第3話 恋する乙女の心臓は限界です!!
デート当日。
とりあえず駅前のカフェで待ち合わせて、今日の行き先を相談することにした。
「で、今日はどうしようか?」
すばるさんが軽くコーヒーを飲みながら尋ねる。
「えっと……どこか行きたいところありますか?」
緊張しながら返すと、彼は少し笑って首を横に振った。
「いや、あゆみちゃんが行きたいところでいいよ。」
――そう来るんだ。さすが先生、いやすばるさん。マイペースというか、自然体というか。
何も決まっていないけど、こうやってゆっくりしていくのが先生らしいって言えばらしい。
計画立てて時間に追われるより、気の向くままに進むのも案外心地いいな、なんて思った。
そんなことを考えていると、すばるさんが不意に口を開いた。
「そういえば……あゆみちゃん、ちょっと髪切った?」
「え?」
思わず顔を上げる。
「切ったけど……なんで分かるんですか?」
「いや、今日、いつもよりかわいいから。」
――おわーっ!?
心臓がギュンと跳ねた。トランポリンした。
なんか言い方が余裕ありすぎる!
これが……これが大人の余裕ってやつ!?
「まずい……私の心臓の高鳴りがばれたら、なんかダサいぞ!」
心の中で大慌てしながらも、表面上はなんとか冷静を装う。
「そ、そんなことないですよ!髪切ったくらいで!」
とりあえず笑顔を浮かべて返したけど、耳まで真っ赤になっている自覚がある。
その一方で、すばるさんはコーヒーを一口飲んで、のんびりした笑顔を浮かべているだけだった。
――ズルい。なんでそんなに落ち着いていられるの!?
「それにその服装、なんか大人っぽいね。すごく似合っているよ。」
「……!」
な、なんだ!?
これが陽キャってやつ!?もしかして先生、天性のたらしなのか!?ナンパ師!?
いやいやいや、まずい!恋愛上級者に飲み込まれるな!がんばれ、わたしー!!
「そ、そうですか? 先生こそ、いつもと雰囲気が違って――」
――あれ?何を言ってるんだ私は!?
しかも「先生」って呼んじゃった!いや、付き合う前からそう呼んでたからクセなんだけど、でも、でも!
「それに……このカフェ、付き合う前から来てましたよね?だから私服なんて。」
――わー!! 言っちゃった!!
付き合う前って言っちゃったよー!!!
付き合っているんだなー、私たち!
自覚したら、にやけが止まらないよー!!
もう、冷静さなんてどこかに吹っ飛んでる。
必死に飲みかけのジュースに口をつけてごまかす。
「そうだね。」
先生――いや、すばるさんが、少しだけ照れくさそうに笑った。
「でも、その前の担任としての期間の方が長いじゃん? だから、制服の方のイメージがあって……だから、いつ見ても私服って少し新鮮で、かわいく見えるよね。」
――ノックアウト――!!!
あれ?なんで先生、そんな照れた表情しているの!?
余裕ありそうに見えたり、照れて見えたり!
なに!?もう!!!無理!!!
心の中で叫びながらも、わたしはその顔をじっと見つめてしまっていた。
こうして静かに話しているだけで、胸の高鳴りが止まらない。
――これが「付き合う」ってことなんだ。
落ち着け!落ち着けわたし!別のことを考えるんだ……
新鮮って、寿司ネタみたいな言い方するやないかーい!
よし、これで少しは紛れた。
ここまでわずか0.5秒!さすがわたし!
落ち着いたカフェの中、わたしの心だけがやけに騒がしい。
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