第8話「幽霊社員の謎」



「社長、例の件の調査結果が出ました」


メリッサが一枚の報告書を差し出す。働き方改革の一環で始めた、社員名簿の総点検の結果だ。


「ふむふむ...えっ!?」

圭介が目を疑う。

「氏名:トウメイ・ユーレイ、所属:特別ghost課、入社日:248年前!?」


「はい。しかも、毎月きちんと給与が支払われています」


「それって完全に幽霊社員じゃ...」

圭介の言葉が途中で止まる。


「社長?」


「待って...ここは異世界だよね?もしかして...」


「ご明察です」

レオが尻尾を振りながら現れる。

「本物の幽霊社員、いわゆるゴースト・エンプロイーですね」


「はぁ!?」


* * *


特別ghost課の扉の前。


「本当にいるの...?」

圭介が恐る恐るドアを開ける。


「あ、社長さんですか?お待ちしてましたよ〜」


半透明の人影が、スーッと壁を抜けて現れた。スーツを着た、若い男性の幽霊だ。


「と、トウメイさん?」


「はい!特別ghost課チーフの幽霊です!あ、生前の名前は覚えてないんですけどね。ハハハ」


明るく笑う幽霊社員に、圭介は戸惑いを隠せない。


「あの、お仕事の内容は...?」


「そうですね〜。主に社内の素通り業務ですかね」


「素通り!?」


「はい。壁も床も天井も素通りできるので、社内の配達業務は私に任せてください!」


「なるほど...それは確かに効率的?」


「でしょう?」

トウメイが得意げに胸を張る。

「あと、夜の警備も担当してます。幽霊には幽霊の目が効くんで」


「むしろ、重要な戦力...?」


その時、廊下から悲鳴が。


「きゃあ!」


「あ、すみません!」

トウメイが慌てる。

「新入社員さんに壁抜けサプライズしちゃいました」


「それは驚くよ...」

圭介が頭を抱える。


「社長」

メリッサが咳払い。

「やはり、退職勧告は...」


「いや、待って」

圭介が真剣な表情になる。

「トウメイさん、これからも働いてくれますか?」


「えっ?」

トウメイが目を丸くする。

「いいんですか?」


「ええ。だって立派な社員じゃないですか」

圭介が微笑む。

「生きてるとか死んでるとか、そんなの関係ないでしょ?」


「社長...!」

トウメイの半透明の目から、透明な涙が。


「ただし!サプライズ配達は控えめにね?」


「は、はい!頑張ります!」


後日。


「おかげで社内配達の効率が32%上昇しました」

メリッサが報告する。


「良かった」

圭介がほっとする。

「これぞダイバーシティ...かな?」


「社長らしい判断でした」

メリッサが小さく微笑む。


「でも不思議だよね」

圭介が空を見上げる。

「なんで幽霊なのに、ずっと会社に...」


「そりゃあ、この会社が好きだからですよ」

レオが明るく言う。


「うん、それは分かるかも」

圭介も笑顔になる。


異世界の働き方改革は、幽霊をも巻き込んで進んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る