海なし県の夏日和

浅野エミイ

海なし県の夏日和

 ――夏だ。

 リア充だったらきっと、海水浴場で伸びたラーメンなんて食べるのが夏の最高の思い出なんて思うんだろうけど、俺はそんなにアクティブではないし、ここの県には海がない。

 夏はクーラーの効いた部屋で、ゴロゴロするのが定石だ。

 だけど、涼しい部屋にいても、夏の暑さはやはり体感しないと夏ではない気がする。

 俺はわざとエアコンを消し、真夏のギラギラと照りつける紫外線たっぷりの日差しを窓から入れる。うん、最高に暑い。一瞬で汗をかく。

 こんな中で食べるカップ麺はうまいだろう。夏の暑さを感じられて。

 普通はきっと、冷えたアイスを食べるのを至福と感じるだろう。夏場に冷たいものを食べるのは定番だが、夏は夏。暑くてなんぼだ。

 俺はカップ麺を探しにキッチンへ向かう。あったのは、緑のたぬき。そばか。そばと言えば、やっぱり夏はざるそば。でも俺は、この暑い中湯を沸かし、緑のたぬきを食べようとしている。

 傍から見ると奇人かもしれない。奇人で結構。夏はやっぱり暑さを感じなくては夏という季節ではなくなってしまう。

 エアコンが普及してから、冬の寒さや夏の暑さをしのぐ方法を人間は見つけたと思う。それに、寒すぎても暑すぎても体に毒だ。それはわかっているが、寒さや暑さを感じなくなってしまっては、日本の四季を体感できないような気がする。それは、せっかく四季のある国に生まれたのにもったいないことだ。

 湯が沸いた。緑のたぬきを開封し、粉末スープを天ぷらの上にかけて、湯を注ぐ。粉末スープが天ぷらの上にかけると、濃く天ぷらに味がつく。夏は少ししょっぱいほうがいい。それから3分間。窓からは夏休みの子どもの声が聞こえる。この暑い中、どこかへ出かけるのだろう。子どもの声が聞こえなくなったら、フタを開ける。蒸気でまた、汗が出る。

 気にせず緑のたぬきを口にする。ずずっ、熱い。暑い。しかし、うまい。


「あーっ……」


 つゆを飲むと、また汗が噴き出す。やはり夏。こうでなくては。

 これもまた、夏を感じられる貴重なひととき。俺はこうして『夏』を存分に感じる。これもまた、季節を楽しむということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海なし県の夏日和 浅野エミイ @e31_asano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説