第15話 you are mysterious

mission15: you are mysterious


「………で?何か言うことは?」

高圧的に目の前にいる人物を見下ろし、睨む。

「……申し訳ありません…」

目の前の人物ーーメイドは、正座をして反省の色を示しているものの、僕の視線から目を逸らしている。

こうなった原因は、朝あるものを目撃したからである。

基礎体力の訓練以降、自身の体力の無さを痛感した僕は、毎朝ランニングをすることを決意した。

目標を掲げてから早3ヶ月。

冬の寒さも、暖かさが勝ってきた今日この頃…季節はすっかり春となり、ランニングする時の寒さも堪えなくなってきた。

辛くなくなってきたのは、寒さだけでは無い。

3ヶ月も続けてきたおかげか、だいぶ体力が着いてきた気がする。

その証拠に、メイドに課されたメニュー(腹筋やストレッチ×100など、いわゆる筋トレだ)もよりしっかりと、持続的に出来るようになった。

そして、同時に毒耐性も付けてきたので、だいぶ毒にも慣れてきている。

腹痛や目眩など軽い症状は、ほとんど感じなくなったが、吐き気は少しするがしばらくしたら無くなる…と言うのが現状だ。

……と、だいぶ話が逸れてきたので、戻そう。

そんな僕は、今朝も日課のランニングをいつも通り終えて屋敷へと戻ってきたのだが。

今日は、"いつも通り"の景色ではなかった。

「………え?」

壊れていたのだ…2階の左端の窓が。

あまりに信じられず目をつぶり、もう一度目を開けるがまだ信じられず、ゴシゴシと目を擦り再度目を開け、ようやく状況を飲み込むことが出来た。

窓が、壊れている。割れている…では無い。

"半壊"と言う言葉を使った方が適切かもしれない。

窓ガラスだけでなく、窓枠も壊れ、周りの壁も少しだけ巻き添えを食らっている。

なぜたった一夜で窓が?

そう不思議に思ったところで、あることに気づく。

「…メイドの部屋?」

そう。あそこはメイドの部屋があるはずだ。

納得したくないが、納得してしまう。

メイドは殺し屋だ。何者かに狙われてもおかしくない。

聞けば、結構優秀な殺し屋だと言う。逆恨みも復讐も、沢山あるだろう。

「いや、そんなまさか…」

半信半疑でとりあえず屋敷へ戻る。

…と、その時。

「……あ、ご主人様…」

気まずそうな顔ーーしまったと言う表情とも言えるかもしれないーーのメイドが、何やら梯子や工具を抱えて目の前に立っていた。

今から外へ向かう、と言う雰囲気だ。

それは言うまでもなく、『隠蔽工作』である。

メイドはそっと横を通り過ぎようとするが、僕が許すわけなくーー

「…話を聞こうか、メイド?」

怒りを含んだ、ニコニコとした笑みを浮かべながら、メイドの腕を掴むのだった。


         ***


時を戻し、現在。

出ていこうとしたメイドを捕まえ、その場で正座させたのだが…

「…で?なんであぁなった…一応僕の屋敷なんだが」

「……ご主人様が予想していらっしゃる通り、敵が侵入して来たので深夜に対処したんです」

僕が予測を立てたように、メイドも予想していたらしい。

そして、その予想はあっていたようだ。

「もうちょっと被害を抑えられなかったのか?……と言うか、僕は良く気づかなかったな…」

いくらぐっすり眠っていたとは言え、さすがにあれほどの損害の事故には気づこう。

不思議に思う僕を見ながら、メイドはいつもの調子で微笑む。

「…あぁ…それは簡単ですよ。いつも訓練後にお出ししているお茶があるでしょう?あれにはご主人様が寝るタイミングに合わせて、”眠くなる”どk…作用を含んでいるんです」

「…おい。今毒って言いかけただろ」

半目で睨みつつ、自分もまだまだだなと知らされた。

毒を盛られていたことに気づかなかったこともそうだが、効いている…と言うことは、まだまだ耐性がないと言うことだ。

一年も経っていないので、当たり前のことかもしれない。

だが、僕には時間がないのだ。

このメイドは殺し屋であり、殺人鬼。

いつこの関係に飽きて、殺されてもおかしくない。

じわじわと胸の内に焦りが生まれる。

「……焦る必要はございませんよ、ご主人様」

まるで僕の思考を読んだかのような、優しい言葉。

「私は訓練を止めることはないですし、裏切るつもりも毛頭ありません。”普通の人間”がすぐ馴染むことなんてないですから」

それと、とメイドは続ける。

「……話は変わりますけど、今回の敵は少々厄介だったんですよ。体術はめっきり弱いんですけど、毒使いなのがネックでして…はぁ。今思い出しただけでも面倒です」

「…随分親しげだな。仲間だったのか?」

言葉からして、敵のことを良く知っているように感じた。

もし、予想通り『師』とやらが率いる組織の仲間なら、相当強いはず。

なら、あの損害にも納得がいく。

力量差があるなら、そもそもあんな損害が出るまで長引かないからだ。

「……さぁ…どうでしょうかね?」

一瞬驚いたかのように目を見開いた…気がしたが、すぐに読み取れない表情に戻ったのだった。

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