第21話 再会、憧れの人!ファントムの新たな力!!

これはまだ蒼空が霞ヶ丘市へ来るずっと前の事。元々彼女の家の近所に住んでいた夢咲望美という女子高生と出会った日の物語。


『これ、蒼空ちゃんにあげる。』


引越しの当日、泣いてる蒼空へ望美という少女がしゃがんでから差し出したのは青く光る綺麗な石。彼女は小さな手でそれを受け取った。


『望美お姉ちゃん…これ何?』



『勇気の石!これを持ってるとね、自然に力が湧いてきて頑張るぞー!ってなれるの!』



『勇気…?でも…蒼空、泣き虫だし…夜に1人でトイレ行けないし…強くなんて……。』



『そんな事ないよ、蒼空ちゃんにだってきっと勇気は有る。この石が蒼空ちゃんの力になってくれるはずだよ。』


微笑みながら望美は蒼空の小さな手を両手で包み込んでいた。母親に呼ばれた彼女が僅かに振り返って返事をすると再び蒼空へ向き直る。


『…そろそろ行かないと。またね、蒼空ちゃん。お手紙沢山書くからね…。』


立ち上がった望美は最後に蒼空へ自身が首から下げていた赤色の石を見せ、『ずっと一緒だよ』と伝えてから立ち上がって去って行った。


そして時は流れて蒼空は中学2年生になったが

今もその石は彼女の机の上に大切に飾られている。


「望美お姉ちゃん…元気にしてるかな。」


首から下げているジュエル・ストーンへ軽く触れてから「行ってきます。」と話し掛けてから部屋を後にした。

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住宅街の路地を1人で走っているのは赤紫色のマゼンタに近い髪を左右の肩辺りで切り揃えた20代の女性。薄い紫色のジャケットを羽織り、中は白いワイシャツに下は同色のズボンと足元は茶色のシューズ。右肩には黒の手提げカバンを下げていた。


「私のバカ!今日は大事な面接の日なのに!!」


大慌てで走っている彼女の首には赤色の石が付いたネックレスを下げている。

十字路へ差し掛かった時に右から来た少女と鉢合わせてぶつかってしまい、お互いに地面へ尻餅をついてしまう。


「痛ったぁ…ごめんなさい、大丈夫?」



「へ、平気です…。そっちこそ大丈夫です…か?」


望美の前に居たのは学生服に身を包み、青い髪を背中辺りまで伸ばしている少女。望美はそのシルエットには見覚えがあった。


「貴女、もしかして…蒼空…ちゃん?」



「の…望美お姉ちゃん…!?」


お互いに近寄って見つめ合うと望美の方から彼女の事を抱き締めてはまるで自分の本当の妹の様に頭を撫で回していた。


「それにしても大きくなったね、元気だった?お母さんとお父さんは元気?」



「げ、元気ですッ…お父さんのお仕事の関係で…こっちに引っ越して来て…く、苦しい…!」



「ごめんごめん、懐かしくて…つい。やっば!こんな事してる場合じゃなかった!!」


蒼空を支える様に慌てて立ち上がると彼女は左手首の時計を見て慌てふためていていた。

そして背を向けると同時に蒼空へ手を振って駆け出そうとする。


「それじゃまたね!今度ゆっくり話そうね!」



「あ…はい!あの…望美お姉ちゃん…!」



「ん?」



「学校の先生にはなれましたか?引っ越す前、話してたじゃないですか!学校の先生になるんだーって!」



「あー…あれ未だ憶えてたんだ…。ま、まぁね…何とか小学校の先生として上手くやれてるよ。それじゃ!」


何処かぎこちない返事をすると望美は手を振ってから蒼空の前から立ち去って行った。

学校へ着いた蒼空だったが玄関に居た翠と翔太に連れられて靴を履き替えてからとある場所へ案内される。そこはクラブ活動で使用する為部室が有る場所でその中の1つの前へ来ると彼女は表札を見て首を傾げていた。


「ヒーロー…研究会?」



「そう!ボク達の集合場所として作ってみたんだけど…どうかな?」


翠が目を輝かせて話す一方、翔太が蒼空へ説明し始めた。


「今度リーナさんが此処に転校する事になったんだ。うちのお母さんが僕や友達と一緒の方が良いんじゃないかなって。」



「成程。ヒーロー研究会、確かに良い響きです!私達もある意味この街を守るヒーローみたいなモノですから!!」


これまで、侵略者ヴィランデールとの戦いを繰り広げて来たのは文字通り蒼空達。つまりヒーロー研究会という場所はリーナが異世界の人である事を隠す目的でもあり、蒼空達の作戦会議場所としての目的もあった。話をしていた時にチャイムが鳴ると3人は教室へ向かい始める。


