第3話 お隣のルイたんの話
華先生:ロウヴィルの祖父
ルイたん:華先生のお隣、大華屋敷に住むご近所さん。ゲナ子爵家三男ルイ(華先生の良き友人であり花街を牛耳る裏社会の大ボス)
【sideルイたん】
最後の戦から気がつけば14年……特段大きな戦もなく平和な日々にも慣れたそんな頃合い、辺境伯家の次期当主である長男が、今年から王都にある貴族学園に通うとあって武家の間には日々そわそわした空気が高まっていた。
戦ばかりしていたあの頃に生まれた子達が、学校に通う年齢になるなんて、しみじみ月日がたつのは早いものだと感じる。
届いた近況報告には、辺境伯家の二人目の子は来年8歳となるがすでに豪傑の才がチラついているようで、学園に通うことになった長男と共に王都入りさせて、ドラオ伯爵から礼儀作法を仕込んで貰うことになったと記されていた。
「面白い事が書いてあった?」
「いえ、ランドルフの子が貴族学園に通うために王都に来るという事務連絡でしたね、あとドラオ伯爵の所に二番目の子が預けられるとか」
「へぇ……あ、子供といえば、今日王城で面白い催し物がやっているとレオル《国軍総括》に聞いたんだけど、いってみる?」
「……王城ですか……」
呼ばれてもいないのに「行ってみる?」みたいな気持ちで行く場所では本来ないのだが、縁側で俺と将棋をうっている、見た目は50代の優オジなこの人こそ、この国の二大貴族の片翼、メリッサ家の前当主様である。
現当主のメリッサ卿と区別するために華先生と呼ばれている。名付けの由来は、花街に住んでいるからだ。そう、大華屋敷と呼ばれる我が家のお隣さんである。
「ほら、王家主催で以前からちょいちょい子供達を招いて洗脳?みたいなお茶会をやるじゃない?……あれ、最近は欠席者が多くて王家がちょっと趣向を変えて子供の蚤の市、お店屋さんごっこみたいなものをやらせた交流会を企画したらしいよ」
「………へぇ?……」
子供のお店屋さんごっこという大分ほのぼのしている企画だが、そもそも王家が主催して商人の真似事を貴族の子にさせていいのか?と色々とツッコミ所がある。
大分王家が迷走しているのだけはわかった。
まぁ、王家のお茶会に呼んでも、貴族の子ですら来ないらしいので、たしかに王家も迷走する事態ではある。
今の子達の世代は、辺境伯家やメリッサ家、ガラオン家などの名だたる名家のご子息と被る世代なので、そちらとの交流が忙しいのだろう。
「参加する家には王家が金塊1本(金貨2千枚分)を準備金に出していて、子供達が各々考えた自領の特産品とかを持ってきて王城の庭で広げて売ったり買ったりするみたいでね……子供達は収益の中からなら制限はなく買い物ができて、大人の参加者も金貨100枚までなら買物して良いらしいよ」
「面白そうですね」
「そうでしょ、実はうちの孫も張り切って参加しているみたいでね」
「……………何を売っているか想像がつかないのですが……?」
メリッサ家の特産品は、医療?しか思い浮かばない。
やばい薬草とか、人体の一部とかも平然と並べそうなイメージである。
「うぅん、実は私も想像がつかないから、ちょっと様子を見に行こうかなって思っているんだよね……」
「……一人で行く勇気がないっていうのが本音ですね……」
「こういうのは客観的な第三者を挟む方が、万一の時に冷静なフォローをしてもらえるしね」
「……」
不穏でしかない華先生のお誘いの理由であったが、子供達が持ち寄る各地の名産品というのも、市井の商人にはないチョイスがみれそうなので、半ば怖いものみたさで俺は王城について行くことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王城に到着すると、予想とは大分違っていた。
まず、それぞれの区画が決められていて、テントが建てられている。テントの前には護衛が立ち、テント内には従者が数人待機している。
考えてみたら王城に呼ばれる格の貴族家のご子息相手の催し物なので、安全配慮をすると当然の形である。
煌びやかな装いの子息達が護衛を連れて、ゆったりと各店をのぞいていた。
買い物は商人に持ってきてもらうのが貴族子息の常識なので、歩いて店を回るという経験自体が初めてのようで、かなり楽しんでいる様子が見てとれる。
受付で身分確認をすると、金貨100枚分の証書を貰った。この証書がこの市の中で使える限定の通貨となる。
