第16話 戦線布告

「ようし、一斉に送信だ!」


 戦線布告の文字が、魔素子メールに乗って各国へ飛んで行く。


「よし、皆んなこれで後戻りは出来ないからな」


「戦線布告ってメールでするの?」


「じゃあ何でするんだよ、リリィ」


「わかんないわよ私だって!」


「でもコレで後戻り出来ない」


 ペコが真剣な顔で言った。


「そうだコレで後戻り出来ないし、させない」


 皆んなが息を呑むのが解った、緊張しているのだ。


 チャムもそれを見て緊張してきた。


「コウシン、ちょっと来てくれ」


「御意」


「皆んな、第二部隊の奴だけこっち集まってくれや」


 第二部隊は、ペコ、ヒューイ隊、リリィ隊、ゴンタ隊たちで構成されている。


「第二部隊の軍師に入るコウシンだ」


「御意、軍師を勤めさせて頂きます、コウシンです」


 皆んなが動揺した。


「私が来たからには、この戦線 絶対 勝ちますから」


 クスクスと至る所から聞こえてくる。


「このコウシン誰の命も失わさせない、約束しよう」


 クスクスの笑いがゲラゲラに変わった。


 誰もコウシンのことは信用していないのだ、そのくせに大きなコトを言うからだ。


 しかし、この間の件から俺には少し違う感覚で見えていた。


 トンチンカンな事を言ったり、行動もそうだが、それだけを見るととんだ勘違い野郎に見えるのだが、実は実力もあるのだ。


 チャムも絶対に言わないだろうと言う、発言をさせられて居たのだ。


 自分で言った後でも、信じられないのだ。


 今でも信じられないが、確かに言ったのだ。


 このコウシンは敵に回せない男だ、しかし味方だから安心かと言うとそうでは無い。


 得体が知れない、そんな感じだ。


「コウシン、作戦があるなら教えてくれ」


「御意、今すぐコレと言うのはありません、その土地の風土や山、川、海そのような物と照らし合わせ、かつ臨機応変でいきませんと答えられませぬ」


「そうか、正直を言ってくれてありがとうな、ただ勝つだけじゃ無くて圧勝したいのだ、特に初戦は」


「御意」


「圧勝出来る作戦を考えてくれ」


「御意」


「とりあえず初めは全員固まって行くぞ、第二部隊が本隊とする」


「コウシンには全員固まる時に指揮をとってもらう、バラける時にはそのまま第二部隊に残ってくれ」


「御意」


 コウシンが返事を返した瞬間には黒だけの鎧で固めた軍団が入ってきた。


 見ると警察庁の腕章を皆して居る。


「警ラ兵と呼ばれて居るのは? お前たちか?」


 チャムが尋ねた。


「すまない魔王よ、部下を1人渡してもらわねばならん」


「誰だ」


「勇者ペコ、お前に逮捕状が出ている」


 ペコが振り向いた、ビックリして居る。


「ボクは何もしていないぞ?」


 すると警ラ兵の1人が持って居るトランシーバーから声がしてきた。


「ありました、容疑者の部屋からパンティが出てきました」


 警ラ兵の1人が紙を持ってきて、ペコの前で広げるお決まりの儀式が始まった。


 チャムは前世の記憶が蘇ってきた。


「勇者ペコ、お前を痴漢、及び覗き、及び猥褻物陳列罪の容疑で今から逮捕する」


「まっ待って下さい、全部ピンク容疑じゃないですか? ボクはそんなコトしてません」


 その時、大扉が開いてテレビカメラやらマイクを持った記者たちが入ってきて、ペコの前に殺到した。


 さっきからずっと、コウシンが半笑いなのが気になっていた、他の者はビックリ驚いて居るのだが、コウシン1人が半笑いなのだ。


 チャムの記憶が正ければ、警ラ兵の連中が入って来る少し前から笑っていた、まるでこのコトを知って居たように。


「勇者ペコ、痴漢したと言うのは本当ですか?」


「覗きと言うのは本当ですか? 答えて下さい」


 テレビカメラと記者たちがペコに群がる。


「チャムさん、ボクは無実です」


