第8話

「騙すようなことして、本当にごめんなさい」


 放課後、藤枝さんは俺のクラスにやってきて、頭を深く下げて俺に謝った。


 その結果、俺たちは教室内にいる人ほぼ全員の視線を集めた。


 まさか彼女に謝られると思っていなくて、俺は戸惑いを隠せない。


「……場所、変えよう」


 俺は動揺したまま、藤枝さんを廊下に連れ出す。藤枝さんは申し訳なさそうな顔をやめてくれない。


「謝らなくていいよ」


 優しく声をかけると、藤枝さんとやっと目が合った。


「怒ってないの?」

「俺が怒るなんて、できると思う?」


 意地の悪いことを言ってしまった。首を横に振ってくれてもいいのに、藤枝さんは困ったように俯いた。


 きっと、藤枝さんは本当に優しい人だ。俺みたいな、最低な人間が関わっていい人じゃない。


「藤枝さんに言っても仕方ないってわかってるけど、もう女子には近付けないだろうから、言っておくね」


 藤枝さんは不思議そうな目をして俺を見る。


 もう、可愛いとか、好きだとか、思うべきじゃない。


「今後一切、人の気持ちで遊ぶようなことはしないし、女子にも近付かない。迷惑かけてごめんって、言っておいてくれるかな」


 自分の口で伝えるべきだとはわかっている。


 だけど、綾乃にああ言われてしまった以上、こうする以外、謝罪の方法がなかった。


「それと……嫌な思いをさせて、ごめんね」


 俺は藤枝さんになにかを言われる前に、その場を離れる。


「柿原君!」


 まさか呼び止められると思っていなくて、俺は大げさに振り向いてしまった。


「……全部が嘘だったわけじゃ、ないからね」


 それがどれだけ俺を慰めてくれているか、藤枝さんは知らない。でも、教えるつもりもない。


 藤枝さんの優しさに付け込んで、俺たちがしてきたことをなかったことにするわけにはいかない。


「……そっか」


 女子の嘘告白に気付けなかった俺が、藤枝さんの嘘を見抜けるはずがない。どれが嘘で、どれが本当の藤枝さんだったのか聞きたくてもできず、それしか言えなかった。


 俺は藤枝さんに背を向けて歩き始める。それと同時に、頬に一筋の涙が伝った。



 嘘だった。なにもかも。


 でも、藤枝さんのことは本当に好きだった。


 だとしても、俺が藤枝さんの隣に立つ資格はない。


 これは、純粋で幸せな気持ちを偽らせた報いだ。



 さよなら、好きな人。どうか、君が幸せになれますように。



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嘘恋愛者 碓氷澪夜 @usuimiya

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