第4話「エール」
車谷「実は僕、風間さんとは知り合いと言うか…前に趣味で音楽活動してたとき、偶然お会いして、何度が一緒にご飯も行った事ありまして…。」
美香「まじ?実は車谷さんもすごい人?」
車谷「いや、僕は全然。ただ彼の作る曲はなんと言うか…独特なんですよね。独学で上り詰めた事もあって、感性でモノを作る感じが真似できないです…。それに多分歌詞の変更、受け入れてくれる気がしますよ。」
アカネ「え!?本当ですか…?」
車谷「まあ…そんな気がするだけで、まだわからないんですが…。」
アカネ「…車谷さん…。ご迷惑かもしれませんが、お願いしてもいいですか?やっぱりこの曲は私たちのデビュー曲になるので、私も自分の気持ち、曲げたくないんです。」
美香「曲がった事が大嫌い〜。HA〜RADA…」
葵「美香、今真剣な話。」
美香「すまん。」
車谷「わかりました。じゃあ僕はこの後事務所に戻るので、後で連絡してみます。」
アカネ「…ありがとうございます!」
美香「良かったな、アカネ。」
葵「私たちもアカネが納得しないまま、デビューするのは嫌だしね。」
アカネ「2人ともありがとう…。」
車谷「では、私は事務所に戻りますので、また新曲の事と、これからのスケジュールの詳細はメールに送りますので、また。」
アイドル3人「…お疲れ様です!」
車谷がスタジオを後にする。
アカネ「じゃあ、新曲はとりあえず置いといて、別の曲練習しますか!」
美香「そうだな!歌詞が変われば振付けも少し変わってくるだろうし。」
葵「だね〜。まあなんとかなるでしょ!別の曲練習しよう!」
3人はあれからスタジオで6時間の猛練習。
この暑い8月に、デビューまで追い込みをかける。
そして練習が終わり、外はもうすっかり暗くになっていた。
アカネ「じゃあ皆んなお疲れ様!」
美香「お疲れ!うちチャリで来たからここで!またね〜!葵、次は遅刻すんなよ〜。」
葵「はいはい、大丈夫です!もうしません!」
美香と別れ、アカネと葵は最寄り駅に向かって歩く。
アカネ「葵、今日はバイト休み?」
葵「うん!流石に1日練習の日は休みにしてもらってる。ふらっふらになるからさ。」
アカネ「確かに…。そうだよね。この後空いてるならご飯いく?」
葵「おっ!良いね〜。行っちゃいますか!」
アカネ「じゃああそこか。」
葵「あそこだね。」
3人は良く練習後にハンバーガーショップ「Burger Queen」に行っていた。
スタジオの最寄り駅から近く、メニューも女性向けのヘルシーなメニューが揃っていて、10代、20代の子が多い。
店に到着し、ハンバーガーを食べる2人、たわいもない話をしているとアカネの携帯にメールが届いた。
<新曲の歌詞変更について>
お疲れ様です。
風間さんに、歌詞変更の件をお話しさせていただいたところ、無理ではないがどうゆう気持ちで言っているのか、会って確認したいとのことです。
急ですが、新曲の練習などを考えると早くしないと間に合わないので、明日、午後15時に風間さんの自宅に、出来れば3人で行っていただけますでしょうか。
もしご都合が合わない場合は連絡ください。
車谷
アカネ「明日か…。葵明日って予定ある?」
葵「明日は1日フルでバイト。」
アカネ「だよね〜。急だからなあ。」
葵「どうかしたの?」
アカネ「車谷さんからメール来て、明日15時に風間さんの自宅に3人で来て欲しいってさ…。」
葵「自宅に…?明日私はちょっと無理かもなあ〜。シフト変更も無理そうだし…。」
アカネ「だよね…。美香はどうかな〜。ラインしてみよ。」
アカネ
[美香、明日予定ある?]
美香
[明日は昼からバイト]
[どした?]
