14_ザ・テラー
「あ」
「ん? どしたの? 水樹」
「あいつ! また浅見先輩と一緒に……!」
「どうしたのよ、水樹?」
「私の彼氏が、アルバイトが一緒の先輩とデートしてるの!」
「……そりゃあかんわ。水樹、今日はもういいから、そいつとっちめてきな!」
「わかった!!」
私は、部活動が終わった後に。部活の仲間と一緒に都宮駅前に遊びに来たんだけど。そこで見てしまった。誠実なくせに浮気性の彼氏、正時を。
正時は、浅見先輩と一緒にいた。
二人で仲良さげに、コーヒーショップで買ったみたいな紙コップをもって。
噴水前に歩いてきていた。
そんなところを目撃して、私は自分の中に。
激しい怒りが生まれるのを覚えちゃった。
だから。
部活が同じで、けっこう仲のいい同級生の
浅見先輩と一緒に、駅前広場の噴水前のベンチに座っている、
『彼氏』の笹倉正時の方にずんずんと歩み寄った。
* * *
「正時さん?」
「えっ? その声……⁈」
「多分正解。あなたの彼女様よ?」
気が付かなかった! どうやら、ベンチの後ろから回り込んできたみたいで。
いきなり何か、頭に重さを感じたと思ったと同時に。
スッゴイ怖い水樹の声がするまで!!
「うふふふふふふふふふ~?」
「あ、あはは?」
水樹は、僕の頭に顎を乗せているみたいだ。その姿勢のままで、笑っている……、のかな?
「何やってんのかな? 正時さん?」
「せ、先輩の。光海先輩のショッピングに付き合ってて」
「うん。で、正時さん?」
「は、はい、水樹さん」
「質問です。それは世の中で何と呼ばれる行いでしょうか?」
「しょ、ショッピングでは?」
「ショッピングでは、ありません」
そこで、顎を僕の頭の上から外して。
トコトコと、僕の真正面に立って。
僕の事をにらみつけてきた!!
こ、こえ~!! 目が、眼が、瞳が!! ガンギマリのおっかない視線を撃ち込んできてるよ、水樹!
「ブー!! 不正解です! 解答は、これですっ!!」
うわっ!! パァン! って音がして。僕の頬に、しびれるような痛みが走った!
「ばかっ! それはデートって言うのよ!! 私というプリティ彼女がいながら! アンタはフラフラ何やってんだぁッ!!」
こ、こえー!! 僕の頬っぺたに鋭い平手打ちを放った後の。
水樹の、まあ表情は。
貼り付けたみたいに、清楚可憐な微笑を浮かべてるんだけど……。放ってる視線と声質と言葉が……!
明らかに激怒してる!!
* * *
「いや、マジすいませんでした!!」
「ごめんね、蔵山さん。正時を責めないで。私がショッピングに付き合ってって。頼んじゃったせいだから……」
僕と光海先輩は、仁王みたいなお怒りモードになってる水樹にひたすら謝る。
「浅見先輩はいいの。問題は、そこの浮気人間よ」
僕に向かって、右手の人差し指で指差しをしてくる水樹。
「処刑してやろうかしら、まったく! 何考えて先輩の買い物に付き合ったのよ⁈ どうせ、エッチな事でも考えてたんでしょ!!」
「ぬ、濡れ衣だぁ~!!」
「浅見先輩、胸大きいからね!! 私の胸はそこまで大きくないし!!」
「そんな厭らしい事は!! 考えてないよ! ちょっとしか!!」
「ちょっとは考えてるんかーい!!」
水樹のパンチが飛んできた。猫パンチなんてもんじゃない。腰と肩の入った、右ストレート!! しかも丁寧に、僕のみぞおちに叩き込まれた!!
「うぶっ!!」
いって、いってー!! 腹筋が多少は分かれるくらいには、普段から筋トレをしてる僕の腹筋防御を貫通して、打撃が入って!
みぞおちに打撃を貰った時に感じる独特の、身体がひっくり返るような変な感触を堪えていると……!
「もう、しない? 浅見先輩とは、学校とかアルバイトの時か、じゃなければ。私が一緒にいるときにしか会わないって。約束してくれる?」
こんどは、切々と訴えかける様な様子で、水樹が言ってくる。
「う……。はぁ、しょうがないか。約束するよ、水樹。光海先輩も、それでいいでしょ?」
僕が。『彼女を持つ際に当然発生するであろう身の振りの責務』を鑑みて、光海先輩にそういうと。
「……まあ、確かに。そりゃそうね。今度からは止めましょう、こういう勘違いをされちゃうようなことは」
あっさりとそれを認めた、光海先輩。
何の惜しみもないような感じだったから、僕は。
光海先輩はひょっとして、僕に対して恋愛感情を持っているのではないかという、また妙な過信や勘違いを捨てるようにした。
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