「じゃあまた放課後に。僕は日直の仕事が有るから少し遅くなるかも。」



「解りました!小鳥遊君、また後で!」


蒼空と翠が同じ方向へ向かって歩く中、途中で翔太が離れると自分のクラスへと向かって歩いて行った。

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時を同じくしてクモノースはコマンドソルジャー、そしてファントム・ナイトの2人を同じ部屋へ呼び出し作戦会議を行うつもりだったのだがこの日はいつもと様子違っていた。


「2人を呼んだのは他でも有りません…実はつい先日、漸くシャイン・クリスタルと思わしきモノの行方が何処に有るのか解ったのです。」



「シャイン・クリスタルが!?本当なのですかクモノース様!」


ファントム・ナイトがそう話すと彼は無言で頷き、手持ちの小型端末で電子地図を出現させる。


「私のソルジャー部隊が此処の山奥を散策中に怪しい箇所を発見、詳しく調べた所…どうやらこの街には不思議な伝説が有るそうで。」


コマンドソルジャーを見たクモノースは彼へ1枚の用紙を手渡し、それを読めと目で訴えて来る。それは古い文献とも取れる物だった。


「はッ!えーっと…6色に輝く虹の光集まりし時、1つの架け橋となりて異国とこの地を繋がん…?」



「そう。その光が我が手元へ集まればこの世界とフルール王国を繋ぐ事が出来る…本来、別の世界へ移動する為には転送装置か或いは次元へ干渉する手法でなければ上手くは行かない。つまりユーヴィ様の絶対的なお力をこの世界へ持ち込む為にはそのクリスタルの力が必要なのです。」



「成程、流石はクモノース様!!」


コマンドソルジャーは納得した顔で頷いていた。


「…6色の光。つまりジュエリィナイト達の力を利用するという事ですか?ですが奴等は変身出来ぬ王女を抜けば4人の筈…どうされるのですか?」



「そこは心配ご無用。4人の光を奪い、そして残る2つを此方が生み出したダーク・ジュエルを利用し力を増幅させ、シャイン・クリスタルを奪うのです!!」


クモノースは右手を強く握り締めるとニタリと不気味に笑っているの見つつ、ファントム・ナイトは彼へ尋ねた。


「1つお聞かせ下さい。この世界へユーヴィ様の侵略の手が伸びた時…どうなるのですか?」



「貴女も知る通り、各星々にあるとされるシャイン・クリスタルが消えれば生きとし生けるモノ全てが壊滅するでしょう。ですがユーヴィ様がフルール王国を自らの支配下として管理したのと同じ、この星もまた支配下として管理なさるおつもりなのです…もしそうなれば此処に住む人間達は全てユーヴィ様の言葉や定めたルールのままに動く物言わぬ駒となるのですよ…クククッ。」



「刃向かった星は破壊し、そうでないなら絶対的な支配を行い…従わせる。」



「それに我々、ヴィランデールの構成員も元を辿ればネビュラという星の生まれ…そこはユーヴィ様が最初に管理した星。無限のエネルギーを持つシャイン・クリスタルさえ手に入れば世界の支配も何もかも思いのままという訳です。」


淡々と説明したクモノースが最後にこう付け加える。


「現地にはコマンドソルジャー、貴方が向かいなさい。ファントム…呉々も抜かる事の無いよう、頼みましたよ。」



「ラジャー!!」


コマンドソルジャーが返事をし、続いてファントム・ナイトも返事を返した。


「…了解。」


こうして会議は終了し解散。それから程なくして各々が作戦の為に動き出した。

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「お会計が2860円になります。3000円お預かり致します。此方レシートと140円のお釣りになります、ありがとうございました。」


霞ヶ丘市内にあるスカイマートというスーパーマーケット。そこで望美は青いエプロンを身に付けてレジの作業を行っていた。漸く客がはけた段階で一息つくと彼女は軽い背伸びをしていた。


