第7話 フルール王国からの使者、クラウス!
リーナが軽家出をした日から少し経ったの朝。ショウタが部屋で目を覚ますと彼女の姿が無かった。不思議に思った彼は寝間着姿で1階へ降りて来るとそこには既に着替えたリーナが居て、彼の母親の手伝いをしていた。茶色い髪をヘアゴムで後ろで纏め、服装は水色のトレーナーに下は膝丈迄の灰色のスカートをそれぞれ身に付けている。名前は小鳥遊紫穂といって翔太の母親、それに顔立ちも良くて傍から見れば美人でもある。
「リーナさん?何してるの?」
「おはようショウタ。普段より起きるのが少し遅かったな。お母様、私がお箸を持って行きます。」
彼女は4人分の箸をテーブルへ持って来るとそれを丁寧に並べていく。それが済めば今度はお盆に載った味噌汁と茶碗に盛られた白米を運んで来てはそれを並べ始めた。
「お母様のお手伝いをしている、単に居座って食事だけ貰うのは気が進まないのでな。」
「へぇ…僕も何か手伝おうか?」
「なら、玄関にあるシンブン?というのを持って来て欲しい。お父様が毎朝読む必要な物らしいのだ。」
「解った、持って来るよ。」
リーナは自身の立場が王女である事は翔太や蒼空、刹奈以外には話していない。
翔太は両親に対してリーナは外国から中学へ来た留学生と伝えている。彼が玄関へ向かって新聞を持って来る頃には父親もリビングに居て、合流した所で朝食が始まった。
「えーっと…母さん、今日も焼き鮭なの?」
「リーナちゃんが日本の焼き鮭が大好きだって言うからつい。リーナちゃん、卵焼きも良かったら食べてね?」
翔太の母親は嬉しそうな笑みを浮かべながら
食事に無中になっている彼女を見ていた。
「タマゴヤキ…も甘くて美味です、お母様!あと此方のお野菜の漬物とこの黄色いのは…何ですか?これも美味なのですが。」
「そう、お口に合って良かった。そっちの緑色のがほうれん草のおひたしで…今食べているのが沢庵よ。」
少しずつ翔太の家の人間として慣れ始めているのは良い事であるのだが、リーナは見掛けの割に良く食べる。この日も朝から白米を2杯食してから朝食を終えていた。
「さてと…食べたら次は運動だ。あまり動かないと身体が鈍ってしまう。」
「運動ってランニングとかストレッチとかするの?」
「言葉の意味は解らないが…走ったり鍛えたりはするし、後は木の剣で戦う事もある。それに騎士は身体作りが重要なのだと団長から聞いている。だから私も此処へ来る前は鍛えていた。」
「な、成程…。」
「良ければショウタも来るか?私の傍に居るのだ、少し位強くなくては男が立たぬぞ?」
「えぇッ!?僕もやるの!?」
彼女が首を傾げると観念した翔太は「支度して来る」と言い残して着替えに向かった。
学校が休みな事から2人して歩いて向かったのは自宅から徒歩20分で行ける公園、他に来ている人達から離れた場所へ訪れるとリーナはその場で借りたヘアゴムで髪を結んでポニーテールへすると振り返った。
「何か手頃な大きさの枝はないか?」
「枝?えーっと…これならどう?」
翔太が渡して来たのは約30cm程の木の枝、それを受け取ったリーナは地面に置いて中指へ銀色の指輪を嵌めるとそこへ右手を翳した。
するとそれが木製の剣へ変化し、それを拾って片方を翔太へ手渡して来たのだ。
「今のは何?まさか魔法!?」
「これはフルール王国の王族だけが使える力、マナだ。此方の世界ではマホウと呼ぶのか?」
「ま、まぁね…でも初めて見た。」
「そうか。では始めるぞ、時間が勿体ない。先ずは走る事から!」
その場でお互いにストレッチをしてからそれを一旦置いて公園内を走り始めた。体育の授業でもそうだが翔太は運動が苦手、最初は追い付けていても少しずつリーナから離されてしまう。
