第18話 紫織と蒼空、友情のペンダント!

深夜、マンションの一室にあるドアが開いた。

靴を脱いで暗い廊下を歩くとリビングのドアを開いて周囲を見渡す。広いリビングの中にあるのは木製の机と椅子の他、テーブルの上に乗った透明なラップが掛けられた食事だけ。後は台所とソファ、薄型のテレビと観葉植物だけだった。

窓には白いカーテンが掛けられていて特に変わりはない。


「…お手伝いさんは帰ったのね。」


透き通った様な声で呟くと部屋の明かりを点ける、彼女こそファントム・ナイトの正体である

月影紫織本人。棚の近くには両親と笑顔で写る少女の姿があった。ラップが掛けられているのは彼女の為に作られた夕飯で、皿の上に付け合せの人参が載ったハンバーグの他に白い茶碗に盛られた白米と、黒い容器に入った豆腐とネギの味噌汁。椅子へ腰掛けると彼女はそれ等をレンジで温めた後に再び並べ、ラップを外してから手を合わせて食事を始める。

もう1人きりの食卓には慣れてしまった…それに

最後に両親と食事をしたのはいつの日か解らない。彼女の両親は共に海外で働いていて、滅多に会う事は無かった。


「…そういえば選ばれたあの日から殆ど家には帰らなかったわね。こうして此処で食事するのも久しぶりかもしれない。」


それは自身がファントム・ナイトとして活動する前の事。紫織は今年の春から中学3年になったばかりで新学期の説明を終えた帰りの事。

目の前に現れたのは顔に銀色の仮面を付け、胸と両腕には白色のアーマー、そして黒いボディスーツを身に付けた数人組が前方に現れる。


『居たぞ!逃すな、捕らえろ!!』



『止めてッ!何するの!?離して、離してったら!!』


そのまま気絶させられて施設へ連れて来られた彼女は他の同い歳か歳下の少女らと共に洗脳されて実験された。ブラック・ストーンオニキスは科学班がジュエル・ストーンを研究し独自で生み出したモノでシャドウ・ブレスも同じ。

全ては2つの適合実験の為に集められただけであり、彼等も新たな戦力が欲しかったのだ。


「数多の実験の生き残り…それが私。幸いなのは失敗作は全て記憶処理されて帰されたという所かしら。」


過去の事を思い出しながら食事をしていると

携帯に入れているメッセージアプリに通知が届く。そこには[天音蒼空]と書かれていた。食事の手を止めて携帯を開いてみるとそこには


[明日、もし良かったら一緒にお出かけしませんか?]


というメッセージが記載されていた。


「…バカな子。貴女がやりとりしているのは憎むべき敵だというのに。けど、これを利用するのはアリかもしれないわね。」


紫織はそれに対して返信し、それから集合場所と時間を決めた。再び食事を再開し済ませた紫織は食器を台所へ運んで備え付けの食器洗浄機へそれ等を入れた後に洗剤を入れてから蓋をしてスイッチを押す。それから彼女は暫くリビングで過ごした後に入浴等を済ませると明かりを消して自室へ戻り、ベッドへ横たわると一日を終えた。

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そして迎えた翌朝。

この日の蒼空は無地の水色の長袖シャツと紺色のミニスカート、足元は踝迄の白い靴下に白のスニーカーの他に肩から黒のショルダーバッグを下げている。予定時刻よりやや早く来てしまった事から付近の時計を見てソワソワしていた。


「久しぶりに紫織さんと会うの…緊張するな…。」



「蒼空ちゃん、お待たせ。」


声を掛けられて振り返ると白いシャツの上に黒い上着を上から羽織り、白いベルトの付いた黒色のホットパンツと膝下迄の黒いブーツを身に付けた紫織の姿があった。


「紫織さん!」



「思ったより早く来てたのね。」



「はい!だって紫織さんと一緒に遊べるって思ったら楽しみで中々寝られなくて…それで何処行きましょうか?」



「そうね、蒼空ちゃんが行きたい所なら何処へでも。」


紫織は微笑むと蒼空もまた微笑み、お互いに並んで歩き出す。道なりに歩いていると蒼空は鞄から小さな手帳を取り出すとそれを見せて来た。


「こんな事もあろうかと友達に予め色々聞いて来たんです、霞ヶ丘市で楽しそうな場所!!」



「もしかして蒼空ちゃんは街の事初めてなの?」



「実は…お父さんの都合で新学期前に引っ越して来たんです。だからあまり知らなくて。」



「そうだったのね。じゃあ最初は…此処にしない?」


そっと紫織が指差したのは翠が記載した彼女オススメのゲームセンター。先ずはそこへ向かう事に。中へ入ると様々なゲーム筐体が置かれていて、蒼空も歩きながら辺りを見回していた。

