第6話

 本格的に一人で過ごす時間が増えてきた。しかしその時間は、藤枝さんを探す時間と言っても過言ではない。


 だけど恋を自覚して、藤枝さんに話しかけることすら、緊張してできなくなった。


 藤枝さんのクラスの前を通るとき、教室にいないか探したり。

 廊下を歩いていて、藤枝さんが向こうから歩いてこないか、変に期待したり。


 そうやってこそこそしていたのに、藤枝さんは俺を見つけると、俺のところに駆け寄ってくる。


 俺の気も知らないで、藤枝さんは無邪気に笑う。


「なんだか久しぶりだね」

「……そうだね」


 俺が話すことを避けていたからね。


「知り合ったばっかりなのに、数日会えなかっただけで寂しかったな」


 反応に困る。

 いや、内心かなり喜んでいるけども。それを素直に言うのは恥ずかしい。


 というか、この言葉でちょっと期待している自分がいる。


 藤枝さんも、俺と同じように思ってくれているような。


 ……なんて、俺の勘違いだろうけど。でも、そうであってくれたら死ぬほど嬉しいわけで。


「……藤枝さんって、好きな人とかいる?」


 話の流れを無視した質問に、藤枝さんの表情が戸惑いを見せる。


「えっと、どうして?」


 戸惑っている藤枝さんを見ていたら、答えは気になるけど、聞きたくないという気持ちが勝ってきた。


「夏輝が藤枝さんのことが好きで、藤枝さんに好きな人がいないか気になってるからだよ」


 その質問をなかったことにしようとしたのに、俺の台詞に被せるように、誰かが言った。


 藤枝さんの後ろに、蒼生が立っている。


「柿原君が、私を……?」


 藤枝さんが蒼生を見ているから、今どんな表情をしているのかわからない。


 だが、取り返しがつかなくなってきたことだけはわかる。こんなことになるなら、はやく自分の言葉で言っておけばよかった。


「……蒼生、邪魔するなよ」


 俺はそれしか言えなかった。


「そうだよ。あと少しで、柿原君をふることができたのに」


 耳を疑った。


 だが、俺の言葉に続くように言われたそれは、たしかに藤枝さんの声だ。


「もしかして、わざと夏輝に近付いたの?」


 俺が混乱している間に、蒼生が聞いた。知りたいけど、知りたくない。


「近付いてきたのは、柿原君だよ? 私はなにもしてない」


 そうだ。

 俺があの日、藤枝さんに目をつけたのは、偶然だ。藤枝さんはただ俺とすれ違っただけ。


 俺がターゲットを決めるのは基本的に気分だし、藤枝さんがなにか仕掛けていたとは思えない。


「でも、あとは演技かな」


 その一言は、俺を絶望の沼に突き落とした。


 だけど、これが俺たちがしてきたことだ。藤枝さんに文句を言うことはできない。


「どうして、そんなこと……」


 ただ、どうしても理由がわからなかった。


 俺が聞くと、藤枝さんは振り向いた。今まで隠されていた敵意が、剥き出しになっている。


「柿原君たちは、綾乃ちゃんを……私の友達を傷つけた。人が一生懸命勇気を振り絞って告白したのを、ゲームにして。お金を賭けて。人の気持ちで遊んでいたことが許せなかったから」


 藤枝さんがゲームのことを知っていたことにも、ショックを受けた。


「なんだ、柿原が奏羽に近付いてたわけじゃないんだ」


 すると、俺たちの間に流れている重い空気を読まずに、女子が会話に入ってきた。

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