22話 無力感

「うっ...」



エルザは、自分の身体が誰かに抱き留められた衝撃で目を覚ます。


顔を上げると、エルザの身体を抱いてくれていたのは、意外にも紗綾だった。だが紗綾は、エルザが目を覚ました事になど、全く気づいておらず、ひどく驚愕した様子で、別の場所に視線が釘付けになっていた。


一体何が何だか分からず、自分も気になって、紗綾が視線を向けている方へ、顔を動かす。




その瞬間。




エルザの目の前には、悪夢のような光景が広がった。



前世から同じ願いの為に戦いを共にし、また自身も同じ境遇に立たされていたからこそ、苦しみや痛みを唯一分かち合える、エルザにとってかけがえのない存在の一人、ミラアルクが数多ものヘビに腹を貫かれている......



そんな悪夢のような光景が......



「ミラアルクッ!! マジかよっ!!」



それを見た進也が、お腹から血を流しながら、落下してくるミラアルクを、お姫様抱っこでキャッチする。


エルザは、それを目の当たりにした瞬間、自分の中でナニカが崩壊していくのを感じた。





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」





エルザは頭を抱えて、絶望の咆哮を上げる。と同時に次の瞬間。



「よくも、ミラアルクをっ!!!!」



ミラアルクの腹から、ヘビに変えた腕を引き抜くと、他愛もないと言った表情でまた進也に向き直るレヴィーナに飛び掛かろうとする。


そこで紗綾は、ようやくエルザの目が覚めている事に気付いたのだろう。



「良しなさい!! あんたが敵う相手じゃないって!!」



エルザの身体は、紗綾によって引き止められる。それでも、仲間に重症を負わせた敵が目の前に居ると言うのに、ジッとなんかしていられるわけがない。



「離すでありますっ!!!」



エルザは紗綾の腕を振り解くと、テールアタッチメントを自身の尾骨に装着し、レヴィーナへ攻撃を仕掛けようと、ドラゴンから飛び降りる。



「ウォォォォォ!!」



狼のような咆哮を上げながら、自分の方へ向かってくるエルザを見ても、レヴィーナを微動だにしない。それどころか、不敵な笑みを浮かべるばかりだった。


そう、レヴィーナは確信しているのだ。自分の力が、エルザより数段上だということを。



「せっかく仲間が助けてくれたのに、バカな子」



そう言うと、ミラアルクにしたのと同じように、エルザの腹も貫こうと、上空から飛びかかるエルザ目がけて、ヘビの腕を伸ばしてくる。


だがヘビの腕がエルザの腹を貫く事はなかった。



「うぇっ!?」



気づけばエルザは、金色のドラゴンの背の上に乗っていた。そう、紗綾が乗っている謎のドラゴンによって、助けられたのだ。



「全く、世話が焼けるわねっ!!」



そう不満を溢しながら、今度はどういう原理で操っているのかは分からないが、ドラゴンを急降下させると、進也の方に向かう。



「進也、ミラアルクは私が」


「あぁ、早く手当てしてやってくれ」



そう言って進也が、ぐったりしているミラアルクを優しくドラゴンの背に乗せると、ドラゴンは再び上昇し戦場を後にする。






「ミラアルク、わたくしめのせいで...」



そんな最中、瀕死のミラアルクを見て、エルザの心を次に支配したのは無力感だった。自分が弱いばかりに、ミラアルクがこんな目に遭ってしまった。


自分は、今まで仲間の為に何か出来たか?


守られてばかりで、足手纏いになっているのではないか?


思えばミラアルクは、いつも守る側で自分の事は、二の次だ。


エルザは自身の無力さを改めて痛感し、奥歯を噛み締める。


そんな悲痛に顔を歪めるエルザの肩に優しく手を置くものが居た。紗綾だ。



「そんな顔しないの。せっかくミラアルクが守ってくれたんだから。前世で大量虐殺した奴が、自分を犠牲にしてまで守ってくれるなんて、あんたの事が相当大事な証拠でしょ? 大丈夫よ、すぐに手当てすれば、またいつもの元気なコイツに戻るから」


「紗綾...」



無力感が完全に消え去った訳ではない。だが紗綾の言うように、ミラアルクに自分がそこまでして大切に思われているのであれば、今自分に出来ることは、ミラアルクが目覚めた時、「自分のせいでごめんなさい」と''謝る''のではなく、「ありがとう」と''お礼''を言う事だと思ったのだった。













































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