アカネ
[車谷さんからで]
[明日風間さんの自宅に]
[3人で行けないかって]
美香
[急だな]
[さすがに無理っぽい]
アカネ
[大丈夫]
[出来れば3人でって]
[感じだったから]
[ありがと]
美香
[スタンプ]
葵「美香なんだって〜?」
アカネ「明日バイトだって〜。」
葵「あちゃ〜…って事はアカネ明日1人じゃん!!」
アカネ「…だよね。そうなるよね。」
葵「うわうわ、作曲家の人の家に、男女2人きり…きゃあー!」
アカネ「ちょっと、葵、静かに。」
葵「あ、ごめん。変な妄想入った。」
アカネ「風間さんも最近よく名前聞くようになったし、多分忙しい中、時間作ってくれたんだよね。私たちのために…。」
葵「そうだよね…。しかも自分が書いた歌詞に不満があるとか、めっちゃ怒られそう…。アカネ大丈夫かな?罵倒されたり、暴力されたり…そしてその後…きゃあー!!」
アカネ「葵やめて。私も知らない男の人んち行くの正直ちょっと恐い…。いくら作曲家の方でも。でも、デビュー曲の事だから。私たちの人生で1度のデビュー曲だから…。」
葵「そうだよね…。アカネはアイドルへの気持ちが3人の中で1番強いし…。私もアイドルになりたくてなれたけど、正直アカネの情熱には勝てないなあって出会ってから思ってるもん。」
アカネ「いや、みんな気持ちは一緒でしょ。私も、葵も、美香も、1万人もいるオーディションの中から選ばれたんだから。一緒に楽しもうよ!アイドル!」
葵「…そうだね!じゃあ、そろそろ帰ろっか!」
2人はBurger Queenを後にし、駅に向かいそれぞれ自宅へ戻った。
そして翌日の14時半。
アカネは車谷MGから送られて来た、風間の自宅の住所に向かっていた。
アカネ「ちょっと早すぎちゃったかな…。でも住所はここら辺のはず…。」
風間の自宅は世田谷区の住宅街。少しわかりにくい場所にあった。
アカネ「マンション名が…ストロークヒルかあ。ストロークヒル…ストロークヒル…。」
近くのマンションの名前を探しながらうろつくアカネ。
アカネ「あれ…ないんだけど…。どこだあ〜…。」
その時後ろから声をかけらた。
「もしかしてアカネさん?」
アカネはびっくりして振り向くと、風間が立っていた。
アカネ「はい、そうです!あ、風間さんですか?」
風間「はい、風間です。初めまして。」
アカネ「初めまして。あ、すいません自宅がわからなくて…ウロウロしてました…。」
風間「確かにわかりにくいよね、この辺。てか、早くない?」
アカネ「あ、すみません…早く着きすぎてしまって。」
風間「まあ全然良いんだけど。今コンビニで昼飯買って来たんだけど、家で食べながらでもいい?」
アカネ「もちろんです!あの…お忙しいのに…すみません。」
風間「いいって、大丈夫だよ。とりあえず立ち話もなんだから行きますか。」
アカネ「はい…。」
風間「てかまあ、うちそこのアパートだけど。」
アカネ「え…。」
アカネは驚いていた。風間は名が知れていた作曲家だったため、もっと良いマンションに住んでいると思い込んでいた。それがまさか、ボロアパートだったとは。
風間「ごめん、めっちゃボロアパートだけど…許して。」
アカネ「いや、全然大丈夫です…!すみません、ストロークヒルって名前もなんかマンションっぽかったので…。」
風間「だよね。この階段上がって2階の角部屋だから。」
階段を登り、風間がアカネを自宅へ招く。
風間「どうぞ、狭いけど。」
アカネ「お邪魔します…。」
アカネは風間の自宅に入って衝撃を受けた。6畳ほどのワンルームの部屋に、アカネたちのアイドルグループ「mynt(みんと)」のポスターが貼られていたのだ。
アカネ「えっ…!風間さんこれ…。」
