中編-①

数週間の気持ち程度の訓練と何回かの実践を経て、メルメは確実に戦場に順応していた。


彼女の振るう高周波ブレードはリンゴを切るかのように敵機を切り裂き、農地を荒らさないよう会得した足さばきは推進剤を節約する。コロニーでリンゴの枝に手を伸ばしていた時よりも、彼女は宇宙の中でずっとのびのびとしていた。


何より彼女は目が良かった。野生の勘というのだろうか、フレアやチャフ・デコイに囲まれたとしても彼女は正確に敵影を捉えることができた。私の型落ちのカメラアイなんかより遥かに優秀だった。


「ねぇ見てフレックス。私たちのこと<月光>の再来だってテレビで話題なってるよ!」

「所詮ハ急ごしらえの寄せ集め部隊ですからね。子供のころからフットぺダルを両手で押し込んでいたメルに負ける道理ハありません」

「それに特注品の専用機がいるからね」

「おっと、言うようになりましたね」


しかしここまで注目されるのは私個人としては望ましくない。目立つということは、裏を返せばそれだけ標的にされるという事でもある。確かに全体で見れば兵士のモチベーションや戦争の勝率にいい影響を与えているが、一つ一つの戦闘での被弾リスクはわずかだが確実に上昇し続けている。


塵も積もれば山となる。ジェイクがよく口にしていた地球の古い言葉だ。もっとも彼の場合、少しの努力でも諦めずに積み上げていこうという意味だったが。


「あ、通信入ったよ。グリッド09-52-04で中規模戦闘発生で援護申請。モードイエローでいつものブレードとデブリ除去用のバブルガンを携行しろってさ」

「補給なしでも行けそうですね、向かいましょう」

「ところでモードイエローってどういうこと?」

「セーフモードで問題ないって意味です。要するに警戒度は低いってことですね」

「じゃあ簡単な任務なんだ」

「ちなみにイエローってのは私の目の色に起因します」

「ふーん」


彼女が操縦桿を握る。少女らしく柔らかかった手も今では立派な戦士の手だ。


「他のモードもあるの?」

「ありますが、使えません。あなたの安全性を無視した機能ですので、使命回路に反します」


目的地をマップにマークしてコントロールを彼女に譲渡する。ジェネレーターへの負荷もなくかといって大きくたわむこともない、滑らかな方向転換だ。


「こと機体運びにおいてハ、はルよりも優秀かもしれませんね」

「下手なお世辞は不要よ、フレックス。戦績を見てママのすごさは痛いほどわかっし、戦闘は結局フレックスの蓄積データに頼りっきりだもん」

「……改めてですが、戦場でハ私のことはエクスとお呼ビください」

「それ気になってたけどなんでなの?もしかして、辺境伯がエクストラの再来〜とか言ってたのと関係ある?」


方向が定まり、あとはデブリを除去しながら直進するだけだ。ここからは私の仕事だ。


「『ふレックス』と呼んでいるときに機体が揺れると舌を噛みかねません。エクスなら口を動かさずとも発音できます」

「そんなことまで気にしなくていいのに。お節介も度を越せばマナー違反じゃないの」

「メルの安全のためです。それになんとなくですが……あなたにはエクスと呼バれたほうが、しっくりくる」

「スイッチが入る的な?」

「まぁ、そんなところです」

「はぐらかすなよ~~」


そう話している間に目標のグリッドにたどり着いた。しかし、戦地だったはずの区域は驚くほど静かで、それはつまり私たちが間に合わなかったことを示唆していた。

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