第9話「新世界機構の影」



決勝戦を翌日に控えた夜。カイトは道場の裏山で、傷を癒やしていた。クロウとの激戦で負った火傷が、まだ僅かに痛む。


「やはり、ここにいたか」


轟が現れ、カイトに古びた写真を差し出した。そこには若かりし日の轟と、見覚えのある男の姿があった。


「サクラの父上...ですか?」


「ああ。そして、新世界機構の前身となる研究所のメンバーだ」


轟の表情が、月明かりに浮かび上がる。


「環境変動が起きる前、私たちはナノテクノロジーの研究をしていた。人類の未来のために」


その時、サクラが息を切らして駆けつけた。


「大変です!クロウが...クロウが新世界機構に連れて行かれそうに!」


三人が競技場に駆けつけた時、黒装束の男たちがクロウを取り囲んでいた。


「貴様の力は、我々のものだ」


「触るな!」


クロウの紅蓮魔斬が火を噴く。しかし、男たちは怯まない。


「その炎こそ、我々の求める力...」


「させるか!」


カイトの風が、黒装束の男たちを吹き飛ばす。サクラの氷の壁が、クロウを守る。


「おまえたち...」


クロウの目に、驚きの色が浮かぶ。


「なぜ、助けた」


「当たり前だろ。明日の決勝を前に、ライバルを取られてたまるか」


カイトの言葉に、クロウは小さく笑った。


「轟...!」


黒装束の男の一人が、轟を見て声を上げる。


「久しいな、加賀」


「裏切り者が、まだ生きていたとはな」


緊張が走る。しかし、その時、何者かの気配を感じ取った轟が叫ぶ。


「伏せろ!」


青い光線が、夜空を切り裂く。新たな敵の気配に、全員が身構える。


「明日の決勝...中止にした方がいいかもしれません」


サクラの進言に、カイトは首を振った。


「いや、むしろ開催する。奴らの目的を、はっきりさせるんだ」


轟は静かに頷いた。


「全ては、明日決まる」


夜風が、不穏な予感を運んでくる。決勝戦は、単なる試合以上の意味を持ち始めていた。

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