神竜が東京にダンジョンを作ったので親友と行ったらTSされた俺、最初に踏破して男に戻らせてもらいます!

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

1 ドラゴン現る

 ある日のこと。


 世界各国の主要都市上空に、突如巨大なドラゴンが出現した。


 人類は、そりゃあ驚いた。だけどどう考えたってドラゴンなんて実在する筈がないのは、子供か余程のアホじゃなければ誰にだって分かる。


 すぐに「ドローンを飛ばしてるんじゃないか」とか、「どこかの国が遺伝子実験を繰り返して生み出したんじゃないか」なんて憶測がネット上やテレビで飛び交い始めた。


 いずれにせよ、領空侵犯にあたる。一体どこの国がやってるんだ、あそこの国が怪しい、いやあっちじゃないかと猜疑の声が吹き荒れた。


 だけどドラゴンが姿を現してから数時間後、謎の声が世界中の人間の脳に直接語りかけてきたことで、人類はこれがどこかの国の産物なんかじゃないことを知る。


『我は他の次元よりでし神竜なり!!』


 鼓膜を破るんじゃないかっていうくらいでかい声が、突然脳内に鳴り響いた。


「うがあっ!?」


 通学路を歩いていた俺は、両耳を塞いで呻く。


 すると隣を歩いていた親友、及川龍之介が、呻いている俺の肩を掴んで揺さぶってきた。龍之介も、辛そうに片耳を腕で押さえている。


わたる! 今の声が聞こえたか!?」

「聞こえた! てゆーか声でかすぎなんだけど、なにこれ!? スピーカー壊れた?」


 てっきり俺は、どこそこの老人が徘徊してるんで探してますとか放送する町内放送のスピーカーが壊れたのかと思ったんだ。でも、龍之介の意見は違った。


「スピーカーなんかじゃない! なんか頭ん中に直接声が響かなかったか!?」


 日頃はとても穏やかで、爽やかスポーツマン且つ高身長イケメンとうちの高校近辺では有名な龍之介が、珍しく余裕がない様子を見せている。


「ええ? まさかそんなファンタジーみたいなこと、ある筈ないじゃん」


 俺は苦笑で返した。


 東京駅上空にドラゴンが出現して一時間後、政府は非常事態宣言を発令した。


 俺たちが通う高校は東京の西寄りにあったから、ここからはドラゴンの姿も拝むことができていない。休校になった為、どこか緊張感のないまま帰宅している最中の出来事だった。


 ネットニュースでもぼんやりとしたドラゴンの姿しか見ていないし、そもそもドラゴンはただ空を旋回しているだけ。何をする訳でもないし、危機感も乏しければ未だにどこか非現実感もある。


 クラスでも、非常事態宣言やドラゴンの映像を見ても「マジで? ウケる」くらいの認識の奴が大半だったと思う。


「でもこの状況は――」


 龍之介が続けようとしたその時。


 ドウンッ! という不快な低音と共に、地面が大きく揺れる!


「えっ、地震!? おわっ」

「亘!」


 立っていられなくて膝を突いた俺を、しゃがんだ龍之介が抱き寄せた。そのまま俺の頭を庇うように、覆い被さる。


「龍之介!」

「じっとしてて! 危ないから!」

「それじゃお前が!」

「いいから!」


 耳元で鋭く怒鳴られてしまい、不本意ながら龍之介の身体にしがみついた。体幹の強さが圧倒的に龍之介が上なのは明らかだったからだ。


 こいつは先日三年生で引退するまで、バスケ部のキャプテンを務めていた男だ。なので、背が高い上に引き締まったいい身体をしている。


 俺? 帰宅部希望だったけど、一年の時に龍之介があまりにも熱心に誘うものだから、三年間女子に混じって男バスのマネージャーをやってた。つまり、身長も筋力も全く及ばない。チクショー。


 体感で一分くらいだろうか。段々と地鳴りが遠退き揺れが収まってきたところで、再びあの声が脳内に鳴り響いた。


『あ、あー、テステス。今度は音量大丈夫かな?』


 ……確かに、大分音量が下がっている。だけど今、なんつった? テステスって言った?


「え? なに――」


 思わず顔を上げると、龍之介が「まだ頭を引っ込めてて!」と俺の頭を顎で押さえつける。


 仕方なく、むぎゅうと龍之介に抱き寄せられたまま続きを待った。


『えーと、我は他の次元よりでし神竜なりはさっき言ったよね。ええとじゃあ、続きね! えー、空を飛んでるのはボクだよ! みんな分身で本物だから、間違っても攻撃しないでね! ボコボコにやり返しちゃうよ!』


 ……ボコボコ?


『じゃあ本題! この世界の人口が多い場所にダンジョンを作ったよ!』

「は?」


 また頭を上げようとすると、龍之介が「しっ」と鋭く静止する。ぐう。


『入口は別々だけど、中は繋がってるよ! それぞれの入口から入れるのは、男同士のペアひと組だけ! 入れるペアにはとある条件があるんだけど、それを言っちゃうとお楽しみが減っちゃうから内緒だよ!』


 なにが内緒だよ! だ。大丈夫か? この声の主。聞いてる感じは若い女っぽいけど、ハスキーボイスだから何とも言えないな。


『最初に最深部のボスを倒したペアが優勝するよ! 優勝したペアを排出したエリアには、じゃじゃーん! 神竜の加護を与えます! そうだね、百年くらいは災害なし、豊作にその他ラッキーが続くってどう? あ、後は優勝したペアにもご褒美があるよ! 詳細はダンジョンに入れた人にだけ教えるね!』


 え、これって特撮とかじゃないの? 本気の本気でダンジョンとか言ってる?


『えーちなみに、ペアが揃わない場合は、ダンジョンから魔物が溢れてそのエリアは滅びまーす!』

「は」


 え、なにキャピキャピして恐ろしいこと言ってんの、こいつ。


『ダンジョンに入れたペアには、特典でダンジョン限定で魔法が使えるようになるよ! でも死んだら再生しないから気をつけてね!』


 死……。


『尚、ダンジョンに一度潜ったら、出てこられるのはゴールするかリタイアの時のみ! 一度リタイアしたら、別のペアがチャレンジしないと魔物が溢れ出てくるよ!』

「龍之介、これって――」

「しっ!」

『それぞれのペアは、ボクの使い魔を通してリアルタイム中継するよ! 視聴者参加型の方が盛り上がるみたいだから、方法は考えるね! お楽しみに!』


 ……なんだよ、このツッコミどころ満載の一方的な要求は。


『もうさー、ここのところ成分が不足しててさ! 世界を管理するのも楽じゃないから、供給してくれないと全部滅ぼしちゃうかも!』

「滅ぼしちゃう……」

『食料や装備はダンジョンでゲットできるから、手ぶらでチャレンジオッケー! あ、最初は三日間待ってあげるね! 四日目からモンスターが出てくるから! じゃあまたね、みんな! 楽しみにしてるよ!』


 えーと通信を切って……とかいう呟きが聞こえた後、ブツッと何かが切れる音がする。途端、滅茶苦茶なことをのたまった声は全く聞こえなくなった。


「……なあ、龍之介、これって……」


 龍之介の腕の拘束から頭を出す。


 龍之介は切れ長の瞳を驚いたように見開いて、無言で俺を見下ろしていた。

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