*5*

 翌日。昼休み、私は理香の所属する生物部室におじゃましていた。 

「これってメイクとかAI生成画像じゃないよね?」

 昨日の私を撮ったスクショをこっちにむけながら理香がいった。

 私は頷いて、返事をした。

 ってか、勝手に撮るなー!

「ううむ、これがウワサの女性の蛙化現象か……」

「いや、私は違うと思うよ。ってか、もっと真剣になってよ!」

 理香に対する、ツッコミが追いつかない。

「私、また変身してしまわないかな?」

 脳天気に悲観しなかったとはいえ、あんなことが起こる生活なんて想像できない。

「まだなんにも言えないね。変身をこの目で見たわけではないし、どういうタイミングでそうなったのかもはっきりしない。ちょっとサンプルが足りないかな」

「おふろに入っている時に変身したのは確かなんだよ!」

「おふろ、ねえ……。ん? もしかして……ビッキーちょっとこっち来てみて」 

 理香は窓に近寄ると、私を手招きした。

「ほら、アレ」 

 理香が指差した先にあったのは、ちょうど生物部室の真下にあるプール。

 夏の始めの太陽がまぶしく水面にきらめいている。


 どくん。

 み・ず・・・と・び・こ・み・た・い…

「わっ……」

 来た。アレだ。さざ波。

「うわ、本当に変身した!?」


「ふーん、きっとプールで水と一緒にカエルを飲み込んだのね……」

 理香はニヤニヤしながら、カエルに変身した私の体を観察している。

「でもなんで、今変身しちゃったのー!?」

 私は思わずベソをかいた。

「たぶん、だけど。飲み込んだのがアマガエルだったからじゃないかな?」

「どういうこと?」

「アマガエルが色を変えるのは、目で見た自分の周りの景色に自分の色を合わようとする保護色。緑に囲まれていれば緑色に。河原やコンクリートなんかの所では白っぽくなる」

 お、ちょっとは科学的な感じ。

「で、ビッキーの場合も、それと同じように回りの環境に合わせて、体が変わるんじゃないかな? 目で見た環境にふさわしい状態にスイッチするってこと。陸上だと人間、水中だとカエルってことかな。おそらく、飛び込めるほどの量の水を見たときが変身のキーね」

「あ――なるほど!」

 これは、なんとなく理解が出来る。だって……

「昨日の話だとお風呂の湯船に飛び込みたくなったんでしょう? じゃあ、もしかして、今もそうなんじゃないの?」

「ううう、そうなの」

 そのとおり。さっきから、プールに飛び込みたい衝動が私の体をそわそわさせている。

 湯船と違って、広々としたプールは私の中のカエルちゃんの本能を誘惑して止まらない。

「目が虚ろだよ。ビッキー。ダイブしてみる? そこから」

「もう、背中を押さないでよ!」

 下半身は今にも動き出しそう。私は机に手を貼り付けて、カエルの欲望に抵抗する。

「おもしろ……」

「今、なんか言った!?」

「ううん。まあ、もし変身のスイッチが水を見ることなんだったら、もうすぐ元に戻るんじゃない? 昨日もお風呂から上がって二十分くらいで元に戻ったんでしょ?」

「うん」

 私はうなずいて時計を見た。

 理香の言うとおりならちょうどいい頃合のはず。

 どくん

「来た」

 願いが通じたのか、やっと変身が始まった。

「ほーこうやって人間にもどるのか。こりゃおもしろいねえ」

「関心するなよぅ」

 例のぞわぞわした余韻にふるふるしながら、私は理香に文句を言った。

「とにかくさー、変身のキーだけはわかったわけだから、お風呂はシャワーで済ますとか。当分はなんとかなるでしょ」

「って、ならないよー。私、水泳部だよ……って今日、記録会!?」

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