その中でクマのぬいぐるみが入ったUFOキャッチャーの前で立ち止まると紫織へ声を掛けた。


「紫織さん見ていて下さい!私、絶対にあのぬいぐるみゲットしてみせますから!!」



「えッ?でも…お金は大丈夫?」



「大丈夫です!お小遣い貯金してるの持って来たので!!」


得意気に話すと蒼空は財布から100円を取り出して筐体のコイン投入口へ入れてからボタンを操作するのだが、何回やっても上手くいかない。


「あ、あれ?可笑しいなぁ…。」



「私が横から見ててあげる、ストップって言ったら手を止めて。」



「はい…ッ!」


紫織の指示の元、再度挑戦すると今度は成功し

蒼空は嬉しそうにぬいぐるみを取り出して紫織へと手渡した。


「わぁ!凄いです、本当に取れました!!良かったぁ…じゃあこれ、紫織さんに!」



「うん…ありがとう。大切にするわ。」


嬉しそうに微笑んだ紫織だったが内心、蒼空からどのタイミングでジュエル・ストーンを奪うか模索していた。ブレスが有ってもそれが無くてはサファイア・ナイトへは変身出来ないからだ。


(はぁ…いつまでこんな事に付き合わされるのかしら。こっちは早く作戦を終わらせたいのだけど?)


嬉しそうに歩く蒼空の背を見ながら考えていると次に向かったのはプリクラを撮る筐体が並んでいる場所だった。


「次はこれにしませんか?私、こういうの撮ってみたかったんです!」



「プリ…クラ?ごめんなさい、私もこういうのは撮った事なくて…。」



「人生、何事も経験だって私のお母さんが言ってました!試しにやってみましょう!」


そして2人は筐体の中へ入り、並んで写真を撮る事に。機械の指示通りに笑ったり、ポーズを撮ったりしながら進めると最後に2人の並んだ写真にデコレーションを施して完成。外へ出て写真を取り出すと蒼空はそれをキラキラした目で見て微笑んでいた。


「これが初プリクラ…生まれて初めて女の子っぽい事した気がします…!!」



「そうなの?」



「実は弟から結構言われるんです、もっと女らしくしろーって。多分…お父さんもお母さんもそう思ってるかも。」



「そうなんだ。蒼空ちゃんとご両親は仲が良いの?」



「はい、2人共大好きですから!あ…勿論、弟も妹も大好きですよ?」



「羨ましいな…私の家は両親は海外で仕事、家には私しか居ないの。だから蒼空ちゃんみたいな元気な妹が居たらな…って。」


店内から外へ出ると蒼空は何かを思い付き、紫織の左手をそっと握った。


「じゃあ今日だけ、私が紫織さんの妹になります!」



「…ありがとう、じゃあ次はどうする?蒼空は何処に行きたいとかある?」



「えーっと…次はミストモールに!」


蒼空は紫織と手を繋ぎながら歩き出す。

2人から離れた位置でコマンドソルジャーが物陰に隠れてその様子を伺っていた。


「あの小娘は確か王女の。丁度いい、確か向かった先はミスト…モールだったか?なら好都合だ。ファントムから勝手に借りたインヴェート・マグナムで…!!」


そして彼もまた早足でミストモールへと向かって行ったのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ミストモールとは様々な店が入った3階建ての大きなショッピングセンターで若い男女を始めとした幅広い年代の人々が訪れる場所。