「ま、待ってよ…リーナさん…ッ!」
「まだ1周目だぞ?残り2周も有るのにそんな調子で大丈夫か?」
リーナに励まされながら必死の思いで何とか走り切ると休憩を挟んでから次に向かったのは雲梯、彼女はそれを見て自分から手を伸ばして進み始めた。
「次はコレだ!此処を4往復する。」
「よ、4回も!?嘘でしょ…。」
「立ち止まっていても始まらないぞ、ショウタ!」
翔太も雲梯へ手を掛けて腕の力だけで進み出し、2周目辺りで見覚えのある人物と通りで目が合った。そこに居たのは自転車に乗った蒼空で後ろには長方形の箱を積んでいた。彼女は公園へ入り、雲梯から離れた場所に自転車を停めると近寄って来る。
「小鳥遊君、リーナさん。此処で一体何をしてるんですか?」
「と、トレーニングだよ…リーナさんと一緒に……ってうわぁッ!?」
振り向いたと同時に握力が限界を迎え、翔太は地面に落ちて尻もちをついてしまった。
「トレーニング?」
「あぁ、私が此方の世界へ来る前にやっていたんだ。良かったらソラもどうだ、サファイア・ナイトとして日頃から鍛錬は必要不可欠だろう?」
「勿論!運動なら任せて下さいッ!!ほら小鳥遊君も立って立って!!」
蒼空から手を差し出されるとそれを握って翔太は立ち上がる。そして蒼空はリーナから説明を一通り受けてから再びトレーニングが幕を開けたが運動が苦手な翔太にとって大変なのは変わらなかった。そして全てのトレーニングを終える頃には翔太はヘトヘトになり、ベンチに1人腰掛けていた。目の前では蒼空がリーナから手解きを受けながら木剣で素振りをしている。
「素振りも大切な訓練の1つだ、騎士の道はまだまだ遠いぞ!」
「はい、頑張りますッ!!」
案外、リーナはスパルタなのだと思いながら翔太が2人を見ていた時。離れにある草村がガサガサと動いた様な気がして其方へ目を凝らしてみる。そこから現れたのは茶色い身体と白い頭部を持つ鷲…のようなぬいぐるみの様な形をした二足歩行の生き物だった。
「な…何だあれ…ぬいぐるみ?」
「…?小鳥遊君、どうかしました?」
素振りをしていた蒼空が手を止めて彼の方へ振り返る、翔太は自ずと草村の方を指差した。
「天音さん、あれ何だろう?ぬいぐるみかな?」
「えッ?確かに…あんな所にぬいぐるみなんて不自然ですよね。私、取って来ます!」
蒼空が鷲の方へ駆け寄って行き、手を伸ばした時。それは突然喋り始めた。
「待て、貴様は何処の者だ!?例の侵略者か!それとも宇宙人か!!」
「うわぁあッ!?ぬいぐるみが…し、喋った!?もしかしてオバケ!?それとも変な玩具!?」
「玩具でも、お化けなどでもない!私の名は──」
鷲が名前を名乗ろうとした時、翔太と共に様子を見に来たリーナが先に答えた。
「クラ…ウス…?もしかしてお前はクラウスなのか!?」
「その声…もしや王女様では!?良かった、ご無事でしたか!!」
クラウスと名乗った鷲は蒼空を横切ってリーナの元へ来ると彼女の事を見上げ、会釈するとその様子を見ていた翔太がリーナへ声を掛けた。
「リーナさんの知り合い?」
「あぁ、2人にも紹介しよう。私の側近のクラウスだ。それより…何故そんな姿なのだ?」
リーナが彼を見つめていると思い出したかの様に彼は自分から姿を変える。そこに現れたのは両手に黒の手袋、両足も同色のブーツに対し赤と白を基調とした服に身を包んだショートヘアの茶髪の男性でオマケに顔立ちも良く、世間で言えばイケメンの部類に入る風貌をしていた。
「…実は奴等の目を掻い潜る為に変化のマナを使っておりまして、何とか隙をついてこの国へ逃れる事が出来たのです。」