「警ラ兵さん達、ちょっと待って下さい」


「魔王よ、お止め下さるな」


「やって居ないと言ってるではないか」


「それは署に帰りまして、然るべき手続きを経て裁判でハッキリしましょう」


「お前たちは俺の許可なしに俺の部下を連れて行くのか?」


「魔王よ、そんな子供のようなコトはおっしゃいますな、法の下で裁きましょう」


「お前たち何か勘違いしてないか? 法も警察も検察も裁判所だって全てこの魔王の下にあるのだぜ」


「そうですが、この者のやった事件は酷いものです、それにマスコミも来ております」


「だから何だ、ペコお前やってないんだろ?」


「はい、する訳ありません、無実です」


「よし信じよう、無罪」


「魔王よ、それをされますと法の下に全て平等という、プロパガンダが崩れます」


「お前さっきから、いったい誰なんだ? 魔王の俺に意見ができる身分なのか、階級と名を言え」


「はぁ、申し訳ありません」


「いいから階級と名前、それとも皆殺しにしてやろうか? そっちの方が簡単で良いのだがな」


「お許し下さい、決してさからいません」


「今さっきまで俺に逆らっていただろ、この勘違い野郎が、舐めてんのかお前ら」


「お許しを……」


「コウシン、この者どもを皆捕えよ、そして牢屋にぶち込んでおけ、後で俺が皆を死刑にしてやるから」


「ぎ、御意」


「やめて下さい、調子に乗っておりました、しかしそちら側の許可をとっております」


「さっきから何を言って居る、私が殺してやろう」


「ぎゃああああああ」


 警ラ兵の隊長をコウシンが殺してしまった。


「何をしているコウシン」


「御意、お館さまが後から手を汚されると申されましたので、その前に私がと思いまして」


「証拠隠滅、死人に口なしか」


「お館さま、何をおっしゃいます」


「さっきお前が殺す前に、こちら側の許可はとってあると言ってたじゃないか、どう言うコトだ?」


「さあ、分かりません」


「分からない訳ないだろ?お前が今、口封じをしたんだ、と言うことはお前が黒幕だ」


「御意、その通りです、お館さま」


「何で仲間を売るような真似をした?」


「仲間じゃありませんよ、それに私をチンコロ扱いしましたからね、仕返しですよ」


「そうか、で 気は済んだのか?」


「はい、住みました」


「分かった、とりあえず世界中に戦線布告したからな、お前には頑張って貰わないといけないからさ」


「え?」


「今お前を司法の手にやる訳には行かねえ」


「お館さま、私は人を殺めました」


「そうだな、その警ラの者には申し訳ないが、黙ってろ、知ってるのはここに居る連中だけだ、緘口令を強いてやる」


「お館さま……」


「戦争ではもっと大きな数の人間が死ぬんだ、そして俺たちはその戦争を今からしようとしてるんだ」


「はい」


「じゃあとりあえず皆んなでこの現場を片付けるぞ、皆んなが共犯だ」


「このコウシン、一生お館さまに付いて行きます」


「皆んな、皆んなでこの死体現場を片付けるぞ」


「わかりました」


「そしてマスコミの皆さん、ここで見たものが少しでも世に出るような事があれば、アンタら全員殺しに行くからな、連隊責任だ」


「分かりました絶対秘密に致します」


「片付いたらお前らもう帰ってくれ、俺たちは今から戦争をするんだ」


 マスコミの皆んながゾロゾロと帰って行く。


「コウシン、片付けが終わったらサッサと作戦を考えやがれ、お前の下手な絵のような作戦だったら、何回も練り直しさせるからな」


「御意」


「よし、皆んな急ぐぞ戦線布告してんだからな」


 見るとペコがコウシンを手伝っている、わだかまりは今のところないようだな。


「皆んな、いよいよだ、戦闘準備のまま出発だ」


「おおおおおおおーっ」


「よし行くぜ」

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