「ふぅ…何とか即採用で良かった。当面は仕事に困らないから助かるなぁ。」


すると彼女が立っていたレジへ商品が置かれ、

振り向くと昼間見た蒼空と同じ制服を着た少女が立っている。それは蒼空の友達である刹奈だった。


「…貴女、蒼空の言ってた夢咲さんって人?学校の先生じゃなかったんだ。」



「へッ!?あ、いや…えーっと…その…これには深い訳が有るの!!すいません、少し抜けます!この子お腹痛いみたいで!!」


手早く会計すると刹奈の手を取ってレジから出た望美は店の裏にある休憩室へ彼女を連れて行った。


「あ、ちょっとッ…!?」



「ごめんッ!悪いんだけどこの事は蒼空ちゃんには内緒にしてくれないかな?」


振り返ると望美は両手を合わせて頭を下げた。


「…別に良いですけど、蒼空が自慢げに貴女の事話してましたよ?望美お姉ちゃんは凄いんだって。」



「別に凄くなんかないよ…ドジだしバカだし頭悪いし。」



「…蒼空とは何処で知り合ったんですか?」



「海原市、私も蒼空ちゃんもそこに住んでて

ご近所さんだったの。初めて出会ったのは蒼空ちゃんがまだ小学校の時かな…他の子が仲良く遊んでるのに1人で居たから声を掛けたの。それから学校が休みの日は私と遊んだり、出掛けたり。色々有ったなぁ……。」



「…え?じゃあ蒼空って…友達居なかったんですか?」



「前にお母さんから聞いた話だと臆病というか自信が無いっていうか…引っ込み思案な子だったみたい。だからかな、他の同い歳の子と遊ぼうとしなかったの。」



「…今の蒼空とは大違いですね。明るくて常に前向き、1度決めた事は真っ直ぐなのに。」



「へぇ、そうなんだ。」


望美はそれを聞いて微笑んでいた。


「…でも何で学校の先生だなんて嘘付いたんです?」



「本当は嘘を本当にしたかったんだけどね。先生になりたいっていうのは悩んで悩んだ末に私が見付けた1つの夢…でも現実は夢と違ってそう上手くなんて行かない。試験も何回か受けたけどダメだったの。」



「…成程。」



「次の試験で受からなかったら…キッパリ諦めるつもり。後悔はしてないよ、だって自分なりに一生懸命やったつもりだから。」



「…蒼空は貴女の事ずっと信じてるのに、それを裏切るだなんて無責任な気がします。」



「それは私が良く解ってる…。でもね、どうにもならない事だって世の中には沢山有るんだよ。」



「……。」


刹奈はそれ以上何も言わず、黙ってしまった。


「ごめんね、こんな話して。そろそろお店に戻ろう?途中まで送ってあげるから。」



「…あ、はい。」


望美は刹奈と共に再び店内へ戻ると会計を済ませてから刹奈だけ店を後にするのだった。

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それから数日経ったある日。

学校がテスト期間により午前放課で終わった帰り道、蒼空は望美がスカイマートの店内で働いているのを偶然通り掛かった際に見てしまった。本来なら小学校はまだ授業が終わっていない筈。

気になった彼女は確かめる為に店内へ入ると望美の元へ走って来た。


「お姉ちゃん…望美お姉ちゃん!!」



「いらっしゃいませ…って蒼空ちゃん!?どうして…学校はもう終わったの?」



「そんな事より!そんな事より…何で…どうして…こんな所に居るんですか…。それにまだ小学校の授業は終わってない筈なのに…。」


確かに此処へ来る最中、蒼空は小学生とは誰1人擦れ違っていない。


「どうしてって…それは…ッ……。」



「小学校の先生になったって…あの時私に言ってたのに…。」



「……ごめん。」



「嘘…付いたんですか…?私、お姉ちゃんの事ずっとずっと信じてたのに…!!」



「本当にごめんなさい…でも、私だって──」


だが蒼空は望美の言葉を遮ってしまった。


「嘘吐き!!お姉ちゃんなんか…お姉ちゃんなんか大嫌い!!」



「ッ…!」


誰よりも純粋で真っ直ぐな蒼空からすれば嘘というモノを吐かれるのは正直に言えば好きではないし、下手に誤魔化されるのも嫌いだった。

故に自分が知っていて、身近な人が嘘を吐いていた事が何よりも許せなかったのだ。

蒼空が去った後に望美も仕事を放り出して彼女を店の外へと追い掛けて行ったが行く手を遮る形で黒い服を着た銀髪に赤い瞳の少女、ファントム・ナイトが現れた。


「お前の哀しみ…苦しみ…絶望。存分に利用させて貰うぞ。」



「何言ってるの、お願いだから早くそこを退いて!!」



「…誰が退くものか。ジュエリィ・ナイトと関係する者は全て私の敵だ!!」


少女が取り出したのは1枚の黒いカード、そこには銀色の菱形をしたマークが記されていてそれを望美へと差し向けた。


「光栄に思いなさい、ヒトで試すのはお前が初めてだ…さぁ生まれろ、邪悪なる者よ!!」


カードを投擲しそれが望美へ命中、彼女を飲み込むと彼女は悲鳴と共に化け物へと変貌してしまった。巨大化したそれは人の姿のまま黒い騎士の様な出で立ちに対して頭部は赤い2つ目を持ち、首からは赤い石を下げている他、背中から赤と黒のマントを持つその姿はまるで西洋騎士そのものだった。


