【ドキュメンタリー】上海事業所撤退を任された男

さいとう みさき

第1話:いきなり担当に回された男

 現在の日本で売られている品物で完全に日本のみで作られている製品がどのくらいあるかご存じだろうか?

 完全日本製と言うものを探す方が難しいのではないだろうか?

 実はメイドインジャパンと書かれていてもその中身が全部日本製でないということは皆さんご存じだろうか?

 それほどまでに私たちの生活に海外製品と言うものは浸透をしていて、それら無しでは生活できないところまで来ている。

 

 日本は1990年代以降バブルの崩壊により失われた30年という期間を過ごしている。

 そしてその間に日本国内の品物はどんどんと海外生産にシフトされてきた。

 有名な100円均一のお店も基本海外製品がほとんどである。

 そして家電、パソコン、携帯電話、生活物資、車のパーツ等どんどん海外製品にとって代わっていった。

 この辺は読者の方々には周知の事ではあるが、そこには中小零細企業の海外進出による生産拠点の移管があった。

 そして各企業は自社の存続にために海外での生産に勤しんで来たのであった。


 だが時代は移り変わった。


 2024年の現在、日本円は一時160円/ドルという水準まで下がった。

 プラザ合意以前は360円/ドルではあったが、その後どんどん円高になって1980年代には160円/ドルへ推移していた。

 そして20代の若人には信じられないかもしれないが、2000年代では80円/ドルと言う場面もあった。


 さて、ここで何が言いたいかと言うと円高時代では単純に1ドルの品物が80円くらいで買えたわけだ。

 しかし今は160円出さなければ買えない。

 つまり、日本の円がそれだけ弱くなっているという事で、1980年代の水準まで日本円の力が弱まっているのである。


 日本国内の生活ではあまり為替などは気にならないが、こうして身の回りの物が海外製品ばかりになるとどうなるだろうか?

 そう、同じものでもそれだけ日本円を出さなければ買えないと言う事になる。

 

 では輸出は逆に好調なのではないか?

 確かに日本の輸出は大手メーカーや車会社など有利にはなる。

 しかし、国内生産したものを海外に売るにも、その中身のパーツはすでに日本国内で作られていない。

 そう、円高の時代に海外に進出した企業たちが安く日本国内に輸入していたのだ。

 しかしここまで円安になるとどうなるであろうか?

 海外から安く品物を仕入れることができなくなる。

 つまり、海外での生産や活動が日本国内よりも高くなってしまう場合があるのだ。


 今ここに中国は上海に拠点を設けている会社があった。

 そしてそこへ海外出張を条件に転職した男がいた。


 この物語は海外に関わり、そしてその会社の海外撤退をすることに巻き込まれた男の物語である。



 * * * * *



「あ、さいとう君、今度うちの上海事務所閉鎖して撤退が決まったから、撤退作業の担当お願いね」


「はいっ? あの、私海外の事なんてよくわからんのですが……」


「大丈夫、上海事務所だから安全な場所だし駐在の人も一緒にやるから」


「は、はぁ。上がそう決めたなら仕方ないですが……」


「ん、じゃぁよろしくね♪」


 ハゲ上司がそう言って辞令書を手渡してくるのだったのだ。



<次回:「絶対秘密主義」君は時の笑いを見るだろう……>

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