第15話 無限の獣
その化物は喚くことも暴れることもない。
先ほどの一撃の後にこちらをじっと見るだけで動く気配がない。
ただ、だんだんと魔力が上がっていく。
これは空気中の濃度の問題である。
普通は魔術師以外の人間に魔力を感知することはできない。
それをそう言う人たちを殺すことを生業としている人間とはいえ魔力を感知してしまっているこの状況は異常である。
それほどまでにその化物は化物であると言うことである。
そして今、化物はニヤリと笑った。
ぞくっと首筋に寒気が走る。
その瞬間には俺ははるか後方まで吹き飛ばされていた。
何が起こったのか理解するのに数秒を要した。
「嘘、後輩くん⁉︎」
そこにいたのは美桜先輩たちステラとアンビーストの全員だった。
「美桜先輩、それに恵茉先輩も大丈夫でしたか?」
「私はね。君の方が大変そうじゃないか。」
「敵は倒したんですけど、余計なものを置いて行ったんですよね。それがあれです。」
俺は化物の方を指差す。
「あれは確かに化物ね。」
「アンリミテッド・ザ・ビーストというらしいんですけど。どうにかできます?学園最強としましては。」
「ディサイシブウェポンを使ったら、消滅させられるんじゃないかな。あれ、完全体ってわけではなさそうだし。」
「じゃあ、私たちは時間稼ぎね。後輩くんと凛ちゃんは私たちと一緒に前線かな。残りは後方からよろしくね。」
俺は術式を自分の体に向かって使う。
いわゆる自己暗示である。
人間は体にリミッターをかけているからそれを緩めることで実力を発揮する。
一つ疑問なのは明らかに後方支援役の美桜先輩と詩先輩が俺たちと一緒に前に出て戦っていることだ。
ただまぁ、敵を前にして考えることではない。
そう思った時、化物が初めて言葉を話した。
「逆降の雨。」
その言葉に従って、地から天へ向けて雨が降り注ぐ。
その光景は異様ではあれ、こちらに影響はない。
と思っていた時、天雷が堕ちた。
堕ちた衝撃で大地が揺れ、俺はバランスを崩してしまった。
俺は良いがアンビーストの皆さんである。
ディサイシブウェポンの準備中であるあの人たちの邪魔をしてしまった。
「みんな、大丈夫ですか?」
「私たちは大丈夫よ。」
「こちらも問題ない。」
美桜先輩と恵茉先輩が返事をする。
瓦礫を走って、化物に攻撃を加える。
ヒットアンドアウェイで牽制を加える。
他のみんなも同様だ。
化物に対して一定の距離を保ちながら戦闘を継続する。
わずかな時間だったが決定的な時間が経った。
「オッケー、こっちは準備オッケーよ。決戦兵器ディサイシブウェポン、いつでも使えるわ。」
「今すぐお願いします。」
「了解したわ。」
決戦兵器とはビー玉のようなものにギルドメンバー八人それぞれの術式を組み込んで無限大の爆発を生み出す兵器である。
「恋の始まりに憧憬の鐘。世界の終わりに昏鐘が響く。欲に縛られ、愛を結ぶ。薄桃色の花びらは緋を入れ、金となす。そこに希望が足りぬことなければ、絶望が満ちることもなし。愛は孤の終焉にして、和の起源である。欲は知が増え、理が減る。さて、汝はどちらを好むのか?嘆きの涙。」
その瞬間、金が差し込む薄桃色の花の世界が形成される。
命を吸い取り、命を芽吹く世界。
無限の可能性を無限の暴食をもって食い破る。
その結果は言うまでもない。
無限の獣は一時、この世を去った。
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