15話 人殺しの十字架

ミラアルクに頸動脈を掻っ切られた男は、傷口から大量の血の噴水を撒き散らし、その場にドサリと倒れる。


少女は驚いた表情で、ミラアルクを見ていたが、そんな事はどうでも良かった。



「ごめん、だゼ」



なぜ謝られているのか分からないのだろう。きょとんとした顔でミラアルクの方を見ていたかと思うと、次はミラアルクの後方を見て叫び声を上げた。



「キャァァァァァァァ!!」



その叫び声で咄嗟に後ろを振り向くミラアルク。



「この化け物がッ!」



振り向くと男が日本刀を振り上げてきていた。それを紙一重で躱わすミラアルク。刀が掠ったのだろう。頬から少し血が出る。



「チッ!! おい朝日進也!! コイツらただの人間にしちゃあ、変だゼ」



ミラアルクは背中の羽を引っこ抜くと、それをブーメランにして、男達目がけて投げつける。ブーメランは正面に居た男達に命中すると、またミラアルクの手元に戻ってきた。



「くそっ! 化け物共め、覚えてやがれ!!!」



一人だけ生き残った男がそう吐き捨てると諦めたのか、退散していった。



「...もう大丈夫だゼ。あんまり彷徨いてると危ないゼ? 今日はもう帰りな」



男が去っていった方向を見ながら、ミラアルクがそう言うと、少女は顔に笑みを浮かべて言った。



「ありがとう」


「ありがとうだと? 前世にウチがお前にやった事覚えてないのか?」



ミラアルクが問うと、少女は何の事か分からないと言った表情をする。そんなあまりにも無垢な少女の顔を見て、今自分を助けた女が前世に自分を殺した女なんて残酷な事実を述べられるはずもない。



「まぁいいゼ、知らない方が特することもあるゼ」



独り言のように呟くミラアルクに、進也とエルザが助けを求める声を上げる。



「おいミラアルク、俺たちのこれもどうにかしてくれ」


「ベトベトしてて気持ち悪いであります」


「あ、あぁ」





あれからミラアルク、ミラアルクに助けられたエルザ、進也の三人は、帰路に着いていた。



「結局敵の事は何も分からなかったゼ」


「そうでありますね。でも少し気になる事があるであります。何で人間がこの世界を支配している化け物の配下についてるでありますか? それにあの打たれ強さには、少し違和感を感じたであります」


「俺はまだ人間が生き残ってたことに驚きだな」



その言葉を聞いて、ミラアルクの表情が少し暗くなる。



「どうしたでありますか? ミラアルク」


「いや、ウチはあんな綺麗な歌声を響かせる事が出来る奴の命をこの手で奪ってしまったんだなって。前世のアイツもきっといつかは、ステージで歌うことを夢見ていたに違いないゼ」


「ミラアルク、何もミラアルクだけが罪を背負う事はないでありますよ。わたくしめらは、いつだって一緒であります。勿論、人殺しの十字架を背負う時も。だからあまり自分一人で背追い込まないで欲しいでありますよ」



どんな手を使ってでも守ると誓った相手に慰められるとは、何とも情けない話だった。



「良い仲間じゃねぇか」


「あぁ、最高の仲間だゼ」



夕焼け色に染まる帰り道を歩きながら、ミラアルクはエルザの頭に、優しく手を置いて言うのだった。














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