画材を準備室に戻し、校舎を出る。狭い路地の階段は夕陽に照らされ、上へ登るほどにまだ陽の残る道が増えていく。

家路の中で同級生が店番をしている八百屋に寄った。いくつかを袋に下げ、店を出ようとすると奥から店主である同級生の父親が出てきた。目が合うと途端に不機嫌そうな顔をする。

「修司のやつはどうした」

「父はまだ仕事ですが」

それを聞くと大きなため息をついた。まだ過去のことを引きずっているのだろう。父もこの人も不憫に思えてきた。

「これだから外のやつは」

そう言いながら袋を手に、いくつか野菜を入れる。裏からも持ってきて袋はいっぱいになっていた。

「薫の分だ。供えとけ」

渡された袋を受け取り、店を後にした。彼はまた別の客の相手を始めていた。


鍵が開く音がして父が今に入ってくる。自分はちょうど食べ終えたタイミングだった。

「ただいま。今日はカレーか。仕事で饅頭もらってきたんだが、食べるか?」

「いらない。冷蔵庫に入ってる野菜、母さんにって」

それを聞くと父は苦笑いをした。

「またか。申し訳ないな」

鞄を置き、ジャケットを脱ぐ。白いワイシャツのまま炊飯器から米をよそいカレーの用意をしていた。網戸の前に置かれた植物が風に揺られる。どこからか風鈴の音がした。

「涼真、学校は」

「普通」

そう答えて立ち上がり、皿をシンクに置いて自室に向かう。仲が悪いわけではない。ただ、何を話したら良いかわからない。

扉を閉めてベッドに横になり今日のことを思い出してため息をつく。海は好きだけれど、やっぱりこの町のことは好きになれない。典型的な村意識。よそ者はいつまで経ってもよそ者で、その息子もよそ者。ただでさえ暑く寝苦しい中、起きていても息苦しかった。

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