第11話 喧嘩
眼鏡をかけたおかっぱ頭の男が喧嘩をふっかけてきた。
真面目そうな男だった。名前は……思い出せない。
「皆が将来のために真面目に授業を受けにきている。なのに、君はなんだ。髪を染めてピアスをして……学校に来る気があるなら校則を守れ! それがクラスメイトに対する最低限の敬意とういものだ!」
「……」
教室のあちこちから冷たい視線をむけられる。
眼鏡男に便乗して普段から嫉妬の感情をぶつけてくる男子達がこそこそと話す。
「
「日和ちゃんもあん奴の面倒をみるの嫌がってんだろ」
「優しいからほっとけないだけなのに、あの勘違い不良は弁当まで作らせてるらしいぜ」
「死ね」
好き放題言ってくれるものだ。でも、こんなのは慣れてる。タイムリープするまえから、世間からはつまはじきにされてきた。そして、それを悲観するつもりも、理不尽だと訴えるほど子供でも馬鹿でもない。
むしろこの流れで退場する算段をつける。
クラス全員から嫌われたら、日和もきっと諦めてくれるだろう。
おかっぱ眼鏡の意見にほとんど生徒達が賛同なのか、口をはさんでくる奴はいない。そう、一人を除いては。
「待って、
(どうしてお前は……いい加減俺をほっといてくれよ!)
日和が周という男から士狼を守るように立ちはだかる。頭が痛いほどイライラして、胸が苦しいくらいにキュンとする。自分を庇ってくれる日和がたまらなく嬉しくて、うっとおしい。
周は大きくため息を吐いて、日和を冷たい目つきで見下ろす。
「日和さん。僕は残念だよ。優秀で真面目な君が、こんな奴と毎日一緒につるんで」
「わ、わたしはただ学級委員長だから、みんなと仲良くやりたいだけで」
「その結果がこれかい? 君はその善意でクラスの皆を苦しめていることを理解してるのかい? 君がやろうとしてることと、やっていることはあべこべだ。反省した方が良いよ」
「そ、そんなつもりは……」
日和が言葉に詰まり暗い顔でうつ向いてしまう。
自分のことだけなら、だまって話を聞いてそのまま退場するつもりだった。だけど……日和を責めるのは違うだろと、士狼は立ち上がる。
「おい、丸眼鏡」
「め、めがね!?」
「丸眼鏡は丸眼鏡だろ。あのさ……悪いのは俺じゃん。この女は……ちょっとドジだけどクラス皆の為に一生懸命頑張ってるだけなんだ。だから、そんな言い方はねえよ。それこそ、クラスメイトに敬意が足りないんじゃないか?」
「ふ、ふざけないでくれ。君みたいな奴を引っ張てきて野放しにしてる時点で責任感が欠如している。そもそも、君はあんな事件を起こしておいて、当事者達に謝罪の一つでもしたのかい?」
「……してねえ」
「はっ、やっぱりな。そんな奴に他人への敬意とか言われたくないよ」
教室は士狼と周の口喧嘩で静まり返る。周囲を見渡すと多くの人が怯えている。
士狼にとって高校に通うのは10年以上ぶりの出来事だが、彼ら彼女らにとっては、士狼は1カ月もの停学事件を起こしておいて、最近しれっと戻ってきた不良だ。ただ見た目の風貌で敬遠されてたと思っていた士狼は、ここにきて意図せず全員を怖がらせていたことを自覚する。
「こらお前たちぃ。喧嘩は駄目だぞー」
さわやかな笑顔で、男性教師の新井
多熊の登場でほっと、教室に安堵が浸透する。それだけで、この教師が生徒からの信頼を勝ち取っていることが分かる。
「新井先生!」
おかっぱ眼鏡の周がなつっこい顔で多熊に笑顔をみせる。
「すみません先生。つい熱くなってしまって」
「いいんだ、いいんだ。時に生徒同士で熱くぶつかりあうことも大切だからな」
多熊が周の頭を乱雑に撫でる。
そして、その手は士狼の頭にも向けれらて、バチンと強烈にはねのけられた。
「さわんじゃねえよ」
「……はは、これは悪かったよ」
士狼が腕を振り払うと、多熊はわざとらしく笑って、指を差してくる。
「相変わらず激しいね、士狼君」
そういうと、それ以上はお咎めなしだという雰囲気で多熊は「授業するぞー」と号令をとる。その様子をみていた生徒達がこそこそとささやく。
「流石新井先生、大人って感じ」
「ねえ、氷室君に殴られたのに笑って許してあげてさ」
「それに比べたら氷室君って……謝りもしないで子供っぽいよね」
ささやきにしては声が大きくて、聞こえないと思ってるのか、聞かせているのか知らないが、暗黙の了解で教室という空間から士狼を追い出そうという意思を感じる。
しかし、士狼にとってそれは願ったり叶ったりの展開だ。これ以上他の生徒達に迷惑を掛けるのも本望じゃない。
(ようやくこれで俺の高校生活も終わりだな。日和もこれで諦めてくれるだろうし)
そう思って、最後のつもりで授業を受けて、下校時間になり……
「士狼君、たまには一緒にカラオケいきましょう!」
「やっほー、うちも行くよー」
「……」
日和と、その幼馴染で将来の売れっ子モデル、西野兎々が遊びに誘ってきやがった。
(どうして増えてるんだよぉぉぉぉ!)
心の中でそう叫ぶと、同時にガラケーに着信が入る。
画面には坂口大雅の文字が。それはまさに神の救済も見えた。
(た、助かった! ナイス大雅!)
大雅は死の直前に母親のことを託した仲間だ。
この世で最も信頼できる親友。
「もしもし!?」
「おお、士狼ちーす。最近顔ださねえから心配してたんだぜ? 今日皆で集まるからこいよ」
「い、いく絶対に行くから待ってろぉ! 雷雨がきても解散はなしだ絶対だぞ!?」
「お、おう」
士狼は電話を切って笑顔で日和に伝える。
「と、いう訳だから。遊びにはいけないわ」
「士狼君に友達ぃ?」
「な、なんだよ。俺だって友達くらいいるわ」
「あやしい。校則違反の臭いがします。これは学級委員長として見過ごせませんね。私もついていきます」
「……は?」
「あっ、じゃあうちも行こうかな。日和だけじゃ不安だし」
「……もうストーカーじゃん」
ガックリと頭を垂れる士狼だったが、素晴らしい考えが脳裏をよぎる。
(そうじゃん、日和にあいつらを紹介すれば……ヤベエ奴だって理解して手を引くかもしれねえ!)
怪我の功名とはこのこと。
士狼は最後の頼みの綱である、仲間達の顔を思い浮かべるのだった。
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