4.


夕飯を済ませた後、ソファに座った姫宮の膝上で大河と共に、『ハニワのだいこうしん!』を観ている時だった。


「姫宮様。お風呂の準備ができました」

「あ、はい」


安野に声を掛けられ、もうそんな時間かと思いつつ、大河に声を掛けた。


「大河。ごめんだけど、ママお風呂に入ってくるから」

「⋯⋯⋯ま⋯⋯」


掠れた声で、されど訴えてくる目で言いたいことははっきりと分かった。

というのも、こんなやり取りも日常茶飯事だったからだ。

今日も一緒に入りたがっている。

分かっている。本当は姫宮だって大河と一緒に入りたい。けれども。


「今日も小口さんと一緒に入ってもらってね」

『おふろ』

「そう、お風呂」

「⋯⋯っ、ま⋯⋯」『お風呂』


「ままとおふろにはいりたい」──単語だけでもそう言いたいのだと充分に分かる言葉は、しかし、そのお願いを聞くことはできなく、胸を痛め、そして困り果てた。


「そんなにしつこくしてますと一緒に入ってくれないですよ」


他の仕事をしていたらしい小口がいつの間にかそばに来ては、そう言ってきた。

来てくれた、と心中安堵していた。


「ほら、大河さま、四六時中ママさまにベッタリなんですから、お風呂の時ぐらい一人にさせてあげないと」

「⋯⋯っ」


大河は小口に言いたげに口を開いた。しかし、そこから発せられたのは、声とも言えない喉を鳴らしたかのようなものだった。

それも相まって苛立ちを覚えたらしい大河が、ボードで『あっちいけ』と押した。


「あっちいけだなんて、つれないですねぇ。それともわたしに照れ隠ししているんですか〜? 可愛いとこあるじゃないですか」

「⋯⋯⋯っ!」

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