第3話 異世界の侵略者、地球に現る!

 あれから翔太と蒼空は立ち寄った公園でリーナから全ての事情を聞いた。彼女はフルール王国という異世界に存在する場所の王女である事、自身が騎士として認められた日にヴィランデールにより国が侵略された事、両親の生死は不明である事、そして箱と書物とペンを託された事…その全てを明かした。彼女自身もトパーズ・ナイトとして覚醒し国と民を守る為に彼等に立ち向かったが力の差は歴然で直ぐに追い詰められてしまった事も含めて。そしてその日は解散となり、リーナは翔太の家に厄介となる事になった。 彼の部屋の中を見ながらリーナはベットへ腰掛け、今の彼女は華やかなドレスから紺色のジャージに着替えていた。


「ショウタに託したのはミラージュ・ノート、そしてミラージュ・ペン。そこに自身が思い描いた事を描けば現実になる。」



「か、描いた事が現実に…じゃあさっきの銃は!?」



「…勿論、現実だ。私が幼い時にお父様が1度だけ話してくれた事が有る…フルール王国には自身が思い描いた事を記せばそれが現実になる書物が存在すると。」



「まるで魔法の本だ。じゃあコレを使ってアイツら…えーっと、ヴィランデールが消えて欲しいと書けば!」


翔太が彼女の方を向いて提案したが首を横へ振った。


「それは出来ない。私が初めて目を通した時、ノートの一文に夢や希望のない願いを記しても叶わないと記述が有った。奴等を消す事は事実上不可能…という事になる。」



「じ、じゃあ戦うしかないって事?」



「そうなるな…それとお前の友達、マモル…とアツシに関してだが2人が去った後に私と出会った事やソルジャー達を見た所迄の記憶を消させてもらった。悪く思わないで欲しい。」



「記憶を消したの!?」


突然飛び出した聞き慣れたい単語に対して翔太は驚いて彼女の方を振り返った。


「2人の記憶を消したのは事の拡大を防ぐ為…そしてサファイア・ナイトの正体を知られない為だ。」



「でも、2人はそんな──!!」



「…不測の事態というのは予期せぬ所から発生するものだ。万が一、キミに託したミラージュ・ノートが外部の者達に知られ、その正体を知られれば最後…欲望のままに利用されてしまう。そういった事を事前に避ける為だ。」


リーナは淡々と話すと翔太の方をじっと見つめていた。


「でもッ…だからって記憶を消さなくても…!!」



「日常生活を送る上では問題はない。明日また彼等に会えば今日の事は全て忘れているだろう。寧ろ忘れていた方が幸せな事も有る…ショウタ、すまないが理解して欲しい……全てはフルール王国を一日でも早く奴等の手から奪還する為なのだ。」


 リーナは頭を下げ、彼へ詫びると母親が2人を呼びに部屋の前まで来ると夕飯や入浴を済ませてから眠りに着く。

こうして翔太の波乱の一日は幕を閉じたが、

リーナは夜も眠れず外を見ていた。

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 翌朝。翔太が先に目を覚まして布団から出て立ち上がり、自室にある机の上を見てみると銀色の表紙をしたノートとペンが傍らに置かれていた。昨夜は翔太が布団を敷いて床で、リーナが彼のベットで寝ていた。


「夢じゃ…なかったんだ……。」


 ベットを見てみるとリーナは静かに寝息を立てながら眠っていて、余程疲れていたのか起きる気配が感じられない。今日は休日な事からマンガやゲームでもして過ごそうと考えていたが予期せぬ来訪者のせいでそれも出来そうにない。


「ん…ッ…。」


モゾモゾとリーナが掛け布団から出て目を擦るとその場で欠伸をして翔太の方を振り向く。彼も気配に気付いたのかリーナの方へ振り返った。


「ショウタ…もう起きてたのか……。」



「おはようリーナさん。」



「あぁ、おはよう。久しぶりに寝過ぎてしまった…普段はこんな事は無いのだが……。」



「結構疲れてたみたい。それよりケガの方は大丈夫?」


 そう言われるとリーナは掛け布団を退けて右足を見てからその場で服を捲って腹部の辺りを確かめると「問題ない」と話した。だが翔太は背を向けて見ないようにしている。


「…?どうした、ケガの具合を聞いたのはお前の方だろう?」



「そ、そうは言われても…僕、こう見えて一応男なんだけど……。」



「成程…そういう事か。向こうに居た時よく言われたよ、私は歳頃の女らしくないとな。」



「え?」



「もっと着飾れ、お淑やかにしていろ、付き合う人を選べだの何だの…うんざりする位。男だらけの騎士団の者達と関わっている内に私もこうなってしまってな……気を付けるよ。」


