よくきたね! ・ 歓迎するよ。

「よくきたね!」

「歓迎するよ。」


 同じ顔をした二人の子どもが私を迎えた。ここは何処なのだろうか。嫌に白くて、だだっ広い。


「?」


 私は何をしていたんだったか。何かとてもをしている最中だった気がする。周りを見渡すも、二人の子どもしか見当たらない。仕方なく子どもに向き直る。


「誰?」


 その問いに片方がニコッと笑い、本を読んでいたもう片方を見る。同時にこちらを向く。


「僕はリオ、《読書家Creator》。」

「私はリア、《音楽家Destroyer》。」

『二人で箱庭の守り人をしている(よ!)』


 双子は声を合わせて言う。箱庭とはなんだろうか。そもそもなんで私はここにいる?


「混乱しているみたいだね。とりあえず、これでも飲んで落ち着いて。」

「そうそう落ち着いて!」


 男の子の方リオがそう言った瞬間、眼の前にテーブルと椅子が現れ、次の瞬間にはお茶とお菓子が出現する。思わず目を瞬かせる。


「どうぞ。」

「どうも……ありがとう?」


 ここは感謝をするところだろうか。わからないことが多すぎるが、とりあえず席につく。所謂ティーテーブルというものに所狭しとお菓子が置かれている。


「これだけじゃ殺風景かな。リア、お願いできる?」

「良いよ! それ〜。」


 女の子の方リアが手を振り下ろした瞬間、周りの景色が変わっていく。光り輝き、目が眩んだ一瞬の後、そこは緑溢れる庭園になっていた。空を仰げば、青く広々とした中に太陽が浮かんでいる。


「驚いてる驚いてる!」


 リアが手を上げてキャッキャと喜ぶ一方、リオは少々呆れ顔をしてそれを見ている。こういうことが何回もあったらしい。同じ顔をしていても性格はかなり違う。座ったまま固まっていたら、リオが話しかけてくる。


「混乱してるのはわかるんだけど、説明するのがちょっと難しいんだよね。状況が込み合ってて、僕らも全容を把握しきれていないんだ。」

「なんかごちゃごちゃ〜ってしてるよね!」

「そんな軽く言えることでもないんだけど。」


 笑い合って、軽い掛け合いをする。何もわからないが、この二人は何か知っているということだけはわかる。ふと、笑いが止んだ時、二人が共にこちらに向き直る。


「さて、説明しないのも何だし、君の質問に答えようか。」

「なんでも聞いちゃって。いっぱい答えるよ!」

「じゃあ……、ここはどこ? 私はなんでここにいる?」


 最初からずっと気になっていた事だ。私はここに来る前にしていたんだった?


「最初から難しい質問をする。……かいつまんで説明するよ。まず、ここは箱庭。どこにでもあって、どこにでもない、儚い夢のような場所さ。まあ、普通の人は知らないし、来ることもないところになるね。」


 ふっとリオはどこか遠いところを見つめる。リアはそんなリオを寂しげな表情で見る。先程の明るい顔とは人が変わったような顔だ。


「私達はここから出られないし、外を見ることしかできない。」

「籠の中の鳥のようなものだよ。でも、君みたいなのがたまに迷い込んできたときは、まあ……嬉しくなるよ。」

「今回は何百年ぶりだっけ?」

「270年ぐらいだよ。……そんなことは置いておこう。まとめると、ここは夢だ。見られないし触れられないけど確かに存在する、そんな場所。……一部例外はいるけど。」


 そう締めくくる。


「……」

「もう一つの質問については、たまたまかな。リアが偶然君を見つけて、ここまで引っ張ってきたんだ。」

「ふふん。頑張ったよ!」

「ここに来る前、君が何をしていたかは僕らも把握している。言えないんだけどね。」


 なんで? 一番知りたいことなのに。


「メンドーなんだけど、私達はルールというものに従ってるの。今回のはそれに引っかかったの。」

「……そう。」


 わかりやすく疑問が顔に出ていたらしい。どうも調子が狂う。そんなときふっと、空が陰る。


「おっと、もう時間みたいだし、手短に伝えようか。」

「え〜、まだ一回しか質問されていないのに〜!」

「実質二回だし、良いだろう。」


 夜の帳が降りて、木や庭園の装飾はサラサラと溶けて消えていく。顔を上げ、空を見つめる。


「まあ、いいや。じゃあ、に気をつけるんだよ〜。」

「言われてしまったか。」


 空を見上げている間にそんなことを言われる。視線を下ろしている合間にだんだんと意識が薄れていくのがわかる。ガタリ。テーブルに突っ伏すも、気合で二人の方を向く。


「また、会おうね。」

「健闘を祈っている。」


 寂しげな表情と悲しげな表情を最後に、意識は暗闇に沈んだ。

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