現金化はできないとの事なので、本当にお店屋さんごっこ仕様である。金貨100枚分の選べるお土産付きと考えれば、割と嬉しい。
案内を申し出る文官を断って、さっそく手前のテントからみていく。
ちゃんとそれぞれの領の特産品をもってきているようで、何となく商品から、どこの家というのがわかる。
さすが貴族の子というべきか、ただ特産品を持ってきただけではなく、今日のために限定品のラベルを作り貼った『限定ワイン』など、一捻りくわえてある。
王家が商品を並べるための準備金を出しているので、値付けはどれも原価に近く、儲けることを考えての値付けをしている者達はいないようだ。
通貨が現金化できない証書なので、儲けても商品化しないと意味がない。
お店屋さんごっこというように、商売がメインではなく、持ってきた商品をきっかけに交流が生まれるのが本来の目的のようで、仕組みはちゃんと考えられており、貴族子息達も王家の意図をちゃんと汲んでいるようだ。
純粋に買物を楽しんでいる子や、商品をきっかけにお友達になろうと頑張っている子など、なかなかいい感じに盛り上がっている。
「いいねぇ……何だか平和だねぇ」
「本当ですね……」
各領地で色々なものが作られて、色々なものが流通するようになった。
少し前までは、敵国だったり、凶作だったり、情勢が安定しなかったり……沢山の血が流れてきたその場所に、新しい命が芽吹き始めたのだとつくづく知る。
年もとるわけだよねぇ……こんなに平和が当たり前になる時代がくるんだから……。
「ん?……華先生、あれ」
「?……あぁ、ランドルフ君の所かな?」
一際屈強な護衛達が仁王立ちするその一角、そこだけ『野営地では?』ってくらいの物々しい空気を放っていた。
それでいて、ものすごい行列である。
子供達がわらわらと行列をなしている。
「何を売っているんでしょうか?」
「んん……鉄かな?……辺境伯家の専売品というと武具なんかだから、もしかしたら剣とかかもね」
「なるほど……」
みれば並んでいるのは男の子ばかりで、大分やんちゃ盛りっぽい擦り傷もみれるので、武家の子達らしい。
男の子は剣に夢中だもんね……。
行列を横切る時に、立て看板が目にはいる。
『腕試し上等!勝った者には剣を進呈。試し金1回金貨100 オズル家ドラオ』
「……」
「……」
華先生と顔を見合わせる。
「これはまた、新しい商売だね……」
「ランドルフの子……強いんですかね……」
「きっと、強いんだろうね……少なくとも、この行列を捌けるって判断しているんだから」
「……」
確か、手紙には来年8歳になるドラオ様が、ドラオ伯爵から礼儀作法の手習いをうけるため王都にしばらく滞在すると書かれていた。
もう千人斬りみたいな事をし始めているが、辺境伯家の教育は大丈夫なのだろうか……。
俺たちに気付いた護衛の男がちらりと視線をさげて挨拶をしてくる。
俺たちは、苦笑いでそそくさとその場を離れた。
さわらぬなんとか……だな。一旦忘れよう。
「そういえば、さっきのドラオ君、うちの孫のロウちゃんと同じ年なんだよね」
「へぇ、そうなんですか、じゃあ学園で一緒になるんじゃないですか」
「ね……うちの孫、ちょっとポヤポヤしている所があるから、面倒みてくれたらいいなって思っていたりするんだよね」
「………ぽやぽや?」
「息子は私に似たんだっていうんだよ。失礼しちゃうよね」
「……なるほど」
たしかに当代メリッサ卿に比べたら、華先生はぽやぽやで表現できるだろう。
「まぁ、辺境伯家は先祖代々メリッサ家の顔が大好きですから喜んで世話を焼いてくれるので……ん?……華先生、なんかあそこの一角、ちょっと違いません?」
「ん?……」
整然と間隔があいてテントが立ち並ぶ一角、突如空白空間ができあがっていた。
どこかの貴族家が欠席したのかと思えばそうでもないようで、区画の奥の方にぽつんとシートが引かれていて、ちょこんと子供が座って本を読んでいる。
護衛も使用人もいない……おまけに子供の身なりがなんとも簡素なもので、かなり周囲から浮いた奇異な空間である。
「あ……あれ、うちのお孫ちゃん!ロウちゃんだよ!」
「!!」
なんか銀色の髪の毛だなとは思ったが……どうやらお孫ちゃんだったようだ。
という事は、あれか……一見そうはみえないが、隠密でどこか遠方から護衛達が見守っているのか?
……いや、全然、そんな気配がしないが?
俺たちが近寄ると、お孫ちゃんが気付き、本に栞を挟んだ。
「いらっしゃい、このお店をみつけるとは、見どころがあるお客さんだね?」
「「……」」
華先生が目を丸くして、何と反応しようか困った顔で、俺をみる。
「私達は特別な商品を探しています。このお店には……もしやアルのでしょうか?」
俺の裏路地の店の怪しいけどすごいお店屋さんを訪ねる客を装った演技に、彼が、にやりと意味深っぽい笑みを浮かべる。
「なるほど……もしやアレをお探しなお客かね?」
彼が後ろにおいてあるバッグをごそごそしだした。
「ルイたん……何か、私だけ空気が読めない子みたいになっているけど、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ……とりあえずやばいものが出てきたら回収しましょう」
何か、多分、このお孫ちゃんは、ヤバい。
そんな気がした。
メリッサ家のご子息なのに、護衛達と従者が控えていないという事に、ものすごく嫌な予感がする。
貴族子息に護衛達や従者がぞろぞろついていくのは、安全面だけでなく、まだ子供の彼らが教育途上である事から、至らぬ点のフォローや、時にストッパーになったり、叱ったりして貴族としての行動を、道を誤らないように是正するためだ。
彼が、すすっと、シートの上に草をならべる。
そこには3つの草があった。
「……」
「……」
草では?
いや、だが、もしかしたら……。
華先生を見ると、華先生は首を振るので薬草ではないらしい。
「店主、これは?」
「これは『ただの草』、これが『その辺の草』、こっちが『すごい草』」
「……」
「…………ちょっとタイムで」
俺は、タイムを要請した。
華先生を引っ張りその場を少し離れる。
「華先生、あれ、お孫ちゃんですよね?」
「うん……間違いないけど……?……」
「草、出てきましたよ?草?!」
「……草w」
「……」
いや、ふざけている場合じゃないですよ?
「……ちょっと事情を聞いてみるね」
華先生が、にこりと笑顔を装備して、警戒心をとくようにお孫ちゃんに話しかける。
「ロウちゃん、これは薬草ではなく草だよね?」
「草ぁw」
間違いなく華先生のお孫ちゃんだった……。
ご家庭のレベル高い教育が垣間見られる。
「勿論、ただの草です!」
「……そう……これを売っているの?」
「はい!『ただの草』は金貨2枚、『その辺の草』は金貨10枚、『すごい草』は金貨100枚です!」
堂々の値付けは、上位貴族の強さを感じるが……草だよね?
「……この名前が違うのは意味があるの?」
華先生、そこを追求するの?と思ったが、お孫ちゃんは目をキラキラさせて、よくぞ聞いてくれた!みたいな食いつき方をした。
「これは、領地にも王都にも生えるただの草!こっちは、領地には生えないけれど王都にあるその辺の草!そして、これはこの王城でむしったすごい草です!」
「さすがロウちゃん!素晴らしい区分の仕方だね!理由を聞けば納得の値付け!」
「へへへ」
「……」
メリッサ家は、次代で終わるかもしれない。
俺は、ちょっとだけ、心配になった。
いや、でも王城に生える雑草をすごい草として売るのはたしかにありだ……。
雑草でも王城に生えていたものだ。これは少なくとも『すごい草』というのを否定しづらい。
ただし、雑草でも王城のものを勝手にむしって売った事を咎められるかもしれない……。
「それで、これは売れたの?」
「…………このお店は、特別な人にしか見えないお店なので……」
「……そう」
多分、割り振られた区画の奥だからだよね?