平日もそうだが休みの日は特に人が多い。

徒歩で約1時間近く掛けて辿り着くと2人は店内へ入って様々な店を見て回り、途中で食事を済ませた後に再び歩き始めるがその途中で紫織は不意に足を止めた。


「…どいつもこいつも楽しそうに笑ってる。

その笑顔が気に食わないというのに。」



「紫織さん?どうかしました?」



「え?ううん…何でもない、少し考え事してただけよ。」


紫織は誤魔化すと再び歩みを進め、蒼空に手を引かれながら歩いて行く。彼女が立ち寄ったのは安価なネックレスやペンダント等を扱う店で様々な物が並んでいる。


「わぁ…!綺麗ですね!」



「そうね…これとかどうかしら?蒼空に似合いそう。」


指差したのは羽の装飾が付いた物で梱包されたそれを手にした蒼空は値段を見た後に戻してしまった。


「うッ…確かに欲しいけど少し高い様な…。ん?何でしょう、あれ。」


そっとそれを戻すと彼女は溜め息をついてしまう、だが直後に人集りが有るのを見つけて近寄ってみると四つ葉のクローバーの形をしたペンダントが売られていた。


「これだ!私、これにします!!」



「あ、ちょっと…!」


紫織を残して人集りの中へ向かうと蒼空は6人分のペンダントを持って来た。青、赤、緑、黄、紫、白の6色が彼女の手元に有る。


「これ…みんなで付けませんか?離れていてもみんな一緒だよって事で!」



「私も付けるの?」



「勿論!紫織さんは…紫色で!」


満面の笑顔で蒼空が差し出したのは紫色の四つ葉のクローバーを象ったペンダント、それを受け取った彼女は小さく頷いた。そして会計の為にレジへ向かって精算し店を後にした。


「うぅ…お小遣い結構減っちゃいました。」



「大丈夫?別に無理しなくても良いのよ?」



「いえ!だって紫織さんとお揃いの付けられるって思うと何だか嬉しくて…!」


笑顔を見せる蒼空を見た紫織は受け取ったそれを見ながら小さな溜め息をついた。


(貴女の前に居るのは憎むべき敵。なのに何故こうも笑顔で居られる?まさか何も考えていないのか?)


此処最近、紫織の言動は少しずつ変化している。最初はお淑やかで優しい物言いだったが

何処か荒い物へと変わり出していた。本人はあまり意識していないが不意に出そうになるのを何とか隠していた。


「紫織さん?もしかして…迷惑でしたか?」



「う、ううん…ありがとう。蒼空が選んでくれたんですもの、大切にするわ。」


ゲームセンターで取れたクマのぬいぐるみが入っているビニール袋の中へそれを入れ、歩き出そうとした時。再び蒼空は走って行くと下のフロアでやっているヒーローショーをフェンスに近寄って見ていた。

アナウンスと共に子供達の声援が2人の居る場所まで聞こえて来る。紫織も蒼空の傍へ来るとそれを不思議そうに見ていた。


「わぁあッ!?バスターブレイブのショーがやってる!!頑張れー!ブレイブレッド!!そこだ!パンチ!キック!!」



「バスター…ブレイブ…?」



「今、大人気の特撮ヒーローなんです!まぁ…悪魔で私の中でですけど。」



「蒼空はアレが好きなの?」



「弟の影響で見始めたら私もハマっちゃって。この間、お恥ずかしながら変身する玩具も買ったんです…あはは。」



「…そう。でも好きな物が有る事は良い事だと思うわ。」



「そうなんですか?」



「ええ、辛い時とか苦しい時…それが自分の事を励ましてくれるから。」


紫織がそう話した時、客席の中に紛れているコマンドソルジャーを見付ける。そして立ち上がった瞬間に彼は何かを発砲しスピーカーを射抜くとそれがクライナーへ変貌。当然、周囲は大騒ぎでスピーカー型のクライナーは辺りの物を破壊しながら暴れ回る。


「クライナー!?どうしてこんな所に!?」


蒼空が驚いている反面、紫織はその光景を見て舌打ちする。その最中でも周囲の人々は我先にと悲鳴を上げて逃げ惑っていた。


「アイツ、私のマグナムを勝手に使ったのか!?後で覚えておきなさいよ…!」



「紫織さん、早く安全な所へ逃げて下さい!」



「でも…ッ!」



「直ぐ戻ります、心配しないで!」


蒼空が紫織を連れて出口の方へ逃す、そして蒼空だけは流れに逆らって向かったのは女子トイレ。人気が無い事を確認し中の個室へ入ると彼女は首から下げていたネックレスからサファイアのジュエル・ストーンだけを外し、構えると叫ぶ。