微笑むとリーナはベットから降り、翔太の机に近寄るとミラージュノートの傍らに置かれていた別のノートを手にして読み始めた。


「あッ!?そ、それは……!」


 描かれていたのは女児向けアニメのイラストの数々、特に戦うヒロイン物が多い。パラパラと捲る中でとあるページで手を止める。

そこには長い髪をツインテールに纏め、白いフリルとリボンが付いた服を着て笑顔でウィンクしているヒロインの姿が有り、それを頭の先からつま先まで見た彼女は振り返った。


「ショウタ、これをミラージュ・ノートへ描けるか?」



「え?それは出来るけど…」



「この娘の服を私の普段着にする。名前は…ミラクル・ホワイト……変わった名前だな。」



「僕の好きなアニメのヒロインだよ。書くのに少し時間掛かるけど大丈夫?」



「あぁ、平気だ。」


 リーナが微笑むと翔太は頷くのだが彼から「先に朝ご飯にしよう」と提案される。彼女は彼の後ろをついて行き、リビングへ訪れると既にテーブルの上2人分の配膳がなされていて2人は椅子へ腰掛けた。そこには黒い茶碗に入った味噌汁と白米の入った白い茶碗、そして長方形の皿に載った焼き鮭が置かれている。一方のリーナは鮭を見ながら不思議そうな顔していた。


「ショウタ、この赤いモノは何だ?」



「これ?これは焼き鮭だよ。」



「サケ…?これは食べられるのか?」



「食べられるよ?骨有るから気を付けてね。」


 不思議そうな顔で見ていると翔太の両親がテーブルを挟む形で2人の前に腰掛ける。そして昨夜と同じく「頂きます」と手を合わせてから食べ始めた。リーナも慣れない箸を使って食事を進め、鮭に関しては彼の母親が食べ易い様に解してくれた事からその中の切り身を摘んで口へ運ぶと彼女は思わず目を見開く。


「…!?美味しいな、このサケというのは!!私の国では食べた事がないぞ!?塩加減がとても良い…!!」



「あはは…気に入ってくれたみたいで良かったよ。フルー…じゃなかった、向こうの世界には鮭は無いの?」



「残念ながら無いな…魚は王族も口にするのだがこういうモノは初めてだ。」



「そっか、鮭とご飯も一緒に食べると美味しいよ?」



「何、本当か!?」


それから彼女は満面の笑みを浮かべながら鮭を始めとした物を全て食べ終えると満足そうに「ご馳走様でした」と口にした。

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 一方その頃、街の一角に有るビルの屋上では人間では無い異形な見た目をした者が通りを覗きながらその場に佇んでいた。

楕円形の黒い瞳孔を持つ黄色い瞳、銀色の装甲服に加えて身を包んだ茶色い肌と同じ長い尾を持つそれは二足歩行のトカゲを彷彿とさせる。


「此処がチキュウ…そしてアレがニンゲンか。ふふふッ、様々な星を侵略し破壊の限りを尽くして来たが此処まで平和ボケした奴等は初めてだ。それに以前侵略したあの国…フルールにもにも似ている……。」


彼がニヤリと笑うと同時に腕章を付けたコマンド・ソルジャーが背後から現れた。


「どうだ、第1小隊が壊滅させられたという例のガキは見付かったか?」



「もッ…申し訳ございません、リザド様。他のソルジャー達が全力を上げて捜索しておりますが未だに発見出来ておりません…。」



「ちッ……そうか。なら此奴を使って炙り出してやる迄だ。」


 そう話した彼が取り出したのは一見するとリボルバー拳銃の様な見た目をした器具で慣れた手付きでシリンダーを展開させるとそこへ腰に付けていたポーチから取り出した黒い弾丸を込め、元に戻す。そして振り返るとそれをコマンド・ソルジャーへと投げて渡した。