風間「…。実は…。」
一瞬時が止まる。
風間「実はめっちゃファンです!!!」
アカネ「えー!!風間さん私たちの事、知っていたんですか?」
風間「はい!ライブも3回見に行きました!!」
アカネ「…確かにこのポスターは数量限定のコアなファンしか持っていないやつですね…。」
風間「そうです!初めてライブハウスで見た時から応援しています!」
アカネ「そうだったんですね…。あ、だから出来れば3人で来て欲しいって言ってたんですか?」
風間「すみません…!アカネさんに会えただけでも十分嬉しいんですが、出来たら3人と会えたらな…と。」
アカネ「ガチなやつですね…。」
風間「すみません、ガチ勢です。」
アカネ「…でも、嬉しいです!有名な作曲家の方が私たちを応援して下さってたなんて。」
風間「いやいや、とんでもない!だから正直楽曲制作のオファーがあった時、死ぬほど嬉しかったんだよね!」
アカネ「そんなそんな、私たちも応援してくださっている方に楽曲提供していただけるなんて、すごい嬉しいです!それで…今日お伺いした件なんですが…。」
風間「あ、車谷くんから聞いてるよ!とりあえず立ち話もあれなんで、座って下さい。何か飲みます?」
アカネ「あ、ありがとうございます。でもお茶持ってるので大丈夫です。」
カーペットの上に正座するアカネ。
風間「わかりました。それで、歌詞の件だよね?」
アカネ「はい…。」
風間「全然オッケー!変えよう変えよう!」
アカネ「え…!?良いんですか…?」
風間「全然良いよ〜!!音楽は作曲家と作詞家と歌い手から生まれる作品だろ〜?歌う人の気持ちも大切だよ。」
アカネ「あ、ありがとうございます…!こんなすんなり受け入れてもらえるなんて思いませんでした…。」
風間「いや、僕ももちろん作る時は曲の世界感に入り込むし、この音にはこの歌詞…って言う感じで作ってるから、歌詞を変えるとなると全体的に少し変えなきゃいけないかな…。」
アカネ「そうですよね…。すみません。」
風間「いや、謝らなくて良いよ。これは僕にとってもプラスになる事だと思ってるんだよ。」
アカネ「どうゆう事ですか?」
風間「いやまあ、今までも色々な曲を作って来たけど、そのほとんどが1人で作ったモノで、今回こうやって歌詞を変えたいって言ってくれた人が初めてだったから。」
アカネ「それってプラスな事なんですか…?」
風間「うん。これは僕の作曲人生の新たなスタートだと思ってるよ。自分の世界観と、他の人の世界観の融合。しかもその相手がmynt(みんと)のアカネさんだなんて…。」
アカネ「(なんか調子狂うな…)それで本題なのでますが…!」
風間「あ、うん。車谷くんから聞いてるよ。頑張れじゃなくて、頑張ってるにしたいんだよね。」
アカネ「…はい。」
風間「他のメンバーは、そのことについて納得しているの?」
アカネ「あ、はい!美香も葵も、私が納得した状態でデビューしたいって…。」
風間「おいおい…さすがmynt(みんと)。その絆の強さがあのパフォーマンスを生んでるのか…。それなら、早速変えて行こう。今日この後予定は?」
アカネ「…特にないです!」
風間「実は車谷くんから、ワンマンライブが近いから今日中に仕上げて欲しいって言われてるんだよね…。」
アカネ「今日中ですか…。でも確かにワンマンまでの練習とかあるし…早い方が…。私に何か手伝える事がなんでもします!」
風間「ありがとう!そしたら、歌詞を変えたいところ、具体的に教えて欲しい。あと、小さい声で良いから、途中何回か歌ってもらって良い?」
アカネ「もちろんです!なんでもやります!」
風間「で、まず頑張るを頑張ってるに変えたいんだよね?」
