第23話: 逃走劇と覚醒

 東京の夜。都会の喧騒が少しずつ静まり、繁華街からの光がまばゆく空に反射していた。だが、その華やかさの裏側で、命を懸けた追跡劇が幕を開けようとしていた。


 隆司とアリシアは息を切らしながら、雑居ビルの裏路地へと飛び込む。追いかけてくる暗殺者たちの気配が背後から迫り、二人の心臓は激しく鼓動していた。


「なんで、こんなことになってんだよ!」と隆司が息を吐きつつ叫ぶ。


「私を守ると約束したのはあなたよ!」とアリシアが反論する。


「だからって、追い詰められるなんて聞いてねえ!」


 その言葉に、アリシアは苛立ちを覚えながらも周囲を見渡した。「文句を言ってる暇があるなら、どうにか逃げ切る方法を考えなさい!」


 暗殺者たちは無言で二人を追い詰めていた。彼らは漆黒の衣装に身を包み、その足音はわずかに響くだけで、影のように静かに迫る。


「このままじゃ捕まるぞ!」と隆司が呟き、ふと視線を向けた先に駐輪場が目に入った。


「アリシア、乗れ!」


 彼は近くに停められていたボロボロのママチャリに飛び乗ると、アリシアの手を引き寄せて後部座席に乗せた。


「これで逃げ切れるとでも思ってるの?」アリシアが疑わしげに言う。


「考える暇なんてねえだろ!」と叫びながら、隆司は全力でペダルを漕ぎ出した。


 街中の狭い路地を駆け抜ける二人。追ってくる暗殺者たちは走る速度こそ異常だが、自転車を利用した隆司たちにわずかに距離を詰めきれないでいた。


 しかし、彼らの執念深さは常軌を逸していた。一人の暗殺者がポケットから何かを取り出し、手首を振ると、小型の刃物が隆司たちの方向へ飛んできた。


「危ない!」アリシアが叫びながら手をかざすと、魔法の障壁が発生し、刃物を弾いた。


「サンキュー!でも次からは前も警戒してくれよ!」隆司はそう叫びながら、前方に停まっている車やゴミ袋を避けて進む。


「追いつかれる……!」アリシアは状況を見て焦燥感を抱いた。このままでは何も変わらない。自分にもっと力があれば――。


 その瞬間、彼女の瞳が僅かに紫色に輝き始めた。内なる魔力が彼女に囁いているかのようだった。


「……この世界の者よ、力を貸せ!」アリシアが叫びながら手を空に向けた瞬間、周囲の街灯が一斉に明滅し始めた。


「何してんだよ!」隆司が驚きの声を上げるが、その時、アリシアの手のひらに集まった魔力が形を成し、自転車の後輪を覆うように輝きを放ち始めた。


「加速するわ。しっかり掴まって!」アリシアが言うと、隆司は思わず彼女の言葉を信じ、ペダルを漕ぎ続けた。


 突然、自転車の速度が信じられないほど上がった。まるで風そのものになったかのように、二人を乗せた自転車は闇を切り裂くように疾走する。


「な、なんだこれ!?」隆司は驚きながらもペダルを必死に漕ぐ。


「魔法よ。この世界の物理法則に干渉する力!」とアリシアが得意げに答える。


「すげえじゃねえか!でも、これ、止まれるのか?」


「その心配は後にしなさい!」


 追ってきた暗殺者たちは、自転車の異常な速度に一瞬呆然としたが、すぐに再び追いかけ始めた。


 目の前に広がる大通り。信号は赤。車が行き交う中、隆司はその状況に顔を青ざめた。


「どうするんだよ!止まるか?」


「ダメよ!止まれば追いつかれる!」アリシアが叫ぶ。


「無茶だろ!」隆司は必死に叫びながらも、アリシアの決意の強さに押される形でペダルを漕ぎ続けた。


「大丈夫、信じて!」アリシアは魔法の力を集中させ、二人を守るように光の膜を展開した。


 次の瞬間、自転車は車の間をすり抜け、まるで水の流れに乗るように通り抜けた。


「やった!」隆司が叫ぶ。


 だが、それも束の間、暗殺者の一人がビルの屋上から飛び降り、彼らの進路を塞いだ。


「これで終わりだ!」暗殺者は鋭い刃を構えた。


 だが、その瞬間、アリシアが手を翳した。


「まだ終わらない!」彼女の魔法が発動し、光の矢が暗殺者に向かって放たれた。


 矢は暗殺者の刃と衝突し、激しい光の閃光を放った。隆司はその隙を突いて自転車を急旋回させ、再び逃げ出した。


「やるじゃねえか!」隆司は笑みを浮かべながら叫んだ。


「当然よ!私を誰だと思っているの?」アリシアも疲れながらも微笑んだ。


 その後、暗殺者たちは追跡を諦め、二人は何とか安全な場所に逃げ込むことができた。


 息を切らしながらも、隆司はアリシアに向き直った。「お前、本当にすげえな。魔法もだけど、その度胸も。」


「あなたもなかなかのものよ。この現代の乗り物でここまで逃げ切れるとは思わなかったわ。」アリシアはそう言いながら、隆司に感謝の笑みを向けた。


 夜空の下、二人は改めて自分たちの強さと絆を確かめ合うのだった。

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