「ハカイジャァアアア!!」



「お前の名は…ハカイジャー。そしてローザン・カードは残り4枚…何れは奴等を──うぐッ!?」


ファントム・ナイトは胸へ鋭い痛みを憶えた直後に右手の甲へ赤い薔薇の様な物が浮かび上がり、そこから蔦の様な物が這い出して右手首を縛り付けていた。


「ッ…成程…この程度の痛み、造作もない……全てはユーヴィ様の為、ヴィランデールの為…行けハカイジャー!!」


通りに出たハカイジャーは無作為に暴れ回ると同時に建物や周囲の物を容赦無くその手で壊して回る。そこへ駆け付けたのは蒼空を除いた刹奈と翠、偶々近くで仕事をしていた奏音の3人だった。


「また性懲りも無く出て来たわね、バケモノ!!」



「な、何か…いつもと雰囲気が違う様な…。」



「…兎に角、いくよ2人共!!」


彼女達は頷き合った後、各々が身に付けているジュエル・ストーンを外して身構えた。


「「「ジュエル・ストーン、コネクト!!チェンジッ──!!」」」



「ルビー!!」



「エメラルド!!」



「ダイヤ!!」


眩い光と共に3色の騎士達が姿を現すと一斉に駆け出しては飛び上がった。上空で右足を繰り出すと勢いに任せて突撃する。


「「「トリプルナイト・キィイイック!!」」」



「ハカイ…ジャアアアッ!!」


だが振り返ったハカイジャーはそれ等を左手だけで防いでしまうと振り払った。


「「「きゃあぁあああッ!?」」」


吹き飛ばされてしまった3人は辛うじて受身を取り、地面へ着地すると今度はルビー・ナイトが先行し立ち向かう。後方ではエメラルドとダイヤが構えていた。


「…邪悪を燃やし尽くす炎の力、喰らいなさい!!ルビー!パッショネイト・キック!!」


だがハカイジャーも迎え撃つ為に左右の目から赤色のレーザーを発砲しルビー・ナイトの行く手を遮らんと猛攻を仕掛けて来た。


「ハカイジャァアアア!!」


それを潜り抜けたルビー・ナイトが跳躍し身体を捻ると炎を纏った状態から右足で胴体を思い切り正面から蹴飛ばして仰け反らせる。バランスを崩した所へダイヤ、エメラルドが追い討ちを掛けて来た。


「「ツインナイト・パーーーンチィッ!!」」


命中した2人の拳によってハカイジャーが地面へ倒れる、後から合流する形で蒼空が駆け付けた。


「すいません、遅くなりました!今行きます!ジュエル・ストーン、コネクト!!チェンジサファイア!!」


咄嗟にサファイア・ナイトへ変身した彼女は土煙の中から立ち上がったハカイジャーと対峙、幾度か敵へ蹴りや拳でダメージを与えた後にサファイア・ナイトが駆け出すと地面を蹴って右足で跳躍する。そして空中で右手の拳を握り締めた。後は一直線に突撃し命中させるだけ。


「邪悪を打ち砕く水の力、喰らいなさい!!サファイア!!ブレイヴ──!!」



「ソ…ラ……。」



「え…ッ…?」


目の前の黒い騎士が何かの単語を発した。

途切れていたが確かに何かを口走ったのは彼女にも解る。放ったブレイヴパンチを外してしまい、地面へ駆け抜ける様に着地したサファイア・ナイトが後方を振り返った。


「ゴ…メ……ソ…ラ……。」


尚も途切れ途切れの言葉を発する敵の首から下げている赤い石、サファイア・ナイトこと蒼空はあれに見覚えがあった。


「あの石、何処かで──まさか!?」


彼女の中で悪い予感が過ぎる、目の前に居るあの敵は自分が良く知る相手なのではないかと思ってしまったのだ。すると今度はエメラルド・ナイトがジェダイトバトンを用いて雷撃を解き放ち、ダイヤ・ナイトが矢を解き放った時にサファイア・ナイトは咄嗟に駆け出すとコバルトセイバーをブレスから召喚、それ等を全て斬り捨ててしまった。