アカネ「はい…車谷MGにも話したんですけど、過去に色々あって、その時言われて嬉しかった言葉が、頑張ってるだったんです…。」
風間「なるほどな…。でもこの曲のタイトルは”エール!!” だからタイトルも変える?」
アカネ「いえ、タイトルはそのままがいいです…。頑張れを頑張ってるに変えられたら…。」
風間「ん〜、まあこれが私たちなりのエールって解釈をしてもらえればいいか…。そしたら頑張れを頑張ってるに変えるけど、他にもちょっと修正必要だな…。」
アカネ「1カ所変えるだけは難しいですか?」
風間「そりゃあちょっと無理があるな…音楽って言うのは、基本Aメロで景色や人物などを視覚的に訴えかけて、Bメロで過去を振り返ったりして、サビで1番伝えたい事を伝える。こうゆう流れが一般的だからな〜。」
(筆者の持論)
アカネ「なるほど…。そしたら頑張るの1カ所だけ変えるとなると、全体的に変えていかないといけないんですね…。」
風間「まあそうなるね…。でもなんとかなりそう。実は車谷くんから連絡が来てから、新しい歌詞とか考えてメモしてたから。」
アカネ「すごい…!さすが風間さん!」
風間「ウヒョー!アカネさんに褒められた…。」
アカネ「…(やっぱり調子狂うな)」
それから2人はお互いに話し合い、途中途中でアカネが歌ってみせ、無事曲が完成した。
時刻は18時を過ぎていた。
風間「…これ、いい。すごくいいぞ!」
アカネ「…風間さん。めっちゃいいです…。」
最後完成した音源を聴いた後、2人は自然とハイタッチしていた。
アカネ「てか、風間さん…そのビニール袋…。」
風間「あ〜、全然気にしないで。夜用の飯にするから。楽曲作ってるとさ、ご飯食べ忘れるのとか日常茶飯事だから。」
アカネ「…そうなんですか…。でも健康には気をつけて下さいね。じゃあ私はそろそろ家の手伝いがあるので帰ります。」
風間「うん。ありがとうね。音源は車谷MGに送っておくから、明日にでも皆んなに送られると思うよ。」
アカネ「ありがとうございます!」
風間「あ、ちょっと待って最後にこれだけ渡しておくよ。」
風間は歌詞をプリントアウトした。
風間「一応これ、3人いるから2枚ずつで6枚。新しい歌詞渡しておくよ。歌練とかで使うでしょ?」
アカネ「ありがとうございます!めっちゃ助かります!いつも家にコピー機ないから、コンビニでスマホの歌詞読み込んでコピーしてたので…。」
風間「是非、使って。初のワンマンライブ楽しみにしてるよ。」
アカネ「ありがとうござます!今日はほんとに何から何まで。」
風間「まあガチ勢ですからね〜!mynt(みんと)全力応援だぜ!」
アカネ「ふふふ。なんか風間さんのそのノリ慣れて来ました!じゃあ私はこれで。お邪魔しました〜。」
風間「あ、下まで送るよ!」
アカネ「大丈夫ですよ!それより早くご飯食べて下さいね!では失礼します!」
ドアが閉まりアカネは風間の自宅を後にする。風間の自宅から駅に向かう道中、新曲「エール!!」の歌詞がずっとアカネの頭に流れていた。そして口ずさむ。
”頑張っている君を私達だけは知ってるよ”
”心からのエールを送るよ”
アカネ「良い歌詞だな。電車で今日のこと2人にラインしよ。」
そしてアカネは自宅に戻った。
この日ついに、夢見アカネ、茶山美香、水川葵からなる3人グループ、mynt(みんと)のメジャーデビュー曲となる「エール!!」が改めて完成。
そしてmynt(みんと)は初のワンマンライブ当日を迎える。
つづく
画面ごしの君に恋をした ダッテー @dattee24
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