第7話 スーパーマンと運命の演出

「まさかだよなぁ」


大学の午前の講義を終え、カフェテリアで浩太こうたに昨日のことを報告すると、叶夢かのんが今まで付き合ったことがないと聞いて浩太も驚いていた。


次男つぐおの姉ちゃん、めっちゃ美人なのに、意外過ぎるよ」

「確かに姉ちゃんから彼氏の話を聞いたことないし、休みの日も基本的に家で夕方まで寝てるし、今思えばデートしてる様子なんて一切なかったんだよなぁ」

「いい寄る男なんていっぱいいただろうに」

「まぁ姉ちゃんのことだから、こだわりはきついだろうし、その辺の男じゃ満足できないのかも」


「きっと運命の人を待ってるんだよ」


可愛らしい声がして、振り返ると美園みそのが立っていた。


次男つぐおくんのお姉ちゃんの話聞こえちゃった」

そう言って、次男つぐおと浩太の向かい側に座った。


「お姉さんはきっと運命の、ビビッと来る人を待ってるんだよ」


「えぇ?うちの姉ちゃんはそんなタイプじゃないと思うんだけどなぁ」


「ううん、女の子は皆待ってるんだよ、運命の人に会えるのを」


「・・・美園ちゃんも?」


「もちろん」


「・・・美園ちゃんはどんな人がタイプなの?」


そう次男つぐおが聞くと、いたずらっぽく笑って「秘密」そう言って、授業だからと去っていった。


蛯名えびなって小悪魔だよな」

浩太がそう言った言葉が耳に入らないほど、次男つぐおはドキドキしていた。


◇◆◇


今日はアルバイトの日だ。

いつものように編集部に入ると、叶夢と目が合って一瞬睨まれる。

どうやら昨日の一件をまだ許してくれてはいないようだ。


「今日はこれをお願いします」

桃子ももこに言われて、アンケート集計に取り掛かる。

こういった単純作業やExcelを使うのが好きなこともあって、頼まれることが多い。


(今回はどんなアンケートかなっと)


アンケートを見てみると、「あなたは運命の恋に出会ったことはありますか?」とある。

クリスマスシーズンに向けて、どうやら恋をテーマにアンケートを取ったようだ。


Q1 運命だと思った理由は?

・旅行先で偶然出会った。

・誕生日、血液型が同じだった。

・好きな食べ物が同じで、笑いのツボも同じだった。


(色んな出会いがあるのだな)

次男つぐおはふむふむと頭にメモをした。


旅行先は難しいが、偶然の出会いは用意できるかもしれない。

次男つぐおは早速帰ったら歩夢あゆむと相談することに決め、引き続き作業に取り掛かった。


アンケート集計を終えると、コピーを頼まれたので、書類をコピー機にかける。

その間になんとなく編集部を見ていると、神原かんばらが慌てて入ってきた。


「やばいです!叶夢さん!」

「どうしたの?落ち着いて」


編集長も交えて話し合いをしている。

どうやらライターが約束の記事を書かないままに、連絡がつかなくなってしまったらしい。

次男つぐおは気になりつつも、自分が出来ることはないので、頼まれた仕事を淡々とこなしていくしかない。

次男つぐおが退勤時間になっても、叶夢はバタバタしていて、その日帰ってきたのは深夜だった。

翌日も珍しく叶夢は早起きして、ご飯も食べずに出社していった。


「お姉ちゃん、大変なの?」

歩夢に聞かれて、昨日の話をすると、歩夢はあらまぁという顔をして、パーカーのフードについているウサギの耳をぴょこぴょこいじった。


「こんな時に助けてくれるスーパーマンがいたらいいのにね」


イケメン長身の男に似合わないセリフを吐くと、歩夢はパーカーのフードを被ってうさぎになった。


◇◆◇


その日は次男つぐおも午前中からバイトだったので、編集部に入ると、殺気立ったオーラに包まれていた。

どうやら締め切りが近いらしく、そろそろ校了させないといけない時期らしい。

当然叶夢も真剣にパソコンと向き合っている。


そこにガチャっと扉が開き、崎矢が入ってきた。


「崎矢さん!」


叶夢が立ち上がると、「昨日依頼いただいた時にすぐにお返事できなくてすいませんでした」と崎矢が頭を下げた。


「そんな、だって、今日から海外で取材って」


「あぁ、大丈夫です。僕一人でいく取材ですし、上手いことスケジュール組み替えられたので」


「じゃあ、今回の記事を引き受けてくださるんですか?」


「もちろん、その為に来たので。何時までに仕上げれば?」


「13時までに」


「余裕です。資料ください」

そう言って、崎矢はミーティングルームに入っていった。


(スーパーマンいたよ・・・)


次男つぐおは崎矢の男らしさに惚れそうになった。

その後、次男つぐおは大学へ行ったので、どうなったのかはわからないが、叶夢がいつもより少し遅い程度で帰ってきたのと、鼻歌まじりのご機嫌だったことを考慮すると、どうやら上手くいったようだった。


◇◆◇


「これは作戦を仕掛ける時だと俺は思う!」


次男つぐおが歩夢に言うと、歩夢も「そうだね、いいかも」と賛成した。


「今回は運命の出会い大作戦で行こうと思う」


「運命の出会い大作戦?」


「街で偶然を装って出会って、今回のお礼に食事という流れにして、俺らは適当な理由をつけて帰るという作戦」


「すごく単純な作戦だね。だけど、いいかも」


「しかも俺の調査によると、崎矢さんは肉料理が好きで、姉ちゃんも大のお肉好きだろ?好みが合うってところもアピールできると思うんだよ」


「いいね」

「ってことで、この週末は運命の出会い大作戦決行だ!」


次男つぐおが高らかとこぶしを上げると、歩夢も「おぉ~」と手を挙げた。

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