「さあ! 今日はめいっぱい楽しもー!」

「うん」

「う、うん……」



 夏休みのある日、僕は地元でも有名なレジャー施設に来ていた。一緒に来ているのは、僕に恋愛指南をしてくれている播磨さん、そして播磨さんがいつの間にか仲良くなっていた月野さんだ。


 いま僕達がいるのは、レジャー施設内のプールであり、僕もそうだけど播磨さんも月野さんも水着姿だ。二人とも美少女と言える顔立ちをしているし、スタイルだっていいからか周りの人達、特に男性からの視線が集中していて、月野さんはそれを少し嫌そうにしていた。



「月野さん、大丈夫? 少し移動する?」

「え……だ、大丈夫よ。こういうところにあまり来ないから少し戸惑ってるだけ。ありがとう、恋野君」

「ど、どういたしまして……」



 静かな笑みを浮かべる月野さんの姿に僕はどぎまぎし、照れから顔が熱を帯びていた時、それを見た播磨さんがクスクス笑い始めた。



「ふふ、恋野君ったら照れちゃって」

「しょ、しょうがないでしょ……! 女の子とこういうところに来る機会自体まったく無かったのに、初めて来たのが播磨さんや月野さんみたいに可愛い子達なんだから……」

「か、可愛い……」

「おっと……」



 月野さんと播磨さんは驚いた顔をした後、揃って顔を赤くした。それを見て僕も改めて照れ、三人で俯いていた時だった。



「あ、あはは……ほら、せっかくプールに来たんだし、早速泳ご――」



 空気を変えようとしたのか播磨さんがプールに体を向けようとした時、濡れていたプールサイドで足を滑らせ、播磨さんの体がプールの方へと倒れていった。



「え……」

「は、播磨さん!」

「危ない!」



 月野さんの声が聞こえる中、僕の体は自然に動き、プールに向かって倒れていく播磨さんの体を抱き締める形で僕はプールに飛び込んだ。どぼんという音と一緒に飛び込んでからすぐに水の上に顔を出した後、僕は抱き締めている播磨さんに声をかけた。



「播磨さん、大丈夫!? 怪我とかしてない!?」

「え、あ……うん。平気……だよ」

「そっか、よかったあ」



 播磨さんが少し呆けた様子で答えるのを聞いて僕は微笑む。せっかく楽しもうとしていたのに怪我でもしたら満足に楽しめないから、怪我をしなくて本当によかった。そして播磨さんから離れた時だった。



「あ……」



 播磨さんが少し哀しそうに声をあげた。やはりどこか怪我でもしたのか。そんな事を考え、僕は播磨さんの肩に手を置きながら声をかけた。



「やっぱりどこか痛い?」

「そ、そうじゃなくて……その、離れた瞬間になんだか寂しくなっちゃって……」

「寂しい?」

「うん。なんだろ、この感覚……」



 播磨さんは不思議そうに首を傾げる。その寂しさの正体は僕にもわからなかった。その後、僕達は気を取り直してプールで遊び、お昼頃にファミレスでお昼ごはんを食べた。そしてそれぞれ使った水着を家まで置きに行き、軽く街中を見てウインドウショッピングをした僕達は、夕方ごろに近くの神社まで来ていた。



「やっぱり花火大会を近くでやってるからかここも賑わってるねえ。これははぐれないように気を付けないとね」



 人混みを見ながら播磨さんが言う。たしかに神社の境内には人がいっぱい集まっており、親子連れやカップル、友達同士などで来ている人達ばかりだった。これはたしかに気を抜いたら迷子になってしまいそうだ。


 花火の時間まであと一時間。その間はどうしようかと思った時、播磨さんが僕の肩をトントンと叩いてきた。



「恋野君、私は機会を見てこっそり抜け出すから、月野さんと一緒にゆっくり花火を見てて」

「え、それなら播磨さんも一緒に見ようよ」

「え?」

「だって、一緒に見た方がより綺麗に見えると思うからね。それに、この中でどこかに行こうとしたら出会えるまで時間かかっちゃうから」

「ま、まあ……そういうことなら一緒に見ようかな」

「うん」



 僕は頷く。播磨さんが気を遣ってくれてるのはわかってる。でも、播磨さんだって僕にとってはもう大切な人だ。それなら播磨さんも交えて一緒に見た方が絶対に楽しいと思うのだ。


 そんな事を考えていた時、ふと視線を感じて僕はそちらに顔を向けた。すると、月野さんが僕達の事をじっと見ていた。



「月野さん、どうかした?」

「……なんでもないわ。ほら、屋台を見て回りながら花火を見るのに最適そうな場所を探しましょう」

「あ、それならいい場所をリサーチ済みだよ。食べたいものとか買ったらそこに行こっか」



 播磨さんの言葉に頷いた後、僕達は屋台を見て回った。焼きそばやたこ焼き、りんご飴などを買って、播磨さんがあらかじめ見つけていたスポットに来てみると、そこには他の人はまったくおらず、僕達の貸しきりみたいな気分になった。



「ここは……」

「神社の外れ。ここなら空を見上げやすいし、他の人も全然来なそうだなって」

「なるほどね」



 そんな事を話していた時、空に一発目の花火が上がった。空に咲く花火はとても綺麗で、やっぱり二人と見られてよかったなと思った。それを言うために僕はまずは播磨さんを見たが、その瞬間に僕は息を飲んだ。花火に照らされる播磨さんの顔がとても綺麗だったのだ。



「綺麗だな……」

「え?」

「あ……は、花火が綺麗だなって!」

「うん、そうだね」



 播磨さんはにこりと笑う。その後も二人と一緒に花火を見ていたけれど、この日一番印象に残ったのは花火よりも綺麗な播磨さんの横顔だった。

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