25話 罪悪感

「ミラアルクちゃんっ!!」



エルザからの報告を受けて、ヴァネッサはレヴィーナにトドメの蹴りを食らわせた後、進也を抱えて急いで神谷邸へ帰っていた。自分の仲間が、家族が重症を負ったと聞いて、いつもは淑やかに振る舞うヴァネッサも、この時ばかりは慌てた様子だ。


そんなヴァネッサを、家の主である紗綾が出迎えると、ヴァネッサに抱えられた進也を見て、目を丸くする。



「進也!!」


「早く手当してあげて。で、ミラアルクちゃんは?」



ヴァネッサが進也を紗綾に託して、ミラアルクの事を訊ねると、ミラアルクが眠っている部屋に案内した。



「こっち」



案内された部屋には、手当てを受けたであろうミラアルクがベッドで眠っており、その傍ではエルザが悲痛な表情で介抱していた。


前世でもこういう構図があったが、確かあの時は逆だった気がする。



「一応出血が酷かったのと、傷が深かったから、消毒と止血、後輸血もしておいたわ」


「そう、何から何までありがとう」



紗綾からミラアルクの容態について説明を聞いていると、エルザがヴァネッサが帰ってきた事に気がつく。エルザはヴァネッサの顔を見た瞬間、今まで我慢していたのだろう。ヴァネッサの顔を見るなり、大粒の涙を流し始めた。



「わたくしめのせいで......ミラアルクが......ミラアルクが......」



肩を震わせながら泣くエルザの姿が、何だかいつもより小さく見え、ヴァネッサは居ても立っても居られなくなる。ヴァネッサはゆっくりエルザに歩み寄ると、エルザのその小さな身体を抱き締めて言った。



「エルザちゃんは悪くない、ない。だってあの時、エルザちゃんが敵を足止めしてくれていなかったら、私はクリスタル水晶に辿り着けなかったもの」



「それに」と更にヴァネッサは言葉を続ける。



「ミラアルクちゃんだって、エルザちゃんが大切だから自分の身を挺して、守ったと思うのよ。だからそんなに自分を責めるんじゃありません」



ヴァネッサがエルザの頭を撫でながら、優しく言うと、涙に濡れた顔をヴァネッサの身体から離す。



「それ私もさっき言ったんだけど、流石に付き合いの長いあんたの慰めの方が効くわね」



進也の手当を終わらせた紗綾が、少し呆れた様子で笑いながら言ってくる。進也はミラアルクの隣のベッドに寝かせられていた。



「進也は大丈夫でありますか?」



涙を拭いながら訊ねるエルザに、紗綾が答える。



「えぇ、何か毒を体内に仕込まれていたみたいだけど、コイツを飲ませたから大丈夫よ」


「「それは何(でありますか)?」」



紗綾が、得意げな笑みを浮かべながら見せたソレは、金色の液体が入った小さな小瓶だった。正体不明の液体を突然見せられ、エルザとヴァネッサは思わず同時に声を上げる。


だが紗綾は、そんな二人の顔の前に「待った」とでも言うように、手を前に出す。



「その前にヴァネッサ。話すことがあるでしょ? クリスタル水晶の事」



サファイアの様な青い瞳で真っ直ぐ見つめられ、ヴァネッサは口を真一文字に紡ぐ。エルザにあんな事を言ったが、クリスタル水晶は手に入れられていない。


自分が絶対見つけてくると言ったのに、せっかく仲間がチャンスを作ってくれたのに、自分はそれを無駄にしたのだ。



「ヴァネッサ? どうしたでありますか?」



何も答えられずに居るヴァネッサに痺れを切らしたのか、エルザが不思議そうに問いかける。だが紗綾は察したようだ。ため息を吐くと、ヴァネッサが言えずにいることを代わりに言ってくれた。



「あーつまり、クリスタル水晶は手元にはないと言うことね」


「そういうことに...なるわね。でもね、お姉ちゃん確かに見つけたのよ? ただなんて言うか、その......」



図星を突かれ、しどろもどろになるヴァネッサ。



「その様子だと、何か訳ありでありますね」


「まぁ、そういう事になるわね。でもせっかくだから、事情を話すならミラアルクちゃんと進也ちゃん、秋菜ちゃんが揃ってる時に話したいわ。それでいいかしら?」



大事な事なので、みんなに知っておいて欲しいと思ったのだ。ヴァネッサが問うと、エルザと紗綾は、ヴァネッサの真意を汲み取ったのか素直に頷いた。





































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