第16話 失恋の傷は何で癒す?
「いつ帰ってくるって?」
「来週」
「いつまでいるの?」
「決めてないってさ」
突然、
海外の取材から一時帰国するらしい。
「チャンスではあるよなぁ」
「でも難しいよなぁ…失恋したてですぐ次なんてなかなかいけないだろうし。しかも初恋なんだろ?」
「だよな〜…」
姉を結婚させたい。
前までは追い出したい気持ちだったが、今はとにかく幸せになってほしい。
あれだけ傷付けば誰だって次の恋に臆病になるだろう。
「まぁでもいつかは前を向いて次の恋愛に進むべきだろうしな」
「次の恋愛か…」
◇◆◇
「こんにちは」
「こんにちは」
神原がにこっと笑って挨拶を返してくれる。
まるで何事もなかったような態度に、ほっと胸を撫で下ろしつつ、桃子に言われてアルバイトの作業に取り掛かった。
なんとなく見ていると、神原と叶夢の関係も変わっていないようだ。
やっぱり神原はコーヒーをこぼしてみたり、記事の誤字が多くて怒られたり、インタビューの日付を勘違いしたりして、様々なことを巻き起こしては、叶夢を頼っている。
頼られた叶夢もテキパキと指示を出し、気まずそうな空気はない。
「
「白井さんは、失恋とかしたことあります?」
「は!突然なんで!?」
桃子が目を丸くして何事!?と言う顔をしている。
「あ、えーっと知り合いが最近失恋したんですけど、その場合ってなかなか次にいけないもんなのかなぁって」
「そりゃあすぐに行くのは難しいんじゃないですか?好きな気持ちを失恋したからってなかったことにはできないですから」
確かにその通りだ。
失恋してから時間をかけて好きだった気持ちを忘れていくものなのだ。
「まぁでも失恋した時こそ相手からしたらチャンスかもですね」
「チャンス?」
「話を聞いてもらったり、励ましてもらってるうちに好きになっちゃいましたってことはありますから」
「確かに…」
◇◆◇
「つーちゃん、今なんて?」
歩夢がうさ耳のついたフードを被りながら、驚いた顔をしている。
「崎矢さんと姉ちゃんをくっつける」
「いや、でもさすがに失恋したてだしさ」
「だからこそだよ。恋の傷は恋でこそ癒えるんです」
「どこのネット記事の見てきたの?そんな簡単なもんじゃない気がするけどなぁ」
「それでも、姉ちゃんと我々の幸せのためには前を向いて進むしかない」
「でもまた失恋したらどうするの?またってなったらお姉ちゃんのプライドズタズタになるよ」
「わかってる。今回は同じ轍を踏まないように徹底的に調査する」
「調査?」
「なんか既視感あるけど…大丈夫かなぁ」
心配そうな目を向ける歩夢をよそに今後の作戦について
とはいえ、崎矢が帰ってくるまではできることもない。
しいて言うなら、叶夢の傷を癒すために何かするくらいだろうか。
叶夢は今日休みだが、出かける様子もない。
「姉ちゃん降りてこないね」
歩夢に声をかけると、歩夢はクマのあみぐるみを編んでいる。
あみぐるみ作りにハマっているようで、部屋のあちこちに動物のあみぐるみが転がっている。
長身のイケメンが小さなかぎ針で一生懸命編んでいる様子は、ほんの少しだけ可愛らしく感じる。
「きっと寝てるんだよ。お仕事で疲れてるんじゃない?」
「なんか傷が癒えるようなことしてあげたいけど、ミスるとボコボコにされそうだからなぁ」
「女の子の傷を癒すにはこれしかないよ!」
◇◆◇
「えぇ…買い物?別に欲しいものないし」
叶夢は高校の時のジャージでコンタクトもせず分厚いメガネをかけている。
「化粧めんどいしな」
こうなるのは想定済みだ。
「
叶夢はバッチリ化粧をして、キレイめなニットワンピースにコートを羽織っている。
先ほどとはまるで別人の美人だ。
「なんであんなにはりきってるの?」
小声で歩夢が聞いてくる。
「何か買ってあげるって言ったからだよ」
「えぇ…太っ腹だね」
「いや…、あの、ごめん…」
「もしかして、僕も?」
「兄弟なんで…」
※今回も次回更新が11時に間に合わず、更新は夕方までにします!
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