第5話: 戦いの始まり

貂蝉の懇願により、董卓はついに本格的に酒を断つ努力を始める決意を固めた。それまで、酒を飲むことで孤独や重圧を紛らわせてきた董卓にとって、この挑戦は簡単なものではなかった。


ある朝、董卓は静かな表情で座りながら酒壺をじっと見つめていた。その手は震えているようだったが、彼は自らに言い聞かせるように、そっと酒壺から目を逸らした。その様子を見ていた貂蝉が、そっと彼に近づいた。


「董卓様、大丈夫ですか?」貂蝉は優しく問いかけた。


「貂蝉……酒を手放すのは、思った以上に苦しいものだ」と彼は苦笑した。「手が勝手に酒を求めようとする。心が叫んでいるようだ」


貂蝉はそっとうなずきながら、彼の隣に座った。「それは当然のことです。これまで長い間、酒があなたの支えだったのですから。しかし、私は信じています。あなたならばきっと乗り越えられると」


貂蝉の言葉に力を得た董卓は、一瞬目を閉じると、大きく深呼吸をした。「お前がそう言ってくれるのなら……もう少し、頑張ってみよう」


その日の夜、董卓は再び酒の誘惑に苦しめられた。宴会の席では、彼の部下たちが酒を酌み交わし、大声で笑い合っている。その光景を横目に見ながら、董卓は拳を握りしめた。


そんな彼の様子に気づいた貂蝉が、静かに彼の背後に立ち、そっと肩に手を置いた。「董卓様、ここを離れましょう」


彼女の声は穏やかだったが、強い意志が感じられた。董卓は小さくうなずき、宴の席を後にした。


部屋に戻ると、董卓は椅子に深く腰を下ろし、苦しげにため息をついた。「貂蝉、お前の言葉がなければ、私はまた酒に手を伸ばしていたかもしれない」


貂蝉は彼の前に立ち、静かに言葉を続けた。「あなたが酒を断つことは、ただ酒をやめるだけではありません。自分自身と向き合い、これまでの重荷を乗り越えることなのです。そして、私はその旅路に寄り添います。ですから、どうか私を信じてください」


そう言うと、貂蝉は彼の顔をそっと自分の胸元に引き寄せた。「あなたは一人ではありません。私がいます」


董卓の目に、初めて涙が浮かんだ。その涙は、彼がこれまで抑え込んできた孤独や恐れが溶け出した瞬間だったのかもしれない。


この日から、董卓の酒を断つ戦いが本格的に始まった。彼の隣には常に貂蝉が寄り添い、彼の心を支えていた。だが、この試練は単なる酒との戦いだけでは終わらない。周囲の者たちの視線や陰謀が、徐々に二人の関係に影を落とし始めていたのだ。

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