第30話 星くずの歌
何度かモンスターに遭遇したものの、無事に山を登りきることができました。
「ついたー! 2人ともお疲れ様ー!」
山のてっぺんはあまり背の高い木がなくて、ひらけた空がよく見えます。
広々と感じるのは、目の前が崖になっているからでしょうか……。
普通にしていたら落ちることはなさそうですが、あまり前に出すぎないようにしましょう。
「疲れましたね……」
一気に力が抜けて、その場に座り込む。
ただ歩くだけでも大変なのに、剣が重いです。
「1日中歩いてたからな」
オーウェンさんも少し疲れたのか、ぐっと身体を伸ばしています。
1番動いていましたし、むしろまだ全然元気そうなのがすごいです。
「ここに何があるんだ?」
ついたということはここがステラさんの帰り道?
そのわりには、何かあるようには見えませんが……。
「今は何でもないよ? でも、わたしの考えが正しかったら――ステラちゃんはもうすぐ帰れると思う」
オレンジに染まった空を見上げて、アリアさんはステラさんを撫でています。
端っこにはまだ昼の青さが残っていますが、反対側はもう暗くなり始めていました。
「ステラ、本当にここなのか?」
「ワカンナイー」
「……アリア、本当にここなのか?」
ステラさんが答えてくれなかったからか、オーウェンさんは何事もなかったかのように聞き直しています。
わからないなら、本当にここから帰れるか怪しいですね。
でも、今までは違うと断言していましたし、可能性は十分にありそうです。
「きっとここだよ? 本当かどうかは日が沈むまでわからないけど」
「そんな掛けでこんなところまで来たんですか!?」
さすがのアクティブさ……。
吟遊詩人のお仕事だって、各地を回る順番は思いつきだって言ってました。
「うん。でもいいでしょ? あてもないなら、わたしの案に付き合ってよ」
「もう付き合った後ですけど。私たちはよくても、アリアさんは無関係ですし大変だったのでは……?」
アリアさんはステラさんに触れた手を止めて頷く。
優しい微笑みの中に、無邪気さも見えます。
「楽しかったから問題なし! それに……大事な友達のことだもん、わたしも無関係じゃないよ」
「アリアさん……!」
優しいです。優しいのはわかっていましたけど、やっぱり優しい。
私の身の回り、優しい人しかいないじゃないですか。
なんだか感動してきてしまいます……。
「あははっ、ウェルちゃん嬉しそうだね! わたしまで嬉しくなっちゃう」
にこっと笑ったアリアさんは私にステラさんを預けました。
背負っていた荷物を降ろして、中から楽器を取り出します。
「夜が来るまで歌うよ! 3人にわたしの歌聴いてほしいし、ネタバレは厳禁でしょ?」
「聴きたいです! ……けど、楽器が壊れているんじゃ――」
ふふんと胸を張ったアリアさんが、得意気に楽器を見せてくる。
ちゃんと弦が綺麗にピンと張っていて――壊れているようには見えません。
「直ったのか!?」
「そー! バッチリ!」
楽器を構えてブイサインをするアリアさん。
昨日の今日でいつの間に?
「オレが知らないだけで村にも売ってたのか?」
「ううん。売ってないから町に戻って買ってきたんだよ。距離的にはそこまで大きく変わるわけじゃないしね」
新しい弦~と、アリアさんはご機嫌です。
無事に直ってよかった……けど、町ってことは――。
「あの、兄さんに会ったりしましたか……?」
「ううん」
勇気を出して聞いてみましたが、アリアさんは大きく首を横に振りました。
絶対会ってると思ったのに、珍しいです。
「プレンは最近、日の出にでかけて日が沈みきった頃に帰ってくるから……町にはほとんどいないみたい」
「そう……なんですか……」
それは多分――私を探すためだったりしますよね。
そんな立場じゃないとわかっていますが心配になってしまいます。
――聞かなきゃよかった。
そう思ってしまうなんておかしいですけど。
「ウェル、あのさ――」
「はいはーい、暗い気分はダメだよ。そろそろ日が沈みきっちゃうし! ね、ステラちゃん?」
オーウェンさんが何か言いかけた気がしますが、明るい声に遮られてしまいました。
「ゲンキダシテー!」
私の方を向いたステラさんが手のひらの上でぴょんと跳ねた。
可愛らしい励ましに少し笑ってしまいます。
アリアさんは優しく私の頭を撫でると、楽器を構え直す。
少し弦を弾いて、つまみを回して――と音を調整してから、ジャンっ、と1度音をたてました。
「じゃあ聴いてね、これは遥か昔から伝わるお話。話す星くずについてです」
前と同じ前置きが始まる。
オーウェンさんも私の隣に座って、アリアさんの方を向きました。
「話す星くずといっても、本物の星のかけらではありません。彼らは――」
すっと軽く息を吸い込み、アリアさんが本格的に音を奏でる。
音楽に合わせた柔らかい歌声が宙に伸びていきます。
その声にぐっと惹き付けられて、歌にも、物語にも惹き付けられる。
やっぱりアリアさんの歌、好きです……。
まるで本を読み聞かせるように歌が進み。同じように空模様も進み。
すっかり暗くなった空にはそろそろ1番星が見え――。
『星の煌めきが空を飾る頃――皆さん見上げてみましょう!』
アリアさんの歌声に流されるように視線がすっと上に向く。
「「あっ……!」」
オーウェンさんも同じだったようで、揃って声をあげました。
星の煌めきがぎゅっと寄り集まったかのように――キラキラと輝く細い道が現れました。
「ア、アッター!」
ステラさんもそれを見て、嬉しそうな声。
ふわっと私の手から離れると、道の端っこに乗っかります。
「カエルネー」
ステラさんが、突起のひとつを小さく振っています。
あれは手を振っているのでしょうか。
「えっ……もう帰っちゃうのですか?」
わかっているけど、ふっと寂しくなってしまう。
だけどステラさんはまるで気にしていないかのようにくるりと回りました。
「ウェル、オーウェン、アリア、アリガトー!」
――違います。
ステラさんも、気にしてるんだ。
気にしてるけど、寂しいなんて言わないんですね。
「――こちらこそ、ありがとうございました!」
空のてっぺんまで届くように、大きな声で叫ぶ。
まだ続いているアリアさんの歌をかき消してしまったのは申し訳ないですが。
立ち上がってめいっぱい手を振りました。
「バイバーイ!」
負けじと大きな声で言ったステラさんは、すーっと道を登っていく。
小さな姿はあっという間に見えなくなりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます