第11話ムカつくのに、なんで楽しいの?

「演劇って、本気なの?」
翌朝、教室に入るなり美咲は颯真を睨みつけた。

「本気だって。面白いだろ?」
颯真はいつも通り軽い調子で椅子に座り、美咲を見上げる。

「どうせ冗談だと思ってたのに……。」
「言っただろ? 思い出に残ることしようって。」

颯真の言葉に、なぜだか反論できない美咲。
文化祭の話し合いが始まる時間になると、クラス中がざわざわと騒ぎ出した。

「それでは、文化祭の出し物について、みんなで決めましょう!」
委員長の声が教室に響く。

「お化け屋敷がいい人!」
「カフェでしょ、女子は制服着て!」
「いや、みんなで何かやった方が盛り上がるって!」

意見が飛び交う中、颯真がすっと手を挙げた。

「演劇、やんね?」

その言葉に、教室中の視線が一斉に彼へと集まる。

「演劇?」
「え、なんで?」
「なんか颯真っぽくないけど。」

「普通にカフェとかお化け屋敷もいいけどさ、俺たちで何か“作る”って面白いと思わね?」

颯真の言葉に、少しだけ教室が静まり返る。
(こいつ、いつもは適当なのに、たまに真面目なこと言うんだから……!)

「……確かに、カフェとか他のクラスと被るかも。」
委員長が考え込むように呟く。

「でも、演劇なんて準備大変だし、主役とかどうするの?」
「そのへんは大丈夫だって。」

颯真が笑いながら、美咲の方をちらっと見る。

「——美咲が手伝ってくれるし。」

「はあ!? なんで私!?」

突然の指名に、美咲は思わず立ち上がった。

「いや、お前やる気ありそうじゃん。」
「誰がよ!!」

クラスメイトたちが笑い始める。

「美咲なら、主役とかできそう。」
「颯真と美咲、コンビ組んだら面白そうじゃね?」

「はぁ!? 絶対やんない!」
「おいおい、文化祭成功させたいんだろ?」

颯真の軽い一言に、美咲はぐっと言葉を詰まらせた。
クラス中の期待の視線が、美咲に向けられている。

(なにこれ……逃げられない感じ!?)

「……わかったよ、やればいいんでしょ!」

そう言うしかなかった。


放課後 — 演劇の準備開始

「なんで私が巻き込まれてんの!?」

放課後、教室に残った美咲は颯真に詰め寄った。

「お前、ノリ良かったじゃん。」
「はぁ!? 何がノリだし!!」

颯真は軽く笑いながら、黒板にチョークで大きく「文化祭・演劇準備」と書き出す。

「まあ、何やるか決めようぜ。」
「演劇なんて決めたの、あんたなんだから、ちゃんと考えてよね!」

美咲が睨みつけると、颯真はあっさりと笑う。

「そこはみんなで考えるんだよ。」

その言葉に、クラスメイトたちも自然と机を動かし、話し合いを始める。

「おとぎ話とかいいんじゃない?」
「でも、ラブストーリーはちょっと恥ずかしい。」
「じゃあ、冒険モノは?」

あれこれ意見が飛び交う中、颯真が軽く黒板を叩く。

「決定——冒険と友情、両方やろう。」

「……何それ、欲張り。」
「盛り上がるだろ?」

美咲はため息をつきながら、彼の隣でノートを取り出した。

「じゃあ、まずは脚本作らないとね。」

「お、頼むわ。」
「はあ!? あんたも手伝うの!!」

颯真は軽く笑って、美咲の肩をポンと叩く。

「ま、二人で頑張ろうぜ。」

その言葉に、なぜか胸の中がチクリとした。
でも、それが何なのか、美咲自身も分からなかった。


夕暮れの教室、二人きり

準備の話し合いが終わり、クラスメイトが次々と帰っていく。
気づけば、教室に残っているのは美咲と颯真の二人だけだった。

「……なんか、結局巻き込まれた気がする。」
「いいじゃん、お前も楽しそうだったし。」

颯真は窓際の席に座り、夕焼けに染まる校庭を眺めている。

「……あんた、昔からこうだったよね。」
「ん?」
「勝手に人を巻き込んで、でも、なぜかみんなやる気になっちゃう。」

颯真は少しだけ驚いた顔をして、すぐに笑った。

「……お前、よく覚えてんじゃん。」
「覚えてるよ、そりゃ。」

夕日が二人の間に落ちて、教室の中に淡いオレンジの光が広がる。

「——演劇、ちゃんと成功させるから。」

颯真の真剣な横顔に、美咲は少しだけドキッとする。

「……ま、私も手伝ってあげるけどね。」

静かな時間が流れる。
風がカーテンを揺らし、遠くから部活動の声が聞こえてくる。

「次は、俺が主役やるけどな。」
「はぁ!? 絶対、私が主役!!」

また始まる、いつもの言い合い。
でも、なぜだか美咲の心は少しだけ温かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る