第4話 戦闘狂
走る。俺達に殺意を向け続けるその人物から渚と一緒に……だけど______
振り切れない。渚に合わせてるからか? いやそれはないな……ここはただでさえ孤島の森の中、俺達以外にも溢れる程人はいる。
草むら、木、風に乗せられてきた葉で視界は何度も遮られてる……ならどうして振り切れないのか、そんなの簡単だな。
今、俺達に殺意を向けているそいつが、ただ単純に強い……それだけだ。
「渚、もっと早く走れるか?」
顔は向けず、前を向いたまま渚に問う。渚は息を切らしながら言った。
「こ、これ以上は……無理っ!」
「……少し我慢しろよ?」
そう言った直後、俺は渚の手を引っ張り空中に持ち上げ……そのまま抱き抱えた。
「へ……?」
素っ頓狂な声を上げる渚を無視し、俺は大地が割れる程の踏み込みで地を蹴る。
周囲の景色は一瞬にして変わり、俺は渚を抱えたまま浜辺にまで来ていた。
そこで渚を下ろし、森の方向を向く。するとそこから一人の男がゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「お前、誰だ」
ただ一言、白いパーカーを着たその男に言う。
すると、男は髪を掻き上げ……その口を開いた。
「一ノ
「なんだお前、早速振るいに落とされに来たのか?」
そんな俺の煽りとも取れる言葉にそいつは一瞬笑い、言った。
「振るいに落とされに来た……? お前に落とされる程、俺は弱くない」
刹那、そいつの姿が消えた。文字通り初めからそこに存在していなかったように……と、思った次の瞬間______
「きゃぁあ!!」
俺の背後にいた渚がそんな悲鳴をあげていた。咄嗟に振り向く……するとそこには、目の前にいた筈の男がいた。
ただの超スピードなら俺が見逃す筈がない。能力の応用か知らねぇけど、理解の出来ない移動をこいつは出来る……そう考えとくか。
そんな思考を巡らせていると、男は渚の首元に鋭い水の刃を突き付ける。
「本気で戦うと誓ってもらおうか。本気のお前じゃなきゃ戦う価値がない」
そんな戯言を言う男に、俺は溜息を吐きながら言う。
「そいつを人質にしてもあんま意味はねぇぞ。俺が興味あるのはそいつの能力で、そいつ自身じゃねぇからな。死んだらそん時だ」
「そうか」
男は『読みが外れた』そう言わんばかりの表情で渚の首元に手刀を放ち気絶させた。
気絶させた渚を男は、少し離れた森の影に寝かせて俺の元へ戻ってくる。
「頼むから本気でやれよ? さっきからお前の殺気に当てられてこっちも欲求が爆発しそうなんだ」
「本気でやれ……? それはこっちのセリフだな。ふざけた動きしたら生きたまま地獄を味合わせてやる」
「そりゃ……楽しみだ!」
刹那、俺と男は同時に構え……瞬きすら許さぬ一瞬でお互いの距離を詰めた。
俺のスピードにこうも簡単に追い付いてくるのか!! 本当……楽しみだな!!
コンマの刻、脳がその行動を起こすと……そう体に指示を出すその瞬間……脳が指示を出すと同時に俺と男は互いに掌を突き出す。
そうして、同時にその言葉を紡ぐ。
『
『
空に轟くような雷が刃の形を型取り、それは牙を持つ獣のように相手を噛み、斬り、焼く。
水で造られた華は川を流れるかの如く美しい孤を描くが……その華は鋭く触れるもの全てを傷付ける。
その両技が次の瞬間ぶつかり合う。
雷と水、本来混ざり合う筈のその二つは激しい爆発を起こし……高波を起こし、衝撃波は森を揺らした。
浜辺は大量の砂塵に包まれ、視界は塞がれたに思えた……が、それは一般人の思考。
生憎、ここにいるのは両者……『
俺の視界を塞ぐ砂塵を、手で払う。そうして現れた無傷の男の姿を見た俺は______
「まだまだ殺れるよなぁ!!」
そう叫ぶ。すると男はニヤッと笑い、俺に呼応するように叫んだ。
「まだまだ戦いはこれからだろ!!?」
瞬間、俺達は再び地を蹴り……自身の能力を放ち合うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます