蛮族の俺は、勝ち組貴族に成り上がりたいのだが?

@satoika

第1話 蛮族の俺の話

 それは、性に多感な16の時だった。

 俺は


「俺は今、この世の真理に到達したかもしれん……」

「「「??」」」


 俺は今日の戦の戦利品である女が水浴びをしている姿をみて、真理に到達した衝撃に呟いた。


「……デカい国ほどいい女がいる」

「「……は?」」

「今回襲撃したのはいつもの野盗連中の20倍は規模がデカかった……だが、見ろ、女はいつもの100倍はいい女だ」


 顔は美しく、容姿は豊満、野盗連中が囲っている栄養が足りていない骨ばった女とは肉付きが違う、何より明らかに健康で清潔だ。


 まるで男を知らないような清らかな閉じた身体は、貫きがいがありそうだ。

 こんな女体があるとは……俺はまだまだ未熟者だったようだ。


「しかも、見ろ、たくさんだ……ひいふうみい……14もいるぞ!!ここは天女の国だな!!」


 これだけいれば間違いなく俺にもおこぼれが回ってくる!!抱けるならどの女でもいい!!早く分け前にありつきてぇな!!


「……まぁ、王様がいる国ってのはどこも女囲っているからなぁ……ある意味真理なんだが……」

「ガラオン様、そんな前のめりになっても、俺達はおこぼれには与れないっすよ」

「何でだ?!俺が一番殺した数は多いはずだぞ!!」

「そりゃあ、そうかもしれねぇっすけど、序列ですから……」

「普通は活躍した順だろう?!なんで楽してる年寄りどもが先なんだよ!!」

「しぃ!!ガラオン様、ぶっころされるからしぃ!!ジジイどもに聞かれたらヤバいっしょ!!」

「上等だ、あの老害ぶっ殺す!!」

「いや、だめですからね?!というか、殺す前に取り巻き連中にやられますって!!」

「いや、まて、ガラオン、本気でヤレるか?」

「……」


 俺は、そう聞かれて、冷静に算段をつける。

 頭だけなら、ヤレないことはない。

 一騎打ちの力量なら、俺は間違いなくトップクラスに順位付けられる。


 だが、取り巻き連中に囲まれると分が悪い。


 特に投擲や網をかけられた時が厄介だ。物が握れるような年にもなれば、男も女も戦力とされ、相手に石を投げつける訓練がされる。原始的な攻撃だが、投擲は数があると厄介この上ない。

 戦場をうまくしたて、対少人数戦かつ遠距離攻撃を無効にできる形にしたとしても、敵にする数が多いので、武器の摩耗が激しく予備の武器は確実に必要になる。


 状況次第では、かなりの深手を負う可能性もあり……そもそも、オヤジが出てきたら秒で俺の首が飛ぶというのは間違いない。


「…………まだ早い」

「……そうか、なら我慢しろ……頭が決めたなら下っ端はとやかくいうな……」


 俺は、苦い気持ちを噛みながら、面白くなくて、水場から離れた。


 王を持たない民を積極的に選択する連中を『蛮族』と呼ぶ。


 俺はそんな集落に生まれ、生きるために腕っぷしを磨いた。


 王を持っても持たなくても、この世界の摂理は同じ、弱ければ死ぬ、生きたければ強くならねばならない。


 王がいても食い扶持がなければ他国から力で奪うのが通例、王のために食糧を奪うか、自分のために食糧を奪うかの違いで生きるために必要な事にさして違いはない。


 むしろ前者は王の取り分が発生するため、貰いが少なくなる詐欺みたいなもんだ。


 そういうことに気がついた賢い連中が、王を捨て『蛮族』になった。


 そして、気がつけばいつしかこの辺一帯は蛮族だらけになった。


 蛮族は蛮族を襲わない。


 良い女がいるとか、たらふく食糧をためこんでいるというなら別だが、蛮族は定住地を持たないため襲っても得る財がないのだ。


 さらに力で奪うことに特化した蛮族はどいつもこいつも戦なれしていてやたら強く、割に合わない。


 自分の命を張って戦うなら、なるべく強者を避ける傾向にあるのが当然なのだ。


 だから襲う先はもっぱら村や国といった財を蓄えている連中だ。どんなにしけた集落でも、そこそこの食い物がある。腹が減ったら適当な村にしけ込んで飯と女と酒を喰らい、飽きたら別の村にいく。そういう生活が『蛮族』なのだ。


 しかし、強くなりすぎた我が部族は……というか、親父が桁外れに強すぎて、この辺一体の蛮族を従えてしまったのだ。


 親父は特に何をしている訳でもないが、勝手に何個かの蛮族の塊がぞろぞろくっついてくるようになった。さらに襲撃場所のお伺いがまわってきたり、縄張りの棲み分けが回ってきたり、なんか知らんうちに『賊頭会』とかいう各蛮族の代表みたいな大仰な名のついた組織が出来て、そいつらが『あぁしろ、こうしろ』と仕切るようになった。


 今回の国落としもそうだ。


 大陸の中央部は蛮族だらけになっちまったため、滅多に商隊が通らなくなった。村も国に捨て置かれた連中ばっかりでろくな食い物もねぇ、おまけに今年は異常気象でどこも穀物が育たなかった。ゆえに大陸中が飢饉で食物不足。


 村にもここいらの街にも麦がねぇ、だが、さすがに国にはあんだろう?って感じで小さいが一応国を名乗っている街を襲撃した。


 さすがに、国の連中は村人と違う。戦う武器をしっかりと身につけて、一人一人の技量も相当の訓練をしているとわかる見事なもんだった。


 かなり骨をおるしんどい戦だったが、無事に終えてみれば、今までの比ではない宝ばかりだ。


 ただ、取り分には納得いかない。


「老害どもがっ」


 苛立った気持ちを断ち切るように、剣を振る。

 背後の気配に気付き、剣で思い切り叩き切ると、軽く避けながら親父がニヤニヤしていた。


「クソ親父か」

「ちぃと付き合え、お前ももう16、一端の男だ。女の口説き方を教えてやる」

「……」


 別にと思ったが、断ったらぶん殴られるので、素直に従って親父の後をついて歩いて行く。



 その数時間後、俺は新たなる真理に到達した。


 国にいる女は、皆、美人だ。

 パン屋、宿屋、魚屋、あらゆる店には必ず、ヤレる女が一人はいる。


 こりゃあすげぇ!そりゃあ皆、都に住みたがるわけだな!!


