第6話

 高木の自殺はネットニュースで取り上げられていた。一部の噂では自宅に遺書があったらしい。佐々木は正直に木村に話すかどうか悩んだが、結局話すことに決めた。

「佐々木さんは殺そうとはしたけど、殺さなかったんですね?」

 木村は微笑みながら佐々木に問いかけた。

「正直、自殺しなかったら。殺してたと思います」

「そんな未来にならなくて良かった」

「高木は木村さんが死ぬようにコントロールしたんですか?」

 木村は小さく首を傾げた。

「私は亡くなる数日前の方に寄り添うお仕事をしているだけですので人の死をコントロールすることはできません。高木さんの死と私は関わっていませんよ」

 ならばなぜ高木は死んでしまったのだろうか。佐々木をストレスのはけ口のように扱っていた高木がなぜ。もしかするとストレスの発散のやり場がなくなったことで死を選んだのか。

「もし僕が高木を殺していたら、僕は極楽へ行くことはできなかったのですか?」

「そうですね。あなたは殺人犯となり、地獄行となって、獄卒たちに体を切り刻まれ、極限の苦痛の果てに死んでは、甦らされ、無限に苦痛を与えられることになるところでした」

 佐々木は唾を飲んだ。あのとき、腕を伸ばしてしたら、今頃どれだけ震えていたことだろう。

「高木は地獄行ですか?」

「閻魔様が判断されることですから、私にはわかりかねますね」

「あくまで木村さんの考えを聞きたいんです」

 木村は笑みを浮かべたまま、眉根を潜めた。

「高木さんがどれだけ善を行ったか、悪事を働いたかをよく知らないので何とも言えませんが、佐々木さんを自殺に追い込むまでに嫌味や皮肉を続けていたのは重い罪です。地獄行の天秤が大きく傾くのは、間違いないですね」

 佐々木は安堵した。自分が死んで極楽に行ったときに、高木がいてそこでもまた嫌味を言われたら救いようがない。

「それを聞いて安心しました」

 翌日、佐々木はボストンバッグに荷物を詰めて、空港に到着した。那覇空港に行く飛行機に乗り込むと、久しぶりに飛行機の匂いがした。

「木村さんも乗るんですね」

 木村は佐々木の隣に座った。

「まさかこの飛行機が墜落するとか?」

「いえいえ、それではないと思いますよ」

 あやふやな物言いに佐々木は内心不安だったが、結局飛行機はあっけないほど無事に那覇に到着した。ホテルに到着して部屋に入ると、今まで経験したことないほど広かった。

 ベッドに倒れ込むと、心臓に鈍い痛みを感じた。

「ここで? まだ観光してないのに……」

 鈍痛は激しくなっていき、起き上がることができない。

「佐々木さん、お待ちくださいね」

 木村が佐々木の胸に手を当てると鈍痛が引いて行った。しかし、今度はどんどん眠気が強まっていく。

「私は痛みを和らげることはできますが、死を逃れることはできません。このまま眠るようにあの世へ行きます」

「ありがとうございます」

 佐々木は眠気にしたがって目を閉じた。ゆっくりと意識があやふやになっていき、深い眠りについた。

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死の見送り人 佐々井 サイジ @sasaisaiji

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