『カードメモリー・セイバー』~記憶を守る姫と紡ぐ異世界最強カードバトル~

ソコニ

第1話「異世界で目覚めた物語」



薄暗い部屋の中、霧島空は愛用のカードデッキを何度も確かめるように見つめていた。二十二歳。元プロゲーマー。そして今は、ただの引きこもり。


「あれは反則じゃなかった……」


一年前の世界大会決勝。勝利目前で下された不当な反則判定。あの日以来、空はカード一枚触れないでいた。ただ、このデッキだけは手放せなかった。


窓から差し込む夕陽が、デッキの一番上のカードを赤く染める。懐かしい相棒。幾度となく勝利をもたらしてくれた「紡ぎ手の戦士」。


その時、カードが淡く光り始めた。


「なっ!?」


部屋全体が眩い光に包まれる。空は反射的にデッキを胸に抱きしめた。体が浮き上がる感覚。そして、意識が遠のいていく。



「ここは……?」


目覚めた場所は、見知らぬ街の路地裏だった。石畳の道。中世ヨーロッパを思わせる建築。そして何より、空気が違う。かすかに魔力めいたものを感じる。


「異世界、か」


漫画やアニメで見た光景そのものだ。混乱する間もなく、通りから悲鳴が聞こえてきた。


「誰か助けて!」


若い女性が、二人の男に追われている。男たちの手には、カードらしきものが。


「カード?」


思わずポケットを確認する。転移前に抱きしめていたデッキは無事だった。だが、カードが違う。デザインも質感も、微妙に異なる。


「やめろ!」


空は咄嗟に飛び出した。男たちの前に立ちはだかる。


「邪魔すんな。物語を持たないガキが」


「物語?」


困惑する空。しかし、この状況で考えている暇はない。デッキから一枚、「紡ぎ手の戦士」を抜く。


その瞬間、不思議な感覚が全身を包んだ。カードが、空の記憶に反応している。今までの戦い、喜び、そして悔しさ。全てが光となってカードに流れ込む。


「紡ぎ手の戦士!」


カードが眩く輝き、実体化した戦士が現れた。しかし、それは空の知る姿とは違っていた。鎧は傷だらけ。そして瞳には、決勝戦で味わった悔しさが宿っている。


「なっ!」


男たちが驚いて後じさる。戦士は一瞬で距離を詰め、二人を組み伏せた。


「こいつ、記憶と共鳴してやがる!」

「逃げるぞ!」


男たちは慌てて走り去る。女性は深々と頭を下げ、去っていった。


空は、まだ光を放つカードを見つめる。確かな手応え。このカードは、自分の記憶と感情を映し出していた。


「物語、か……」


異世界で、新たな物語が始まろうとしていた。

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