第11話  恋に不器用な女と片想い①

その日の夜、集まって明日の計画を立てる予定だったが、「ごめん、叶夢かのんさんも、桃子ももこさんも寝ちゃって、私も眠いから…また明日ね」と美園みそのから内線が入った。

あれだけ飲んだらそりゃ眠くもなるだろう。

美園のかわいい声が聞こえただけでも良しとしよう。

「じゃあ僕らも寝ますか」

神原かんばらの一言で、明日は嵐山の方面を回ることだけ決めて、布団に入った。

浩太こうたの寝息がすぐ聞こえ始めた。


(美園ちゃんと旅行なんて夢みたいだな)


旅行での可愛らしい姿の美園が浮かんでは消えていく。


(いつか2人で…)


だんだん瞼が重くなって、次男つぐおもゆっくり眠りの中へ引きずり込まれていった。


翌朝はスマホが何度も震えて、次男つぐおは目が覚めた。

スマホを見ると、まだ5時だ。

表示には叶夢と出ている。

何度も何度もスタンプを押してきているようだ。


(なんだよ…)


次男つぐおが「何の用?」と送ると、「今すぐロビー」とだけ書かれている。

断る権利はないようだ。

次男つぐおは仕方なく、ロビーへ向かった。


叶夢がロビーをイライラしたように歩いている。


(まさかの不機嫌か)


次男つぐおが恐る恐る近づくと、「遅い!」と睨みつけてきた。

「なるべく早く来たよ」

「ふん、まぁいいわ。そんなことより教えてほしいのよ」


ドカッとロビーのソファーに座った。

そわそわしていて、いつもと様子が違う。

次男つぐおはため息をつくと、仕方なく正面に座った。


「何を教えてほしいの?」

「私…おかしいのよ。なんか気持ちが安定しないっていうか」


「はぁ?ホルモンのやつじゃないの?」

「バッ、バカ違うわよ!」


「じゃあどういう時に気持ちが落ち着かないの?」

「なんか神原に、綺麗ですね、叶夢さんって言われたでしょ?なんかあれ以来、調子悪いのよ、何度も何度もその時のことを思い出してしまって…」


「あのさ…それでなんでこんな気持ちになったんだろうとか聞くつもり?」

図星の顔をしている。


「早朝から勘弁してくれよ…」

次男つぐおは思わず頭を抱えた。


「何よ!次男にはわかるっていうの!?」

「高校生以上は大体わかるんじゃない?」

「どういうこと?」

「姉ちゃんは今までモテてきて、そういう気持ちを向けられることはあっても自分がそういう気持ちなったことなかったんだね」


次男つぐおは少し意地悪な気持ちになった。

日頃の仕返しだ。


「ようこそ、片想いの世界へ」


次男つぐおはそう言って、両手を広げた。


その後、朝食を食べるために叶夢は男子部屋に来たが、ぎこちない動きで大人しい。


(本当に恋愛経験なしなのか…もう28なのになぁ)


「おはようございます」

叶夢が神原に挨拶されて、「おはよ」と小さく呟いて、静かに座った。

次男は人生で初めて叶夢の大人しい姿をみた。

ただ、2人をその気にさえすれば大丈夫と思っていたが、叶夢のこの不器用すぎる様子を見るとそういうわけにはいかなさそうだ。

次男はため息をついた。

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