「そうか…それよりお父様とお母様は?無事なのか?」
「はい、ご無事です。国王様、そして王妃様が貴女の事を頼むと私だけ秘密裏に逃して下さいましたので。しかし、何れもお2人は城とは別にある塔の中に幽閉されておりまして…最近まで私とお2人はそこに閉じ込められていたのです。配下達は皆、恐らく地下牢に…。」
「…解った、ご苦労だったなクラウス。それからお前にも紹介しよう、そこの彼はショウタ…そしてその隣はソラ。2人は私の友人で私の事を助けてくれたのだ。もう1人セツナという者が居るがまた次の機会に。」
リーナが紹介するとクラウスは2人の前へ来て話し始める。
「私の名はクラウス、フルール王国においてリーナ様の側近を務めています。お2人が王女様を助けて頂いた事…国王に代わり感謝致します。」
丁寧に一礼した彼だったが直後に腹が鳴ってしまい、思わず上を向いて誤魔化していた。
「クラウス?お前…お腹が空いているのか?」
「も、申し訳ございません…実は此処最近、満足に食事が出来なかったもので……。」
腹を擦りながらクラウスが項垂れていると蒼空が何かを思い付いたのか彼の方を向いた。
「そうだ!良かったら私のお家に来ませんか?」
「ソラ様の…お家へですか?」
「実は私の家、最近出来た馬鹿りですけど…食堂なんです!お父さんに話せば何か作って貰えるかも!!」
彼女が微笑むと3人は蒼空を先頭にして公園を出るとそこから彼女の家の方へと向かって歩いて行った。
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「此処が私の家、天音食堂です!!」
自転車を押して辿り着いたのは黒い屋根に灰色の外壁をした家で看板には[天音食堂]と書かれている。自転車を停めて店の中へ入ると既に何人かの客が訪れていた。
「ショウタ、良い匂いがするな。」
「うん。またお腹空きそうだよ…。」
蒼空が厨房の方へ向かって行き、奥に居た白い手拭いを頭に巻いた白い半袖シャツを着た40代の男性へ事情を説明する。彼が蒼空の父親で天音光陽、彼の左斜め後ろでフライパンを持っている青髪の女性が母親の天音咲良。
それから少し経って蒼空がメニュー票片手に戻って来た。
「何処でも好きな席へどうぞ、メニューが決まったら私に言って下さい。」
そう話してクラウスへメニューを渡すと3人は座敷のある席へ腰掛ける。彼はメニューをジロジロと見てから悩んだ末に選んだのは炒飯定食だった。
「これを頂けますか?」
「炒飯定食ですね、解りました!」
蒼空が鉛筆で紙へ書き記すとそれを持って厨房へと消えて行き、少し経ってから戻って来た。
「天音さんの家、食堂だったんだ。」
「此処へ引っ越して来たのはお父さんの都合で、元居た所はお母さんと私、弟と妹だけ一緒に住んでたんです。お店も順調になって来たから一緒に住もうって話になって。」
「へぇ…じゃあこのお店もお父さんが?」
「私のお父さん、結構思い付きで動く人なので…霞ヶ丘市で食堂やるから成功するまで俺は戻らない!って突然家を出て行ったからビックリしましたけど。それ以降は私が弟と妹の面倒を見たり…お母さんのお手伝いしたりとバタバタしてました。」
彼女が事情を説明していると奥の方から「ブレイブレッド参上!」という子供の声が聞こえ、翔太が視線を向けると紺色の髪をした男の子が右手を突き出してポーズを取っていて、その横には髪をツインテールに結んだ少女が居た。
駆け寄って来ると蒼空が男の子の方へ注意する。
「こーら、陸斗!お店に出て来ちゃダメでしょう!月奈と一緒に奥に居てってお姉ちゃん言ったのに!」
「だって暇なんだもん。ねぇ!そこのメガネの人、ねーちゃんのカレシ?それともそっちの方がカレシ?」
「んなぁッ!?違うってば!唯の友達!!」
「男2人も連れて来てさー、ねーちゃんもやるねぇ?」
「もうッ!怒るよ、陸斗ッ!!」
蒼空が声を少し上げて話す反面、リーナは月奈は目が合った為に手を振って微笑んでいた。
すると彼女の方へ月奈が来た事から軽く話を始める。
「お名前は?」
「
「ルナか…私はリーナだ、宜しく。」
自ら手を差し出して月奈の小さな手を握るとリーナは軽く彼女の頭を撫でていた。それから少し経って蒼空が2人を連れて店の奥へと戻ると
今度は炒飯の載った御盆を運んで来て、クラウスの前へ置いた。
「お待たせしました、炒飯定食です!すいませんバタバタしちゃって。」
「いえ、お気になさらず。では…早速。頂きます!」
両手を合わせ、クラウスはスプーン片手に取ると山盛りの炒飯を食べ始める。そこからはノンストップで食べて行った。横にあったスープを時折飲みながら食べるその姿は余程、お腹が空いていたのだと見える。そして食べ終わるとクラウスは両手を合わせて頭を下げた。
「ご馳走様でした。非常に美味しい物ですね…この国のチャハーンとは。」
「あの…チャハーンではなく、チャーハンですよ?」
「失礼!チャーハン…でした。」
再びドアが開くと入って来たのはギターケースを背負った刹奈、蒼空が声を掛けると彼女は振り返った。
「…珍しい、みんな居るなんて。」
「いらっしゃいませ!天音食堂へようこそ!」
「…天音?もしかして此処は蒼空の…。」
「はい、私のお家ですよ?」
「…そ、そうだったんだ。じゃあ醤油ラーメン1つ貰える?ストリートライブの帰りだからお腹空いちゃって。麺は大盛りで。」
「はいッ!醤油ラーメン大盛り1つ!!」
紙へ書き記してから蒼空は再び店の奥へ向かって行った。
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同じ頃、コマンドソルジャーは人間に成り済まして街中を歩きながら彷徨っていた。
黒い帽子に黒のトレンチコートで歩く姿は傍から見れば普通というか目立っている。
そして足を止めた先に有ったのは1台の赤い自販機でそれに目を付けた彼は懐からフュージョン・マグナムを取り出して銃口を向けた。
「これにするか。乗り移れ、悪しき思惑の弾丸よ!!我にその力を貸すのだ!!」
引き金を引いて放たれた弾丸が吸い込まれると
自販機そのものが変形し両手足が生えたかと思うと今度は1つ目の頭部が現れる。そして巨大化すると自販機はクライナーとなった。
「クライナァアアアッ!!」
「さぁ、行くぞクライナー!王女を攫い、奴等を叩きのめすのだ!!」
コマンドソルジャーはクライナーの右肩に飛び乗ると歩みを始めた。
その頃、クライナーが街に現れたと同じタイミングでラーメンを食べていた刹奈がチャーシューを箸で摘んだ時。同じ席でアイスクリームを食べていたリーナが何かを感じ取ったのかスプーンを置いて突然立ち上がった。
「どうかしたのリーナさん?」
「感じる…ショウタ、ソラ!奴が来た!!」
それを聞いた2人が頷く反面、刹奈もビクッとなるが出て行くか否か迷っていた。
「行きましょう!さぁ刹奈も!!」
「…えぇ!?これ食べてからじゃ…ダメ?」
「何言ってるんですか、ラーメンなら後でまた食べられますから!それより今は街がピンチなんですよ!?」
蒼空が彼女を説得すると刹奈はチャーシューを1口食べ、それを飲み込むと立ち上がった。
「…ごめん、おじさん!ラーメンまた後で食べに来るね!!絶対残しといて!!」
