銃を拾ってしまった平凡な少女

黒胡椒

『平凡』な少女は謳う

私は銃を拾った

 ─────『銃』を拾ってしまった『平凡』な少女。



 物騒な作品タイトルから始まる物語。いやはや、一体何のこっちゃ。

 これから始まるのは、スタイリッシュな美少女ガンアクション作品かい?

 それとも、大戦時代の、戦場に生ける一凛の花の物語かな?

 或いは、『銃』が異世界転生して、原住民が拾ってしまったことによって始まる、技術改革のお話?


 何かあるだろう。

 皆さん、そう思いでしょう。

 思ったんじゃないですか?


 残念。

 ごめんなさい。


 舞台は、ばっりばりの現代日本です。

 とても平和な国です。

 戦争を知らない子ども達が生まれに生まれて、もはや戦いはモニターの向こう側でしか知らないような、そんな世界です。

 なので勿論、銃刀法は完全に整備されていますよ。少し変わった日本だとか、そういう奇抜な設定も特に無いです。

 嘘偽りなく、ここは法治国家。

 ジャパンであり、章タイトルにあるように、私は至って『平凡』な女子高生である。


 さて、『平凡』となると、私の容姿が全く想像できないことでしょう。

 そうでしょう。なので補足をしましょう。

 私の見た目は、中肉中背。

 平均的な身長と体重の持ち主で、ごく一般的な家庭から生まれた女の子です。

 特別な血筋を受け継いでいるわけでもなければ、勉学や運動、あるいは芸術とか……そういうものに比類なき才覚を持っているかというと、全然です。

 全部普通です。


 ……さてさて、そうなるとですよ?そうなるじゃないですか。

 ええ、ええ。言わんとすること、分かりますよ。

 はい。おっしゃる通りでございます。

 そんな『平凡』な人物のことだなんて、記憶に残りません、と。

 そんな面白くともすんともない存在。だからなんだってんだ、という話じゃないですか?

 これから始まる物語に、一体どんなことがあるんだ?

 何をするんだ?何もできないんじゃないか?


 ふふふ……。甘く見ちゃあいけませんよ。

 そんな私ですがね、実は─────!



 ……と、期待させてすみません。


 まぁ、やっぱり私は……『平凡』なんですよね。

 特に、何も無いです。


 私の外見の特徴をもう少し具体化すると、日本人らしい黒の目に、黒の髪。

 肩に毛先が届かないくらいの長さの髪型で、ヘアピンとかそういうアクセサリーは一切無し。

 醤油顔かソース顔かで言えば、多分醤油顔。あと童顔寄り?そんな感じでございます。


 それが、私、浅川 良子あさかわ りょうこという人間の総てです。

 はい。

 これがですね、総てなんですよ。




 ……まぁ、『平凡』だよというのは、あくまで『私』個人という括りでは、なんですが。


 もう既にですね、エピソードタイトルでネタバレをしてしまっているので、驚きもクソも無いと思います。


 そうです。

 私はですね、今。このたった今。




 鞄の中に『銃』があります。




 エアガンとか、そういうのじゃないです。……多分。

 なんでそう言えるのかというと、匂いですね。鉄臭いんですよ。あと油でも差してるんでしょうか、臭いです。

 『銃』って、こ、こんな金属と油の匂いがあるんだ……!とビックリしちゃいましたよ、私も最初は。

 あとは、重たいです。何キロくらいだろう……?とにかく、重たいです。


 ん?なんでしょうか。

 実弾は入っているのか確認したのかですって?

 分解はしてみたのかですって?


 ……こ、恐くてできるわけがないでしょうが!

 誤って発砲なんかしちゃったらどうするんですか!!

 いやね!今の時代、ネットを漁れば簡単にね?銃の扱い方だとか……そういう専門的な知識は、見つかると思うんですよ。

 でもですよ、考えてみてください。


 ビビりません?


 私は、ビビっています。現在進行形で。


 これがですよ、何かしらの物語の主人公であればきっと、この『銃』をキッカケに大きな出会いだとか、そういうのに巡り合ってですよ、色んなドラマチックなことがわんさかと起こるんじゃないかと、思うんですよ。


 私はちょっと、ちょ~~~~~っと、そういうのはいいかなっ、て!


 そんなわけで、私はマイ鞄の奥深くにですね、この問題児、『銃』を眠らせているわけです。


 ……ん?じゃあ、そんな恐いならとっとと捨てればいいんじゃないかって?

 まぁ、そう思いますよね、私も、そう思うんですよ。


 ……人間って、保守的な生き物なんです。

 一度やっちまうとですよ、もう引き返すのすら億劫になると言いますか……そういう行動を取るのにも、勇気がいるというか……。

 『銃』を捨ててる私の姿を、もしも警察か、そうじゃなくても善良な市民の皆様の目にでも止まったらですね、私は~……ど~~~なってしまうのだろうか!と……。私はですね、恐るべき事態を想像してしまうんです。

 まぁ、誤認で逮捕とか、そういうのは流石にですね、無いとは思うんです。

 警察だって無能じゃあありませんから。


 え?じゃあどうして、その上で隠し持っているかですって?


 いや、そりゃ、簡単なアンサーですよ……。




 『平凡』でありたいからですよ。




 私は、『平凡』な人間なので、無かったものと見なしてるんです。

 見なそうとしてるんですよ。


 そんなこんなで、私は内心ガクブルしながらも、表面上はあっけらかんとしながら家を出て、通学路へレッツラゴーをしています。

 今日は平日。登校の日です。

 何か大きなイベントがあるとか、そういうわけじゃない、長閑でのんびりとしたスタートです。


 いやあ、良いですね……。

 女子高生は青春を謳歌するものとは言いますが(……言うかな?多分、言うんじゃないかな)、私は『普通』を謳歌しますよ。

 良い風です。この無味無臭の、温かくとも、冷たくもない感じのこれがまた……ね。



「良子ちゃ~~~~~~ん!」


 あ、はい。

 えーとですね、『普通』の通学シーンはですね、そろそろですね。



 終わります。



 この声の主は、最近できたおトモダチ。

 名前は、実波美 来乃人みはみ このと

 とても変わったお名前の子でして……。


 ……ここで紹介すると、私の情報が霞むので、今はですね……。


 か、勘弁してください。



 また、次回、お会いしましょう……!

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