身内の華先生だから、ずかずか入り込んでここまで来れたが、メリッサ家に割り振られた区画に外部者が踏み込んでこのお店がある奥まで来るのは難しいだろう。
ちらりとみると、道には、文官に連れられたお貴族様の大人が子供を連れてちらちらとこちらを見ている。
明らかにお近付きになりたいという眼差しである。だが上位貴族に声をかけることがマナー違反なので、呼びかけができない。かといって、商品を並べていないので、何を売っているのかわからないので、うかつに買いたいとも言いづらいのだろう。
日頃の行いから、メリッサ家ならクソヤバいブツを平然と並べている可能性も高いと想像されるからだ。
正直、道に面した場所でお店を広げていたら、ただの草だろうと、飛ぶように売れただろう。
それが、メリッサ家の付加価値なのだ。
社交界で普通に、来週から草が流行る……それが上位貴族の力だ。
「ロウちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、金塊1本を支度金としてもらったよね?でも草は原価ゼロに近いよね?金塊1本はどこにいったのかな?……さすがにメリッサ家として、ぽっけないないは、世間体があるからね?」
華先生はやんわりと上位貴族にあるまじき行動であることを指摘しにかかった。
「ちゃんと全部、仕入れにつかいましたよ?」
「……なるほど、金塊1本まるっと使ったんだね、何を仕入れたの?」
「…………草ぁw」
「……草ぁw」
華先生が煽り返したら、お孫ちゃんがすんとした顔になった。
華先生とお孫ちゃん仲良しだな。
あと、じわじわくるからやめてほしい。
お孫ちゃんがカバンをごそごそすると、黄色い鈴のような実がついた草が出てきた。
「……月鈴草……なるほど金塊1本くらいする薬草だね、いくらで売るの?」
「金塊1本ですよ?まぁ、お祖父様でもお支払いできませんよね、へへ」
お孫ちゃんは、大人が一人金貨100枚が所持限度だと知っていて、その値付けをしたらしい。
「……ふむ、まぁ、市場価格的には適正価格だからなんとも言えないけど……売らずに最初から在庫をポンポンする気だったね?」
「……」
お孫ちゃんが、てへみたいな顔になる。
一人金貨100枚が購入限度額だが、子供達だけは売り上げを購入費用に回せるので、原価イコールで売ったとしても、売上げは総額は金塊1本分くらいになる。
持ってきたものを全てうまい感じに売れて、なおかつ、全額で草を買う子供は……まずいないだろう。
客観的に金塊1本の値付けの品物が売れる可能性は低いと言わざるえない。
つまり、華先生の指摘通り、売れ残るため……合法的に金塊1本相当の薬草をポンポンできるという事だ。
ある意味、正しい貴族子息のやり方だが。
上位貴族はこういう人目がある場所では、金に頓着しないのが普通だ。
店の商品はみな、原価のような安値をつけていて、利をあげようなど考えてもいない。
元々、社交の一環の遊興なのだ。
子供達に、沢山の店で買い物してもらい交流をはかるのが目的なので……あんまりよろしい行動とは言いにくい。
華先生もどうしようかなぁという顔になっている。
「おう、邪魔だ、冷やかしなら帰れや」
「……!?」
「!!」
護衛いた?!と思ったら、偉そうな男の子とその護衛達だった。
どうやらお客様が来たらしい。
「??」
「……?」
彼の後ろに控えているのが、国軍官僚だと気がついて、メリッサ先生とちょっと下がる。
「あぁ、ごめんね。お客様だったね。どうぞ」
「……おぉ」
少年は、辺境伯家のご子息に間違いない尊大な態度でどかっとシートの前に座った。
「華先生、ルイ殿、申し訳ありません」
「うん、いいよ、あれ、ドラオ君?」
「はい、本日初めて王都に来たので、礼儀はこれからドラオ伯爵が仕込む予定です」
「そう……」
8歳でドラオ伯爵に預けられた理由をお察しした。
かつてのランドルフと見事に瓜二つっぽい所作に、早いところ教育し直そうと家臣達が焦った理由がよくわかる。
「腕っぷしがいいらしいですね」
「はい、もはや家臣達でも加減ができなくなる程、戦のセンスの塊のようです」
「なるほど……」
そりゃあ、自信満々で尊大な態度にもなる訳だ……。
辺境伯領ではそこそこ通用したかもしれないが、この王都には、かつての辺境最強時代の一角を担った古参家臣達がゴロゴロいる。
鼻っ柱を折るには、ちょうどいいだろう。
「……」
「……」
というか、お二人は、何かお見合いみたいに見つめあっているのだが?
よくわからないが二人の間に謎の「間」が挟まっていた。
と思ったら、ドラオ様が先手に出た。
「金はあんぞ!」
えぇ、いきなりいうことそれ?
せめてお名前くらい名乗ってぇ!!ここ王都!!辺境伯領じゃないから、皆がドラオ様を知っている訳じゃないからね?!