そう伝えると奥の方から「あいよ!」と返事が返って来る。そして4人は外へ出ると悲鳴の聞こえた方向へ走って向かって行った。
そこはビルの近くに有る広場で駆け付けるとそこに居たのはクライナーとソルジャー達。彼等は人々を襲う様に無作為に暴れている。
「頼んだぞ、2人とも!」
リーナが蒼空と刹奈へ声を掛けると2人は前へ出て身構える。
「はいッ!」
「…食後の運動させて貰うよ。まだ食べ終わってないけど!!」
そして蒼空は首から下げていたジュエル・ストーンを、刹奈は左耳に付けていたジュエル・ストーンをそれぞれ外して叫んだ。
「「ジュエル・ストーン、セット!!チェンジ──!!」」
「サファイア!!」
「ルビー!!」
各々が右手首のミラージュ・ブレスへストーンを嵌めるとその場で変身し、サファイア・ナイトとルビー・ナイトへ姿を変えた。
「青く輝く勇気の騎士、サファイア・ナイト!!」
「赤く輝く情熱の騎士、ルビー・ナイト!!」
「「我ら、王女に仕える2人の騎士!!宝珠戦姫ジュエリィ・ナイツ!!」」
名乗り終えた2人は颯爽と階段を駆け下りてソルジャー達へ果敢に立ち向かっていく。
近くに居たコマンドソルジャーが号令を発すると臨戦態勢へと突入した。
「奴等だ、第2部隊!掛かれぇえッ!!」
「性懲りも無くまた悪さばかりして!許しません!!」
サファイア・ナイトが飛び上がるとソルジャー兵士らが居る足元へ向けて急降下し右手の拳で地面を殴るとその衝撃で吹き飛ばされる。
その傍らでルビー・ナイトはガーネット・レイピアを呼び出し、彼等と戦っていた。振り下ろされたスタンバトンを受け止めて弾き返すと刺突を繰り出して撃退する。続いて2人、3人とソルジャー達が彼女の前へ立ち塞がった。
「お前なんか直ぐに倒してやるぜ!!」
「…悪いけど私は負けないッ!やぁああッ!!」
構えてから直ぐに駆け出すと一直線に立ち向かって行く。だがその最中に離れに居たクライナーが背中からペットボトルの様な形をしたミサイルを4本発射しそれが迫り来る。先に気付いたサファイア・ナイトが駆け出し、跳躍すると手にしていたコバルト・ソードで瞬く間に斬り裂いた。それ等が爆発し黒煙が立ち込める中を突き進んだ彼女は柄を両手持ちした状態からその刃を振り翳す。
「はぁあああッ──!!」
「クッ、クライナァアアッ!?」
だがその刃はクライナーへは届かず、障壁により弾かれてしまった。そして地面へ着地した後にクライナーの方へ視線を向けるとそこに居たのは赤髪の男ことリザドだった。
「クククッ、そう簡単にやらせると思うか?」
「確か貴方はリザド!!」
「俺と戦え…サファイア・ナイト!!お前の実力を見せてみろ!!」
彼が両腕を交差させて振り抜くと現れたのはトカゲ型の怪人。褐色寄りの肌に黄色い瞳、首から下は銀色の装甲服に覆われていた。
「あ、あれが本当のリザドの姿!?」
「さぁ…行くぞ!!」
彼が両方に刃の付いた斧を呼び出し、それを片手に駆け出すとサファイア・ナイトへ向けてそれを振り下ろす。
彼女は辛うじて受け止めて弾き返すが手に強い痺れが走った。
「うぐッ!?お、重たい…それに強いッ!!」
「当然だ!俺の武器、サラマンダーを嘗めるな!!」
リザドにより立て続けに繰り出される攻撃を
弾き、躱すのが精一杯。サファイア・ナイトは
後退し呼吸を整えながら様子を伺っていた。
そこへソルジャー達を跳ね除けたルビー・ナイトが合流し、彼女の左へ立った。
「…どうする?サファイア。」
「ルビーはクライナーをお願いします。私はリザドを足止めしますので!」
「…良いけど、無茶しないでよ?」
「大丈夫です!」