 俺は今日から都会っ子になることにした。


 だがそれから1ヶ月もしないうちに俺達は街から追い出されることになった。


 『賊頭会』は、この街を拠点にすることにしたらしく、下っ端連中は持ち回りで周辺警備に駆り出されることになった。


「くそ、ジジイども王にでもなったつもりかよ」

「やってられねぇ、まじで」


 これには一緒に追い出された連中も非難轟々だ。

 俺らは騎士でも警備隊でもない。


 野盗で山賊だ。

 危険に身をさらすのは皆同じで、だからこそ得たもんは皆でわけあう。

 てめぇの命はるのは、てめぇの食い扶持をかせぐ時だけだ。

 ふんぞり帰った頭を守るために命張るバカでもお人よしでもねぇ。


「仕方ねぇ、北にでもいくかなぁ……なんでもすげぇ豊作な国があるらしいぞ」

「バックれるか……ガラオン、お前はどうすんだ?」

「どうすっかなぁ……俺の聞いた話じゃ北は飢饉ギリギリだってきくし、いい女はいなそうだしなぁ……」


 周辺警備で割り当てられたのは南側だ。適当に時間を潰すというのも良いかもしれない。

 なんせ街には俺の帰りを待っている女が4人もいる。

 今日は大人しく出てきたが、事態を親父が知ったら黙ってはいないだろう。


 あんまりあてにはしたくねぇが、こればかりは親父が暴れるのを俺は待つばかりだ。


「あぁ、ガラオン、言っとくがそういう期間限定じゃねぇぞ、その土地を縄張りにしろってジジイどもが言っていただろう?つまり帰ってくんなってことだ」

「はぁ?!何とちくるってんだ?!」

「いや、だからそう言ってるだろう」


 こんなしけた土地に定住なんてできるかよ。

 大体、何の権限あって俺に命令してんだ……普通にムカついてきた。


「ジジイどもは今回の件で完全に王様気取りだ。食うに困らねぇ場所を占領できたのは自分らの采配だって言い張っているからな」

「親父によく叩き切られねぇな」

「あーー……ガラオン、それなんだが……大変言い難いんだが……」

「なんだ?」

「お頭は、今回の城攻めで腕っぷしが良かった連中を集めて出て行った」

「?!は??」

「この王都戦の話に、なんでお頭がのったかっていうと、強い連中を集めて新天地に行くって計画があったらしい……」

「……」

「まぁ、なんつぅか、ここいら一帯はお頭に楯突く連中がいねぇだろう……退屈だったらしくてな……だからといって昔みてぇに好き勝手動くとぞろぞろ邪魔なのがついてきていてうぜぇだろ?」

「ま、まじかよ?……さすがに驚いたぞ」


 数日前から親父がいなかったのは、とっとと出て行ったからだったようだ。

 そして、賊頭会があんなに生き生きとドヤってなんだかんだ命令してきたのは、親父がいなくなって、自分達が名実ともにトップになったからだ。


 いや、親父は最初からそのつもりだったのだろう。雑魚連中の相手が面倒になって『蛮族』に戻るつもりだった。


 王都落としは、連中を切り捨てるための餌にすぎなかったのだ。


 そんでもって、俺も親父に寄生しようとする雑魚と切り捨てられたということだ。


 まぁ、たしかに……俺はついさっきまで親父が暴れて賊頭会を皆殺しにするのをちらっと望んじまったというやましさがある。


 誰かをヤりてぇなら、てめぇの命を張るべきだ……人に甘い期待をかけて、寄りかかって生きようなんて蛮族の生き方じゃない。


 息子だろうが容赦なく、置き去りにする。


 それが、親父の生き方だ。


 そうかよ……親父は、強い連中だけを従えて『蛮族』の生き方を選んだ。


 それで俺は


 雑魚と一緒に切り捨てられた側かよ……。


「くそ親父、次会ったらぶっ殺す」


 強いってのはいい……何でも好きに生きられる。


 俺だって誰かの事情に左右されたり、誰かの思惑に転がされたり、そんな人生なんて真っ平ごめんだ。


 俺はまだまだ足りない自分の力に悔しさがつのる。


 ぎゅっと拳を握った。


「俺も北にいくぞ……北の街だ。いい女がいる豊作の国を見つけて根城にする!!俺は蛮族だ!!いい女のいる国であぶれている女を攫う!!」

「くっそ碌でもねぇ宣言だが、それでこそガラオンだ!!うし!!俺もいくぞ!!」

「今日からお前が頭だ!!ガラオンお前についていくぞ!!」

「お頭ぁ〜!!ばんざぁい!!」

「万歳!!」

「おう、全員まとめてついてこい!!てめぇらに新しい世界をみせてやる!!親父についていくより良い目みせてやるぞ!!」


 俺は馬を方向転換して北の大地に向かって駆け出すとドッドと何十もの馬が後ろについてくる。


 俺はこの日、蛮族の長となった。

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