ランドルフ、一体子供にどういう教育してんだよ。と思うが、まぁ、辺境伯領で育ったならなめられんように一発先制かますというのはセオリーなのかもしれない。
「……草w」
お孫ちゃんが、すんとした顔になる。
さすがメリッサ家育ちは、マイペースで一切動じない。こっちもある意味どんな教育しているのか気になるレベルだ。
「ん?……なんだ、草?……草を売ってんのか、お前がもっているヤツ、全部買ってやるよ!」
「!!」
お孫ちゃんが、びっくりな顔になる。
「ぜ、ぜんぶ……」
「買うっていってんだろ!!いくらでもいい!」
「む、無理だよ?金塊1本だよ?」
「おぉ、じゃあ金貨2000枚だな!」
ドラオ様が、顎をしゃくると、従者が証書を取り出して束でおいた。
腕試しで稼いだやつか……めっちゃ、申し込まれていたし……結構な額を稼いでいたようだ。
まぁ、相手は辺境伯家のご子息だ。ご挨拶がてら武をみせて、あわよくば家臣に引き立てて貰おうという野心を秘めた武家の子達がワラワラ参加したのだろう。
なんせ、まだまだ従者が証書の束を持っている。
「…………」
お孫ちゃんがきゅっと薬草を胸に持つ。
「か、買うの?……か、買うの?」
今にも泣きそうになっている。
「買う!」
「ロウちゃん、売ってあげなさい」
「………ぐぐぐぐ、おじぃぃざま」
苦悶の表情になるお孫ちゃんに情緒が心配になる。
「華先生、後で同じものを買ってあげたらいいんじゃないですか?」
「うぅん……息子からあまりほいほい買い与えちゃダメって言われているんだよね……」
「そんなに買ってあげてるんですか……」
「末っ子を預かった時に、つい買いすぎちゃってね?」
まぁ、華先生なら、なんとなくお孫ちゃんの言うままに買物させられている様子が目に見えるようだ。
「まぁ、でもよく考えたら、ロウちゃんにはまだ何も買ってあげていないし……ロウちゃん、後で月鈴草を取り寄せてあげるから、売ってあげなさいね」
「……」
華先生に促されて、お孫ちゃんが、草をなごりおしそうにくんくん匂いをかいでじっとみてから、ドラオ様に出した。
ドラオ様がそれを受け取る。
「な、なんだ……お前に似て可愛い草だな」
渾身の褒め言葉が出た。お孫ちゃんがすんとした顔になる。
薬草を買われて、内心納得がいっていないようだ。
ごそごそと店じまいを始めた。
「俺、しばらく王都に住むんだけど、お前も住みたいならうちにきてもいいぞ?」
「……」
「今日はもう売るもんないから帰んだろ?お菓子とか、食いに行くか?飯でもいいぞ?」
「……」
「あ、なんだ、他の店とかみてまわるか?それでも、俺は全然いいぞ!」
めっちゃ口説いているよね?
護衛達があからさまにドラオ様から視線を外して、全力で聞いていないフリをする。間違いなくドラオ様がメリッサ家のお孫ちゃんを気に入ったというのがわかった。
「お前は可愛いから仲良くしてやるぞ?」
渾身のお友達になろう!が出た。
「チッ!」
返事が舌打ちだった。
……。
俺は思わず華先生をみた。
華先生が苦笑いになる。
お孫ちゃん、顔は可愛いのに、すごい舌打ちするね?……舌打ちに圧があったよ?
ドラオ様がひるむくらいの威力だ。
と思ったら、いきなり全力ダッシュした!
え?!
ちょっと?!
突然のダッシュに意味不明になる皆を置き去りに、彼は走り出す。
なんか、知らんが7歳児、足速い!
「……な、何だ?」
残された彼がポカンしている。
「……ドラオ様、子供心は難しいんだよ」
いや、華先生、そういう話じゃないよね?
お宅のお孫さん、一人で全力ダッシュで家に帰っているよね?!
あれ、大丈夫なの?!
あれ、途中で誘拐されたりしない?!
「子供は本当に逞しいねぇ……」
いや、華先生、無理があるよね?!
明らかにお孫ちゃん貴族としておかしい行動だらけだったよね?!
しかし、空気の読める俺は、とりあえず、何もなかった事にして、他の店を回ることにした。
因みに、その市では、華先生は猫が寄ってくるという売り文句につられて柳の木を買い、俺は鰹節を買った。
中々楽しかったので、是非またやって欲しいと思ったが、やはり子供達に自由にやらせすぎたのはまずかったようで、ほどなくして企画した役人がクビになった。
こうして、王家のお茶会は以前と同じ無難な形式に戻ったのだった。
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