今日が溶けてしまう前に/しろつめ

追手門学院大学文芸部

第1話

酔いをさまそうと、最寄り駅からあてもなく歩いてみた。右手にはさっきコンビニで買ったアイスココア、カバンには今日の戦果である三冊の小説が入っている。とてもいい気分だ。

 今日は楽しかった。話の合う友と古本屋に行き、その足で気になった居酒屋に入り、フライドポテトと枝豆と餃子を食べながら話した。私が先に最寄り駅までついて、電車の中の友に手を振った。彼は多忙なのでこれからまだ予定が入っているらしい。私はもうない。私より酔っていたように思えたのだけれど、彼はこの後の予定をあの状態でこなすのだろうか。

 アイスココアと冬の夜風で私の酔いはさめていく。面白い店名のラーメン屋があったので写真を撮って友に送った。やきとり屋の看板の可愛げのあるニワトリを見て憐れんだ。一本細い道に入ると住宅街のような感じで、何かの施設のようなところに一台の救急車が止まっていた。何かあったのだろうか。まぁ、知る由はない。

 酔いがさめてきて、これらのなんでもない風景を書き留めたくなった。住宅街なので変に家屋の前に立ち止まると怪しまれる。私は今アパートの塀に隠れて一人でこれを書いている。

 アイスココアを飲む。手の温度で少しぬるくなっていた。歩き飲みは母に咎められるけれど、今は一人だ。悪いことをしているみたいで楽しくなる。咎める人がいなくて寂しくなる。お酒も飲める年齢になっていまだに母を意識しているのも、なんだかおかしく思えてきた。ずぞぞ、と音を立ててアイスココアを飲み切る。音を立てちゃいけませんなんて言う人はここにはいない。私は今、一人だから。

 飲み切ったし帰るか。酔いもさめてきたし、身体も冷えてきた。あてもなく歩いていたからここがどこだか分からない。あ、友から返信が来た。あのラーメン屋を知っているらしい。今度一緒に行きたいな。

 グーグルマップを開いて自宅を検索する。ここから十三分らしい。ゆっくり歩いて帰るので、多分二十分くらいはかかるだろう。

今日は楽しかった。いい夜だね。また楽しい日が来ることを、私はとても嬉しく思うよ。またね。




あとがき

 この作品は、Twitter(現X)の下書きに残っていたものをほとんどそのまま書き起こしました。一応体裁は整えましたが、雰囲気は残したくてそのままにしているところも多いです。百四十字しか入らない一ツイートにこの量の文章が書き殴られていたので、字数オーバーでほとんどの部分は赤く表示されています。

 書き留めないと明日には溶けてしまいそうなくらい、ちょっぴりいい日を過ごしただけなんです。それがとても幸せなんです。

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