Midnight EX

冴えない走り屋

第1話 首都高-

序章:上京と夜の首都高


蒼井ヒロキは、父親から受け継いだ真紅のマツダRX-7 spirit-R(FD3S)に乗り込むたびに、胸の奥から湧き上がる情熱を感じていた。21歳、地方から東京に出てきたばかりの彼にとって、首都高は新しい挑戦の舞台だった。


かつて地元・箱根で磨いたテクニックは自信に満ちていたが、首都高の世界はその想像を超えるものだった。無数の車たちが流れる夜の首都高は、都会のネオンとともに生きているかのようだった。


「今夜も行くか...」


アルバイトを終えた蒼井は、自宅アパートの駐車場に停めたFDのドアを開け、シートに体を沈めた。ロータリーエンジンの独特な鼓動が耳に心地よく響き渡る。エンジン音とともに高まる期待を胸に、彼はアクセルを踏み込んだ。



その夜、蒼井はC1外回りの銀座線に差し掛かった。ネオン街を滑るように進む中、バックミラーに一台のシルビアが映った。鋭いヘッドライトが彼の視線を捉えた。


「おもしろいな...」


シルビアS15 Spec-R。見た目からして本気仕様だ。バックタービンの音とGTウイングがその性能を物語っている。蒼井はすかさず加速し、シルビアに挑戦状を叩きつけた。


瞬間、シルビアが答えるように加速する。両者の車が首都高のネオンの中で競り合う。蒼井はFDを全開にし、ハンドリングを駆使してコーナーを攻めた。


だが、直線に入ると様相は一変する。シルビアがそのターボの力を存分に発揮し、蒼井のFDを引き離していく。


「くそっ...!」


一ノ橋から赤坂に至る長い直線で、蒼井は最高速の差をまざまざと見せつけられた。コーナーでは勝負できる自信があったが、直線での圧倒的な速度差には歯が立たなかった。


赤坂で勝負が決まり、シルビアはウインカーを点滅させ、軽く減速した。まるで礼を言うかのような仕草だ。蒼井も減速し、彼の脳裏には敗北の苦味が渦巻いていた。


「俺が甘かった...」


この首都高では、スピードだけでなく、車のセッティング、経験、そして心の強さが全てを決める。蒼井は自分の過信を痛感しながら、FDを静かに駐車場へ戻した。



翌日、大学の講義中、蒼井はノートパソコンを開き、真剣にカーアフターパーツを調べていた。エアロパーツ、ターボキット、サスペンションチューニング――彼の目は真剣そのものだった。


「やっぱり、最高速仕様にするには...」


そんな時、後ろから声がかかった。


「お前、FD乗ってるのか?」


振り向くと、西野アレトが立っていた。蒼井と同じ21歳、同じ大学の学生だ。


「昨日、首都高で走ってたの、お前だろ?」


蒼井は驚きを隠せなかった。


「なぜ、それを...」


西野は軽く笑いながら頷いた。


「大学の駐車場に停めてんの見えたんだよ。昨日、俺に銀座辺りでバトルしただろ。」そう、彼は昨日バトルをしたシルビアのドライバーだった。


二人は自然と車の話題で盛り上がり、気づけば夜にドライブへ行く約束をしていた。


芝浦PAでの再会...


その夜、芝浦PAに到着した蒼井を待っていたのは、やはりあのシルビアだった。エンジンを切り、車を降りた西野は手を振る。


「やっぱり来たな。」


蒼井は苦笑しながら車を降りる。


「お前、ずいぶん前から首都高を走ってるって本当か?」


「まあな。俺のシルビアはC1外回り専用にセッティングしてある。」


蒼井は改めて西野のシルビアを見た。そのGTウイングの存在感、空力を考え抜かれたフォルム。確かにC1での直線勝負では敵なしだろう。


「でもお前のFDも悪くない。峠仕様なのが惜しいくらいだ。」


二人はその後、再び首都高に繰り出した。シルビアの直線番長ぶりと、FDのコーナリング性能を活かした走り。お互いの違いを認めながらも、二人は徐々に仲間意識を深めていく。



「首都高は奥が深いぞ。」


西野の言葉に頷きながら、蒼井は新しい世界への期待に胸を膨らませた。首都高の夜は長い。これからの挑戦に向け、彼の目は再び輝きを取り戻していた。


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