08:ドキドキの待ち合わせ
ストロベリーケーキは地元の駅から二駅離れた繁華街にある。
そこで私たちは、駅のすぐ隣にあるさくらば公園を待ち合わせ場所にした。
『さくらば』の名前が示す通り、この公園は桜並木が見事で美しい。
春になると遠方からお花見目当ての人がやってきたりもする。
私も春にはお母さんが作ってくれたお弁当を広げて、家族で楽しいひと時を過ごした。
漣里くんたちもお花見はしたのかな?
そんなことを考えながら、緑の葉が青々と茂った桜並木を歩き、左手の腕時計を見る。
現在時刻は、午後一時四十五分。
待ち合わせの十五分前。
よし、余裕。
小さく頷き、辺りを見回す。
アブラゼミの鳴き声で公園は賑やかだ。
茹だるような暑さにも負けず、綺麗に舗装された歩道を数人が歩いている。
友達と談笑している女子グループ、子どもの手を引いて歩いているお父さん。
彼らを横目に見ながら遊具のあるゾーンを抜けて、噴水の前に着いた。
照りつける太陽の日差しを浴びた噴水の縁にはカップルが座っていた。
漣里くんの姿はない。
良かった、少し早めに来て正解だった。
安心しかけたそのとき、噴水の斜め前のベンチに漣里くんが座っているのを発見した。
……あ。いたんだ。
漣里くんは真面目な性格だから、ちゃんと時間を守りそうだと思ったんだよね。
十五分前ならさすがに、と思ったけど、もっと早く来ればよかった。
彼は噴水の縁に座っているカップルと同じく、俯いてスマホを弄っていた。
ゲームでもしているらしく、指が単純なスクロールではない動きをしている。
彼はレイヤードの白いシャツに紺色の半袖シャツを羽織っていた。
下は黒のスラックス。胸にはシルバーアクセサリー。
外出するためか、これまでで最も外見に気を遣っているように感じた。
彼がアクセサリーをつけているところなんて初めて見る。
もしかしたら葵先輩が全身コーディネートしたのかもしれない。
失礼だけど、漣里くんは流行やファッションに興味がなさそう。
いつも決まってシャツにジーパン姿だったし。
アクセサリーは煩わしいから嫌い、腕時計すら嫌だって言ってたしね。
ともあれ。
……改めて見ると、本当に格好良い人だなぁ。
伏せられた長い睫毛。大きな瞳。桃色の唇。すらりと伸びた手足。
ありふれた公園の風景の中で、彼だけが特別に浮かび上がって見える。
どうやらそんな感想を抱いたのは私だけではないらしく、通りすがりの女子二人組みのうち、一人が彼を見て言った。
「格好良いね、あの子」
「うん。モデルかなぁ」
二人はきゃっきゃと笑いながら通り過ぎて行った。
「…………」
これから彼と行動をともにする私にとって、二人の言葉は大きなプレッシャーになった。
そ、そうだよね。漣里くんが格好良いのは誰が見てもわかる事実だもんね。
並んで立つのが申し訳ない平凡な容姿だとしても、せめて振る舞いや言葉遣いには気を遣って、美しく……!
持っているバッグの紐をぎゅっと握り締める。
今日私が悩みに悩んで選んだのは、薄いピンクをベースにした花柄のワンピース。
胸元には赤いリボン、裾には控えめなフリルがついている。
このワンピースは試着したとき、お母さんも店員さんも褒めてくれたから、少なくともそんなに変な格好ではない……はず!
私は深呼吸してから歩き出した。
接近に気づいたらしく、漣里くんが顔を上げた。
ここで私は素早く脳内シミュレーション。
『ごめんね、待った?』
映画で見たワンシーンみたいに謝りながら、出会えた喜びを表すべく、心からの微笑みを浮かべる――うん、これなら満点だ。文句なんてつけようがない。
何事も最初が肝心。
ここで好印象を与えられるかどうかで、この後の運命が決まるといっても過言じゃない。
さあ、いまこそ人生で最高の笑顔を浮かべて、最高のスタートを切るんだ、真白!
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