第5話「物語を紡ぐ力」
「もう一度!」
夜明け前のバトルホール。空は何度も「紡ぎ手の戦士」を呼び出しては、その動きを確認していた。
クラウドとの戦いから三日。負けた理由を掴もうと、休むことなく特訓を続けていた。
「これじゃない……何かが、違う」
「疲れているのね」
アリアが、温かい飲み物の入った杯を差し出す。
「ありがとう」
空は一息つきながら、カードを見つめる。
「クラウドの言っていた『真の物語』って、何なんだろう」
「その答えなら、この老人にも心当たりがあるぞ」
振り返ると、「忘れじの書架」の店主が立っていた。
*
「物語とは、記憶だけではない」
店の奥の書斎で、店主は古い本を開きながら語り始めた。
「喜び、悲しみ、怒り、そして希望。感情があってこそ、物語は命を持つ」
「感情……」
「お主の戦士は、まだ挫折の記憶に縛られておる。それでは真の力は引き出せん」
空は黙って自分のカードを見る。確かに、戦士の姿はまだ暗い影を宿したままだった。
「では、どうすれば」
「心を開け。記憶と向き合い、そして乗り越えよ」
店主は立ち上がり、古びた箱を取り出した。
「これを使うがよい」
中から現れたのは、一枚の鏡のようなカード。
「内省の鏡」と書かれている。
「このカードと共に瞑想するのじゃ。お主の物語の、真の姿が見えるはずじゃ」
*
静寂の中、空は「内省の鏡」を胸に当てて目を閉じる。
そこに現れたのは、決勝戦の記憶。不当な判定。怒りと悔しさ。しかし――
(その先に、何があった?)
光が差し込む。そうだ。あの時も、カードは自分に応えてくれた。最後まで、共に戦ってくれた。
「紡ぎ手の戦士」が、かすかに明滅する。
(負けた。でも、それは終わりじゃない)
記憶は続いていく。新しい世界での出会い。アリアとの約束。そして――
「見えてきた」
空が目を開けた時、戦士の姿が変わっていた。鎧の傷は消え、新たな光を纏っている。
「これが、私たちの物語?」
アリアが、自身のカードを見つめる。それはまだ霧に包まれたままだ。
「ああ。そしてこれは、始まりに過ぎない」
「物語は、まだ紡がれ続けるのじゃな」
店主が静かに微笑む。
窓の外、夜明けの光が差し込んでいた。新たな物語の幕開けを、予感させるように。
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