18話 深い眠りから覚めた時
「ほーら娘よ、久しぶりの餌だ。今日は、人間だぞ」
「つ、次こそは、絶対奴を連れてきますから!! どうか、それだけはっ!!」
円柱水槽に入れられている朝日未来は、低くくぐもった不気味な声と、男の焦燥感に満ちた声で、深い眠りから覚める。瞳はどこまでも真っ黒で輝きがなく、顔には以前のような明るい表情はどこにもない。
円柱水槽のガラスが下にスライドされると、未来は目の前の餌に食い付いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
辺りには男の悲鳴と共に、ヴァイオレットの床に血飛沫が飛び散る。この男は昨日進也、ミラアルク、エルザに尻尾を巻いて逃げ帰ってきた男だった。''覚えとけ''と言っていたが、まさかあれが最期になるとは、思ってもいなかっただろう。
未来は一心不乱になって男の身体を食べ続ける。口元が血で真っ赤になっている事も気にせず、ただただ人の肉を頬張り続けた。
だがしばらくすると、肉片を持っていた少女の手が止まる。そして次は、ガタガタと震え出した。
「お兄ちゃん...」
未来の口から微かに聞こえた声。その瞬間、未来の目に自分の血に染まった手と、目の前に無惨に転がった男の亡骸が映る。
そして口の中に広がる鉄の味。未来は全てを察すと、激しく嘔吐する。
「おえっっっっ!!!! ゴホッ!! ゴホッ!!」
自分が人を食い殺してしまったという耐え難い現実を突き付けられた未来は、罪悪感とショックと絶望で頭の中が真っ白になっていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
未来のけたたましい咆哮が部屋に響き渡る。異常に取り乱す未来の姿を見て、アグリーは渋面を浮かべた。
「くそっ! 正気に戻ったか!!」
そしてアグリーが両手を前に出したかと思うと、手から禍々しい黒いオーラが放射される。放射されたオーラは、未来の身体を包み込むように纏わる。
「う、うぅぅ...」
頭を抱えながらその場にうずくまる未来。自分が自分じゃなくなるような感覚だった。このまま自分を見失ってはいけないと頭では分かっていても、得体の知れない何かから自分の心を侵食されていく感覚。
「お、にい、ちゃん......お、ねぇ、ちゃん......」
自分が自分である為に、必死で自分が大好きな人達の名前を呼ぶ。
「何!? ならば、これでどうだ!」
だがアグリーがそれを許すわけがなく、更に強力にしたマイナスオーラを未来に向かって放射した。
「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
一瞬だけ元の輝きを取り戻した未来の瞳だが、禍々しい黒いオーラにその身を包まれると、再び輝きを失い意思をも失う。
もう自分が誰なのか分からない。
「さぁ娘よ、再びこの中に戻れ」
アグリーは円柱水槽を指差し、命令する。意思を失った未来は、アグリーの命令に従い、再び深い眠りについた。
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