お互いに頷き合い、武器を構えるとリザドがニヤリと笑ったかと思いきや空気を吸い込んで口から灼熱の炎を吐き出して来たのだ。2人はその場から左右に飛び退いて躱し、着地する。
「ひぇえッ!?今度は炎を吐いた!?」
「グハハハッ!!どうだ驚いたか?これでお前を丸焼きにしてくれる!!」
「わ、私なんか食べても美味しくなんかありませんッ!!」
再びサファイア・ナイトがリザドへ立ち向かう、
斧と剣が幾度もぶつかり合う音が響き渡った後、追い討ちを掛ける様に炎の球が連続し放たれるとそれが彼女へ命中し吹き飛ばされてしまった。
「しまっ…きゃああああぁッ──!?」
後方へ飛んだ末に地面を転がる様にサファイア・ナイトが倒れ、うつ伏せになってしまう。それをリーナと翔太と共に離れで見ていたクラウスは心配そうな顔をしていた。
「サファイア・ナイト…彼女は身体の動きや速さは問題ないですが、技術が欠けている。反面、ルビー・ナイトは力こそ強いですが無理に技の手数だけで押し切ろうとしている。生半可な戦い方ではあの化け物に…そしてリザドには勝てないでしょう。」
「アイツ…リザドの事、知ってるんですか!?クラウスさん!」
隣に居た翔太からの問い掛けに彼は頷いた。
「前に聞いた事があります。リザドは元軍人で、先頭に立って隊を指揮し…自らの力を戦場で存分に発揮し数々の勝利を収め続けたと。ですが彼はある時突然姿を消してしまった。まさかヴィランデールに加担していたとは……。」
「どうしよう、このままじゃ…!」
「…奴の武器は斧、隙を見逃さなければ勝機は有る筈。」
彼が呟くと翔太は頷く。
一方ではリザドがサファイア・ナイトを見下ろしながら不気味な笑みを浮かべていた。
「どうした、降参するか?」
「だッ…誰がするものですか!!」
サファイア・ナイトがその場へ立ち上がり、再び剣を構える。離れではルビー・ナイトがクライナーに押されながらも懸命に戦っていた。
「そうかそうか…諦めて王女を素直に渡すと言えば済むものを。何処までも愚かだなお前は!!」
「一度守ると決めたら、最後まで守り抜く…例えそれが誰であろうとも…!」
「なら、何処まで持つか試してやる…行くぞッ!!」
今度はリザドが仕掛け、斧を勢い良く振り下ろすと直後に地面が大きく抉れる様に割れたかと思えばそれがサファイア・ナイトへ襲い掛かる。彼女がそれを空中へ飛んで躱した直後にリザドは再び火球を3発放って追撃を行った。
それ等を全て剣で斬り裂いて着地するとそこへ向けて間合いを詰め、斧をサファイア・ナイト目掛けて頭上から斧を力一杯に振り下ろして来たのだ。それを辛うじて刃で防ぐが圧倒的な力により彼女の足元の地面が凹み、ジリジリと押され始める。鍔迫り合いの状態へもつれ込むと歯を食い縛って耐えていた。
「ぐぅううううッ…!!」
「グハハハ!!どうした、もうお終いか?アレだけ部下が手こずっていると思えば…俺からしたら大した事は無い、こんなモノ所詮はガキのお遊び…お前の実力もその程度だって事だ!!」
更に力が込められると押し込まれ、今にも地面へ膝を着きそうになる。それでもサファイア・ナイトは必死に持ち堪えていた。
「ま、負ける…もんか…絶対に…!!」
「いいや負けだ!どう足掻いてもこの状況を覆せる訳がないだろう?さぁ、大人しく負けを認めちまえ!!」
「例え敵が強くても…どんなに苦しくて、辛くても…私は諦めないッ…絶対に逃げない…!!それが…私の目指すヒーローの…姿だからぁあッ!!」
少し、また少しとその刃を力を込めて押し返していく。そして遂に持ち返すと彼女は自身の右方向へとリザドの斧を無理に振り払った。
