18 誤解だ


「うぅーん。どうしよう」


 あれから、劇場近くまで戻った俺たちは、真新しい大きな商業施設に入った。1階部分はガラス張りになっていて、中に入っているファッションブランドの洋服がショーウィンドウに飾られている。それに加えオープンテラスのあるお洒落しゃれカフェ。客層も同世代かちょっと上ぐらいなのも納得の、近代的な雰囲気だ。

 ユリいわく、建ってから1、2年ほどで、ここにしかないブランドショップがあるのだとか。残念ながらファッションにあまり興味もないので、あまりピンと来るものがなく、ユリの行きたい店をヒナ鳥のように後をついて行く。

 その中で、女子向けのファッションブランドの多さには驚いた。色んなジャンルがあるとはいえ、似たような服もありつつ、お値段は倍以上なんてのもあって、女子って大変だと思った。男子は大概、ブランドもそうだが、それ以外も、ある程度限られているのだから、その幅広さに驚くばかりであった。

 しかし、それも数分前のこと。

 俺は、今、目の前の状況についていけない。


「ねぇ。良ちゃん、どっちが可愛いと思う?」


 至極当然に聞いてくるユリの手元には、ランジェリー。そう、つまり下着である。その柄を聞いてきているのだ。

 だがしかし、それを10代男子に求めるのは間違っている。

 いや、ハードル高すぎやしないか?

 そんな俺の葛藤なんて気付きもせずにみつめるユリは、眉を下げて、小さく「可愛いんだけどなー」と悩ましげな声を出している。

 先ほどから悩みに悩んで、決めれずに十数分にらめっこしていたユリは、最終手段として俺に意見を求めて来ている。


「良ちゃん?」


 救いを求める、純粋な眼差しが痛い。なんだか胸に刺さる。

 ・・・なんでも、ブランドの創立祭だとかなんとかで、ちょいお高めの下着屋がセールをしているらしく「絶対、1つは買いたい!」とか意気込んでユリが入店したのは30分ほど前。

 俺には関係ないと、スマホをいじりつつ店の外側で待っていたのが、10分弱。携帯ゲームの1ステージをクリアした頃だった。2種類のブラを持って「どっちが可愛いと思う?」と聞いてきているのが今。


 俺の常識がおかしいのか?

 だってさ、ふつー聞くか?

 異性に聞くか?

 兄弟に聞くのか?

 いや、姉妹がアリだから兄弟もありか?

 えっ異性の兄弟でもあり?

 つーか、この違和感感じるのって俺だけ?


 色々とツッコミ&質問したいことは山々だけど、ちょっとお高め故の、品の良いお姉様店員方々の生暖かい視線がじわじわとメンタルにきてる。まるで毒のようにじわじわ、そして確実に削っている。


「・・・」

「良ちゃんがテンション上がるやつでいいからっ!」

「!?」


 ついにメンタルが悲鳴をあげた。

 これ以上、この空間にいることはできない。


「こ、こっちが、いいんじゃね……?」


 品の良いお姉様店員の表情を見ることはできない。ただ震える指先で選んだ。


「やっぱり、こっちよね! だと思った! ありがとう! はぁ。悩んだ時は、身内の意見よね。助かったわ!」


 もはや何が正解かわからないが、ユリは満足気に頷いて、レジへと向かって行った。

 あぁ。早く、この場から立ち去りたい。

 通り過ぎる人々の視線もあり、刺さる痛さも倍増である。


 この心労に対して、なにかドリンクの一杯でも奢ってもらおう、そう考えていると、ふと人影が近くで止まっているのを感じた。

 なんだろう、そう判断すると同時に、聞き慣れた声が降ってきた。

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