そ、そうか……?いつも通りだと思うけど……。なぁ?美結」

「う、うん。いつも通りだよ!いつも……通り……」

「いや明らかにいつも通りじゃないって」


 帰りのホームルーム前。

 机の頬杖をついた匠海は俺たち2人の顔を交互に見ながら目をしかめる。


「んー……あ、もしかして家でなにかあった?」


 不意にそう紡いだのはピンっと人差し指を立てた俺の彼女瑞月


「別になんもないけどな?」

「えー絶対うそ。言葉に疑問形があるから絶対うそ」


 丁寧に嘘の理由を並べてくれる瑞月はズイッと俺に顔を近づけた。


「なにがあったの?言ってみな?」

「ほんとになんもないんだけどなー?」

「はやく」

「…………」


 多分俺たちは嘘を付くのが苦手だ。

 自分たちの気持ちは隠せるくせに、なぜこうも嘘を付くのが苦手なのだろうか。


 思わず黙り込んでしまう俺は、悔やむようにギュッと手を握り――そして力を緩めてやおらに手を上げた。


「分かった。言うよ」

「え!?祐希!?言っちゃうの!?」

「……言うしかないだろ……」


 真っ先に反応した美結は目をまん丸にする。


「で、でも……って……」

「流石にこのまま怪しまれるってのもあれだからな。致し方ないよ」

「……分かった。じゃあ匠海と瑞月。この事は他言無用ね……」


 そして多分、嘘が苦手な代わりに俺たちはアドリブがクソほど上手い。


 首を傾げる彼氏彼女を前に、ひとつ頷きあった俺たちは、意を決したかのように口を開く。


「……昨日な?んだよ……」

「「え?」」


 匠海と瑞月の声が重なる。

 そんな中、これまた名演技で恥ずかしそうに顔を逸らす美結。


「その時に……その……キ、キスした感覚だとか、エッチの感覚とかを言われて……」

「「え??」」


 またもや2人の声が重なる。


「そういうわけで、ちょっと朝から……。な?美結」

「うん……。惚気も困りものよね……」


 意思疎通もしていなければ事前の打ち合わせもしていたわけではない。

 けれど、こうして目が合い、アドリブが効くのだから、相当俺たちは相性がいいのだろう。


「えーっと……うん。それはごめん。変なこと聞いたわ……」

「う、うん……!とりあえずなにも聞かなかったことにしよっか!うん!私はなにも聞いてない!」


 2人して顔を逸らすのは気まずさからだろう。

 なんとか事なきを得た俺と美結なのだが、母さんたちをダシに使ったことは申し訳ないと思っている。


(……ほんとに思ってるぞ?)


 誰に対してなのかもわからない念押しを心のなかで零した俺は、ウインクする美結に苦笑を浮かべて瑞月のことを見下ろす。


「なにも聞かないでくれてありがとう」

「どういたしまして!なにも知らないから何に対して感謝されてるのかもわからないけどね!!」

「だな。俺も分からんわ」

「うんうん!」


 煩悩を振り払うように激しく頭を縦に振る瑞月。


 そんな瑞月を他所に、未だそっぽを見続ける匠海が口を切る。


「と、とりあえずファミレス行くか。勉強会も兼ねて」

「いいね!いこいこ!」


 匠海は『とりあえず』と言っているが、ファミレスに行くことなんて今勝手に決められた。


 自分なりに気まずさを拭おうとした結果なのだろうが……本当に突拍子もなさすぎる。


「祐希くん!数学教えてね!」

「はいはい教える教える」

「また適当にあしらわれた……!?」


 腕を掴んで来る瑞月が大きく目を見開く中、苦笑を浮かべる美結と匠海は2人だけで話し込む。


 そんな姿に、もちろん『嫉妬』はある。

 俺だって学校で美結と話したいし、もっと触れ合いたい。


 ……だけど、それ以上に優越感が勝るのは昨日のことがあったからだろうか。

『匠海と付き合った時から好き』と言われたから、俺はこの状況でも優越感に浸れているのだろうか。


「……なんで私をあしらったのに楽しそうなの……」

「え?相変わらず瑞月は元気だな〜って」

「……ほんと?それ」

「嘘つかねーよ。瑞月の元気さに俺は救われてるだからさ」

「もぉ祐希くんったら〜。ここ学校だよ〜?」

「誰も聞いてないからいいじゃんいいじゃん」

「それはそうだね〜」


 ふにゃふにゃと頬を緩ませる瑞月の顔なんて見ていないのだろう。

 2人で話していたはずの美結は苦笑を浮かべ、


「私たちには聞こえてるけどね……」

「俺の彼女は気にしてないみたいだぞ?」

「……瑞月に羞恥心というものはないのかしら……」

「さぁーな」


 肩を竦める俺は未だに腕にしがみつく瑞月にほほ笑みを落としながら、HRを始まるのを待った。

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