後編-③

メルメはあっという間に<月光>に適応し、次々と撃ち落とていった。彼女の戦闘データを使って私も学習し、彼女の選択肢を広げた。敵も学習データの共有はしているが発想が多い分私たちの方が一手上手だ。


「こんだけやれば、少しは片付いたんじゃない?」

「今は戦闘中ですよ、メル。気を抜かないで」

「フレックスも気づいてるでしょ?あいつら1対1しか挑んでこない。だから撃破した直後は戦闘中じゃないってわけ」

「それハそうですが、理由がわかりません。いったい何故でしょうか」

「ママとあんたがニコイチで戦ってきたからとか?」


確かに全盛期の私たちは、横槍で得た勝利など誇らしくない、正々堂々の勝負こそが美学だというように戦ってきた。

しかしそれはあくまで仲間を失い過ぎた後の話であって、かつては連携して戦ってきた頃もあった。


「もしかして彼女の戦闘AIだけでなく、騎士道精神まで見習っているのでハないでしょうか」

「それがママの強さの秘訣ってワケ?」

「ジェイクも私も、そこに惚れ込んだわけですので」

「話そらさない、集中する」

「大事な話ですよ」


次の相手も機械的に処理する。細かな損傷は増えてきたが、まだ戦える。友軍も落ち着きを取り戻して私たちを見習って近接戦闘に切り替えている。いまだ形勢は不利だが、こちらも確実に立て直してきている。


「いい感じです、メル。その調子」

「学習データがおんなじだから動きもある程度パターン化できるし、何とかなりそうっ!」


まずはブレードを軽く突き出す。敵はブレードのない左手側に旋回して回避。返す刀で左手を前に出し突撃してくるが、これは相手のフェイント。受け流して本命の右手のブレードへの対応をする。敵が向き直るため旋回する隙を狙って、踏み込む。


直後、敵が前部スラスターを急噴射し、私のブレードは空を切った。


「これ、私の動き!」


「まずい」とスピーカーが音を出す間もなく、衝撃。メルメの反応でなんとか急所は避けたが、代わりに右腕を持っていかれた。


「すみません、私のミスです」

「まずは立て直し、来るよ!」


左手でブレードを払いのけるが、小指を持っていかれる。消耗戦は明白、左腕が持つのも長くはない。脱出も不可能。ブースターの出力が互角だとしても、パイロットの安全を気にしないで良い彼らの方が有利だろう。


「エクス……ところでさ、質問なんだけど」

「こんな時になんでしょうか」

「私にまだ隠してるモードあるでしょ」

「ありません」

「はい、って返事して。じゃなきゃこのまま敵陣に突っ込む」

「……はい」


「やっぱあるじゃん、このペテン野郎。で、どんなモードなわけ?」

「あなたの死体の安全性を無視した戦闘モードです」

「??? どゆこと?」

「私の挙動制御についてこれず、あなたの肉体がぐちゃぐちゃになるということです」


メルメが操縦桿から手を放し、キルモードが止まる。敵意がなくなったことが伝わったのか、敵も動きを止める。その仕草まで<月光>に似ていて、私は少し笑ってしまった。


彼女がふぅと息をつく。


「エクス、1つお願いがあるんだけど」

「どうぞ」

「あんたは絶対ママの所に帰って。それと私のタブレットは誰かに見られる前にかならずフォーマットすること」

「お願いが2つに増えています」

「一生のお願いだし、オマケしてよ」

「……承知しました」


念のため、エアバッグの再点検をする。問題ない。


「なにそれ、気を使ってるつもり?」

「……」

「早くコードを教えて」

「『使命コード:ジェイク・フラットローダー』と叫んでください」

「ジェイク・フラットローダーって何?父さんと関係あるの?」

「あなたの父の本名です、まぁ旧姓ですが」

「なにそれ悪趣味ぃー。じゃあ行くよ、覚悟はいい?」

「どうぞ」


ふぅー、とメルメが大きく息を吐く。今彼女はどんなことを考えているのだろう。

彼女が改めて操縦桿を握り、息を吸い込む。


「―――使命コード、ジェイク・フラットローダー。起動」

「声が小さい、もっと叫んで!」

「使命コード!ジェイク・フラットローダーあぁぁ!!」

「承認しました。使命を実行します」


覚悟はできている。使命回路が発熱し、特注品エクストラの両目が、真っ赤な閃光を放った。

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