「何だと!?馬鹿な、何処にそんな力が…ッ!!」
「今度は此方の番ですッ!サファイア!!ウォーター・スラッシュゥウッ──!!」
指先で引き金を一度引いて右斜めから左斜め下へ袈裟斬りの要領から一閃しリザドへ反撃の刃を喰らわせる。身に付けていた装甲服へ傷が付けられるとリザドは舌打ちし後退した。
「ふん…今回はお前の勝ちにしといてやる。コマンドソルジャー!後はお前に任せるぞ。」
「り、リザド様!?はッ!必ずや勝利を約束します…!!」
リザドが後方へ振り返ったと同時に姿を消すとクライナーの一撃により吹き飛ばされて来たルビー・ナイトが後方へ宙返りし地面へ着地し立ち上がった。
「くッ…ごめん、サファイア。私一人じゃ…アイツには…。」
「なら2人でやりましょう!1人はみんなの、みんなは1人の為に…私の好きな言葉です。それに2人ならどんな壁も越えられます!!」
「…ワンフォーオールって奴?良いよ、やろう!」
サファイア・ナイトは左手を差し出すとルビー・ナイトも頷いて彼女の手を右手で握り締めた。そしてその場で手元の3回引き金を引くとお互いに叫ぶ。
青と赤のエネルギーが各々の武器へ蓄積されていった。
「邪悪を打ち砕く水の力!!」
「邪悪を燃やし尽くす炎の力!!」
「「喰らいなさいッ!!」」
「サファイア!!」
「ルビー!!」
「「ツインナイト・エクストリィイイイム!!」」
剣とレイピアの刃先がクライナーへ向けられ、解き放たれたのは青と赤の眩い光。
それが渦となって1つになるとクライナーを一気に飲み込もうと差し迫る。
「ええいクライナー!反撃しろ!!何としても押し返せ!!」
「クッ、クライ…ナァアアッ!!」
コマンドソルジャーが檄を飛ばして右手で指差すとクライナーの背中や胸から放たれたのはペットボトル型のミサイル、そして赤青緑の缶のミサイル。だが着弾すると同時に全て掻き消されてしまい、遂にクライナーへ光が到達して飲み込まれていく。
「ア…アカルイナァ……。」
そして全身が白化し浄化されると元の自販機へと戻ってしまった。残されたコマンドソルジャーは2人の戦士を見るとその場から逃走し姿を消すのだった。
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「もっと素早く、腰を入れて!踏み込みが甘いですよ!!」
「は、はいッ!」
朝方、昨日使っていた広場にて木製の的を相手にし、蒼空とクラウスは鍛錬を積んでいた。彼女はジャージ姿で木製の剣を縦や横、右斜め、左斜め下へと連続し振っていた。離れた所ではリーナと刹奈、翔太がランニングコースを走っている。
「…ねぇ、小鳥遊。ど、どうして私まで…ッ!」
「ぼ、僕に言われたって…!」
2人が後ろで喋っているとリーナが振り返って来る。
「2人とも、口を動かす前に先ずは足を前に動かせ!!強くなる為には肉体から、そんな調子じゃヴィランデールは愚か…リザドやクライナー達には勝てないぞ!!」
妙にやる気なのは当然、蒼空と刹奈の戦い方を見たリーナとクラウスの提案による物。そしていざという時の為に翔太も鍛えておくという算段からこのトレーニングは行われていて、
彼女は更にそこへ付け足した。
「強き騎士は一日にしてならず!さぁ行くぞ!」
「…はいはい。」
「セツナ!返事は1度!!ショウタ、返事はどうした!」
「…はい。」
「はッ、はい!」
そして2人が主体となったトレーニングは朝の4時から7時まで続いた。
悪の侵略者、ヴィランデールとの戦いはまだまだ始まったばかりである。
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