「緊急事態だから仕方ない!ジュエル・ストーン、コネクト!!チェンジ・サファイア!!」


個室の中で青く眩い光が放たれると彼女はサファイア・ナイトへ変身、個室のドアを開け放って再び外へ出ると今居る2階のフロアから1階のフロアへ向けてフェンスを足場にし飛び降りて着地する。


「ヒーロー参上!!これ以上の悪事はこのサファイア・ナイトが許しません!!」


目の前のクライナーと目が合う、そしてその近くにはコマンドソルジャーが立っていた。


「出たな青い騎士!今日こそお前を倒してやる!!さぁ行け、クライナー!!」



「クライナァアアアア!!!」


左腕を差し向けたクライナーはそこから凄まじい音を出し、彼女へ攻撃を仕掛ける。あまりの音にサファイア・ナイトは両手で耳を塞いでいた。


「わぁああッ!?う、うるさい…ッ!!」



「はははッ!もっと苦しめ、もっとだ!!」


そして次に向けられたのは右腕、そこから放たれたのはマイクの形をしたミサイルでそれがサファイア・ナイトへ向けて飛んで来る。

彼女は咄嗟にそれを飛んで躱して続く2発目と3発目を蹴りで弾き落とし爆発させた。だが屋内である事から下手に戦えば被害が出てしまう。


「何とかして外へ出さないと…!」


追撃が来ると思われた時、サファイア・ナイトは微かだが泣き声を聞き取った。自身から見て左斜めにある店の方へ視線を向けるとそこに逃げ遅れたであろう小学生の女の子が居て、座ったまま泣いている姿があった。


「あんな所に…女の子が!?」



「クライナー!!あの青いのを倒してしまえ!!」


クライナーが咆哮し歩き出すと大きな身体が2階の通路へ接触、それが崩落し瓦礫が少女へ降り注ぐ。サファイア・ナイトは咄嗟に駆け出して

少女へ接近し抱き抱えるとクライナーの背後へ回り込む様に頭からスライディングして倒れ込んだ。自身の身体を下にした事で幸いにも少女にケガは無かった。起き上がるとサファイア・ナイトは少女へ優しく穏やかな形で話し掛ける。


「大丈夫?痛い所はない?」



「うんッ…。」



「良かった。お姉ちゃんがお父さんとお母さんの所に絶対、貴女を帰してあげるから。ね?」


微笑むと少女を慰め、サファイア・ナイトは再び立ち上がる。そして振り向いたクライナーと再び向かい合うと睨み付けていた。


「…子供達を泣かせて、みんなの大切な場所、時間、思い出を壊すなんて…絶対に許せない!!」



「そうしなきゃ、ユーヴィ様へ献上する為のアンチエナジーは溜まらねぇんだ!!やれ!クライナー!!」


サファイア・ナイトは咄嗟に少女を抱えて出口の方向へクライナーを誘い込み、外へ。そして駐車場へ出ると彼女は少女が指差した方向に居た両親と兄と思われる少年の元へ少女を帰すと避難させた。

そしてサファイア・ナイトだけが単身でクライナーへ立ち向かって行く。


「クライナァアアア!!」



「っだぁああああ!!」


地面を跳躍して放たれたミサイルを次々と飛び越えて間合いを詰めるとサファイア・ナイトは右足を繰り出して蹴りを放つ。それが命中し仰け反るとクライナーが反撃し左腕から大音量の音を流して来る。その影響によりサファイア・ナイトは地面へ着地した。やはり厄介なのはあの大きな音、迂闊に近寄るのが難しい。