「ふぇええッ!?あ、危ないよ!?」



「サファイア、貴女…何してるの!?」


動揺する3人を前にサファイア・ナイトがハカイジャーの前へと立ちはだかった。


「止めて…アレには攻撃しないで…!!」



「…そこを退いて!!早くアイツを何とかしないと街や皆が危ないんだよ!?」



「ダメです!!アレは…あの怪物は……望美お姉ちゃん…かもしれない……。」


震える声でサファイア・ナイトが呟くとハカイジャーが背中に背負っていた剣を抜剣し彼女へ襲い掛かる、振り下ろされた刃を飛んで躱すも直後に左手の拳で弾き飛ばされて吹き飛んだ末に背中から地面へ落下して叩き付けられてしまった。


「ハカイジャアアアア!!」



「くぅ…ッ…!!」


襲い来るハカイジャーに対しサファイア・ナイトは落ちていたコバルトセイバーを取りに駆け出してそれを拾い上げる、再び正面を向いて迎え撃とうとした時。


『蒼空ちゃん。』


脳裏に過ぎるのは望美の笑顔とあの赤い石。

我に返った時には遅く、サファイア・ナイトは一瞬の油断によって手にしていた武器を弾き飛ばされてしまう。まともに反撃出来ずに攻撃を受け続けた末、遂にサファイア・ナイトは膝から地面へ力無く崩れ落ちてしまった。

僅かに離れた位置にある建物の屋上にファントム・ナイトが現れ、彼女達を見下ろして嘲笑っていた。


「…敵となるはお前の大切なヒト。普段と同じくその手で浄化出来るか?ふふふッ…取るのはこの街全てのヒトの生命か、それとも大切なヒトの生命か。どうする?サファイア・ナイト。」


真下ではサファイア・ナイトを守る様に3人が立ち塞がり、身構えているのが見て取れる。しかしどうする事も出来ない。


「私には…出来ない…助けて…刹奈…翠ちゃん…奏音…ちゃん……。」


一方のサファイア・ナイトはルビー・ナイトのスカートを左手で握り締め、泣きながら縋り付いていた。


「…こうなったら浄化するしかない!いくよ2人共!!」



「そんなの絶対ダメ!!そんな事したら…そんな事したらお姉ちゃんが、お姉ちゃんが…!!」


サファイア・ナイトに静止させられてしまい、躊躇っていた時。ハカイジャーは凸状として左手を差し向けると街中から黒いエネルギーを吸い取り始めたのだ。

駆け付けたリーナが異様な光景を見ていると付近にファントム・ナイトが現れた。


「どう?私の生み出した新たな敵、ハカイジャーは。」



「…ファントム・ナイト!?まさかアレはアンタが──!?」



「そうよ?ヒトの不幸、哀しみ、嘆き…それこそアンチエナジーの源。そこへ私の持つ力を与えた事で元となったヒトは闇に飲まれたという事。」


彼女が不気味に笑うと続いてリーナが口を開いた。


「まさかヒトにアンチエナジーを注ぎ込んだのか!?」



「その通り。そして傷を負う度にハカイジャーはアンチエナジーを吸収し取り込む。つまりお前達ご自慢のツインナイト・エクストリームも、スリーナイツ・レインボージュエル・スパイラルをアレにぶつけたら…ヒトごと倒しかねないって事よ。」



「何という事を…!!」


拳を握り締めたリーナを嘲笑う様にファントム・ナイトは5人を見つめていた。


「…さぁどうする?お前達に好きな方を選ばせてあげるわ。どの選択肢を取っても待つのは絶望でしょうけどね。」


再び構え直したハカイジャーが襲い掛かろうとしたが苦しみ出し、止まってしまう。


「ちッ、まだ完全では無いか…。今日はこのまま引き上げてあげるわ。お前達の心がズタズタになり…その心が闇に染まるその日まで何度でも相手になってあげる。」


その言葉と共に目の前の危機は去った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

蒼空は座り込んだまま変身を解く、その直ぐ傍に刹奈が近寄って来る。


「…蒼空、大丈夫だよ。きっと何とか出来る…だから──」



「大丈夫って…どうして言い切れるんですか…何の根拠も無いのに……。」


頭を抱えた刹奈に変わって近くに居た翠が声を掛けて来た。


「それでもやるしかないよ。だって私達はこの街を守るヒーロー…」



「止めて下さい!!ヒーロー…なんて…もう嫌だ…私、これ以上……戦いたくない!!」



「蒼空ちゃん…。」


するとミラージュ・ブレスから青いサファイアの石が外れ、落下。それが目の前で灰色の石へ変わりるとブレスも白から同色へ変わって共に消えてしまった。彼女の悲痛な叫びと共に蒼空の心と身体は傷付きボロボロになってしまっていた。


(つづく)

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