黄泉の番人~死後の審判は時に優しく、時に厳しく~

ゆる弥

第1話 可哀想な子

 私は、黄泉の世界での番人をしている。

 

 訪れた人の生きてきた軌跡を顧みて、次の生を受けるまで過ごす天国の街へと案内する役割である。

 

 目の前には一人の子供がいる。


「お名前聞いてもいいかな?」


可愛かわい 宇名うな……」


 手元の資料と合致している。この子で間違いないなぁ。軌跡を見るとまだ十歳だ。まだまだこれからという時に死を迎えてしまうとは。


「宇名ちゃんだね。なんで死んでしまったかわかるかい?」


「なぐられた」


「酷いことをする人がいるもんだねぇ。誰に殴られたんだい?」


「お母さんが連れてきたおじさん」


 離婚して、母親がこの子を引き取って育てたのかな?

 軌跡にはその人のことしか書いていないから困る。

 だから、こうして聞き取りをするんだけど。


「そうか。お母さんは助けてくれなかったのかい?」


「いなかった」


 いない間に、母親が交際していた男に殺されたんだろう。

 さぞ辛かっただろうなぁ。

 どれだけ痛めつけられたのか。


「痛かったかい?」


「うん。でも、なくと。またなぐられる。だから、がまんしてた」


 我慢した末に死んでしまったのか。

 可哀想に。

 この子に非は一つもないだろうになぁ。


 怖かっただろう。

 痛かっただろう。

 辛かっただろう。


「言葉にならない。辛い思いをしたね。誰も殴らないなら、家族が欲しいと思うかい?」


 次の生として生み出される前に。

 暴力のない、愛のある家族が幸せであることを知って欲しい。

 これは、私からの願いだ。


「なぐらないなら」


「うむ。わかった。では、可愛 宇名を家族愛の天街へと誘う」


 うなちゃんの目の前に門が開かれる。

 

 そこからは陽だまりのような光が放たれている。

 心地いいような。

 温かいような。


 そんな光。


「宇名ちゃん、この門を潜って、次の生を受けるまで家族の愛を感じるといい」


 コクリと頷くと、宇名ちゃんは門を潜っていった。


 最近はこういった辛い思いをした魂が多くやってくる。

 天街で少しでもいい思いをしてほしいものだ。

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