「あ、あの大きな音を何とか…しないと…!」


サファイア・ナイトが身構えていると彼女の後方へルビー・ナイト、エメラルド・ナイトが駆け付けて来た。


「お待たせサファイア!!」



「…さっさと倒しちゃおう。…って言っても、もう1人は事情が事情で来なさそうだけど。」


だが直後にクライナーへ放たれた2発の光弾が命中し仰け反った後、離れの街灯の上に白い戦士であるダイヤ・ナイトが立っていた。


「ちゃんと現場には来ないとね。だって新入りが出遅れるなんて有り得ないもん!!」


各々が身構え、4人の戦士が集結する。

そしてダイヤ・ナイトも傍へ来るとそれぞれが武器を構える。


「──届け、真実の光!ミラージュ・ステッキ、コバルト・セイバー!!」



「…ガーネット・レイピア!!」



「ジェダイト・バトン!!」



「プリズム・シールド!!」


白い弓を構えた彼女は3人へ目で訴える、そして頷いた後に一斉に駆け出した。ルビー・ナイトの攻撃が命中しふらついた所へエメラルド・ナイトによる雷撃が命中、ミサイルでの攻撃が来ようならサファイア・ナイトがそれを剣で斬り裂く。更にダイヤ・ナイトが放った光の矢が着弾しクライナーは連携攻撃により追い込まれていった。


「クッ、クライナァアアッ!?」



「おいどうした!?しっかりしろ!お前の持つ音で攻撃しろ!!」


コマンドソルジャーが指示を飛ばした時、左腕へエメラルド・ナイトによる回し蹴りとルビー・ナイトのパンチが命中し破損してしまった。これでもう音を出す事は出来ない。その中でクライナーが視線を向けた先に居たのはサファイア・ナイト、鍔へ左手を翳した彼女は青いエネルギーを蓄積させて構えていた。


「邪悪を打ち砕く激流の力!受けてみなさい!!サファイア!ウェイブ・スクリュー・シャイニング!!」



「ちぃ…ッ、撤退だ!」


クライナーを残し、コマンドソルジャーだけが撤退すると直後に押し寄せた青い閃光によって

包み込まれてしまった。


「ア…アカルイナァ……。」


元のスピーカーとマイクに戻った後、破壊された建物や店等も含めて全て元通りに修復された。

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「こっちが紅城刹奈ちゃん、朝比奈翠ちゃんで…白井奏音さん!この人が月影紫織さん、私達の1つ上の学年で…白百合中学校に通ってるんです!」


紫織と遊んだその帰り道に蒼空が3人へ説明すると刹奈が何処か驚いた様な顔をしていた。


「…白百合中って確か偏差値が結構高くないと入れない学校じゃん!?アンタいつの間にそんな人と友達になったの?」



「ちょっと成り行きで…あはは。でも、紫織さんと沢山遊びたかったな……行きたかった所とか色々有ったのに。」


手帳を取り出した蒼空は溜め息をついてしまう、するとそれを見ていた紫織が彼女へ近寄って声を掛ける。


「行けなかった所はまた今度行きましょう?ね?」



「でも…!」



「蒼空、ワガママは駄目よ?それじゃ…此処でお別れね。今日は色々ありがとう…楽しかったわ。」


通りで歩みを止めた紫織は4人を見て微笑んでいた。


「あのッ…紫織さん!!今度は遊園地に行きましょう?私達4人とそれからリーナさん、小鳥遊君とみんなで一緒に!」



「……うん、約束ね。」


頷くと紫織は蒼空と指切りを交わした後にそのまま歩いて行ってしまった。こうして蒼空にとって夢の様な1日は幕を閉じたのだった。

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帰宅した紫織は蒼空から貰った紫色をした四つ葉のクローバーペンダントを開けて首から下げるとそれを鏡で見ていた。


「…幸せの印か。こんなモノ、持っていても何の役にも立たないというのに…本当バカな子。」


鏡に写る紫織の顔は先程と違って表情は何処か冷たく、目付きも違う。蒼空との話で垣間見えた笑みは全て愛想笑いでしかない。

そしてそれは同時にブラック・ストーンが確実に紫織の心を蝕み続けているという証拠でもあった。再び2人が会うとすれば恐らくまたクライナーが現れた時…或いはジュエル・ストーンを奪うという目的の為だけに現れる位だろう。

洗面所を出てペンダントを外すと彼女もまた長かった一日を終わりにした。









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