第4話「最初の患者」



店の戸口で、小さな鈴の音が鳴った。


「あの、すみません...」


振り返ると、そこには10歳くらいの少女が立っていた。膝から血を流している。


「マリア!どうした?」


アルフレッドが駆け寄る。どうやら顔見知りのようだ。


「木から落ちて...」


「見せてごらん」


私は反射的に傷の観察を始めていた。擦過傷と軽度の挫傷。幸い骨には異常がなさそうだ。


「先生、彩花の軟膏があれば...」


「ほう?」


アルフレッドが意外そうな顔をする。


「さっきの彩花を使えば、傷の治り具合が分かりますよね。それに止血と消毒の効果もある」


「よく覚えていたな。だが、調合できるかな?」


私は決意を固めて頷いた。


「マリア、少し待っていてね」


早速、作業台に向かう。彩花の粉末を適量取り...。


(この世界の薬草は強力すぎる。希釈して...)


研究者時代の経験を思い出しながら、慎重に調合を進めた。


「できました」


薄い青色の軟膏が完成。マリアの傷に塗ると、傷口がほのかに光を放ち始めた。


「痛くない!」


マリアが目を輝かせる。


「よくやった」


アルフレッドが満足げに頷く。


(やれば、できる)


私は密かに誇らしい気持ちを抱いた。これが、異世界での最初の治療。そして、新たな一歩。


「あの、お姉さん?次から私の薬も作ってくれる?」


マリアの無邪気な笑顔に、私は思わず頬が緩んだ。


「ええ、もちろんよ」

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