「これは?」



「此奴はフュージョン・マグナム、中に入ってる弾は俺達が侵略に使うクライナーを加工したモノ。此奴らが憑依出来るのは無機物だけ、有機生命体には効かねぇから気を付けな。」



「畏まりました…では早速、使わせて頂きます。」


頭を下げたコマンド・ソルジャーは立ち去ると

リザドはニヤリと笑った。


「この星ではどんな悲鳴が聞けるか…楽しみだぜ。」


 彼等、ヴィランデールの目的は地球を侵略し我が物とする事。その為であれば非人道的な手段を用いてでも己が望みを果たそうとするのは明白な事実だった。そして彼の元を去った後、建設現場に有ったショベルカーへ目を付けたコマンド・ソルジャーにより怪物は誕生した。

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「よし、こんな感じでどうかな?」



「サイズも調度良いし申し分ない。だがやはり変か?こう…リボンが付いているというのは。」



「そう?僕は変じゃないと思うけどな。」


 朝食を終えてから翔太は私服に着替え、リーナもまた彼に描いてもらった服に着替えていた。

艶のある絹の様な金色の髪を白いリボンでツインテールに結んでから鏡を何度か見てバランスを確かめている。服装は両肩と胸元を露出したデザインである事から見た目は従来の服装と比べると若干派手な気もする他、腹部や胸元にも同様に白のリボンが付いている。両肘から手首迄を白いアームカバーが、そして同様に描いたブーツの長さは膝下まで、全体的な色は白で爪先は薄い黄色だった。


「昨日のドレスよりは幾分かマシだな。アレは長い上に転びそうになる…オマケに歩き難かった。」



「確かにそうかもね。それじゃ、着替えも終わった事だしこれから──」


 翔太が何かを言い掛けた時、地響きの様な大きな音が外から聞こえると灰色の煙が離れた場所から立ち昇った。リーナが窓から外を見ると何かを感じ取ったのか目付きが変わる。


「感じる……奴等の気配だ。」



「奴等って…まさか昨日の!?」



「あぁ、そうだ!早く行くぞ!!」


 彼女は振り返って頷くと自ら部屋の外へ走って出て行く。彼もミラージュ・ノートと2冊のノートをリュックサックへ押し込んでから後を追い掛けて行った。2人が向かった先は住宅地から離れた場所にある通り、近くまで来ると騒ぎの張本人が暴れ回っていた。


「な、何だよあれ!?変な奴の次は変な怪物!?」



「ッ……似ている、形は違うが私が国で見た奴と…!!」


 人の背丈を軽々と超えるそれの頭部は甲冑を付けているだけでなく、角を生やしている他に赤い1つ目で両肩から黄色いショベルカーのアームを生やし、身体は銀色で両足にはショベルカーのキャタピラが付いている。逃げ惑う人々を他所に暴れるその姿はまさに正真正銘、怪物だった。


「どッ、どうしよう!?」



「どうするも何も止めるしかない!!これ以上暴れられたら街が更に壊れてしまう…!昨日ミラージュ・ノートに描いた銃は有るか?」



「有るけど…どうする気?」



「最悪の場合、私が時間を稼ぐ…サファイア・ナイトが来るのを待つ他ないだろう。」


 翔太が銃をリュックサックから取り出すとそれを受け取ったリーナが握り締め、覚悟を決めて怪物の方へ振り返った時だった。聞き覚えのある声に対し同じタイミングで視線を向けると白い長袖のトレーナーに青色のミニスカートを履いた蒼空が走って来た。


「いた!やっぱり2人共来てたんですね!!」



「天音さん!!良かった…これで何とか──」



「ッ!?危ない、避けろ!!」


 リーナが叫ぶと3人が散り散りにその場から離れる。先程居たそこへ目掛けてショベルカーのアームが叩き付けられたのだ。


「クライナァ……クライナァアア!!」


 1つ目の怪人が3人を目玉でギョロギョロと見定めているとリーナを見た途端、狙いを彼女へと絞った。そして巨体をリーナの方へ向けて近寄ろうとする中で彼女は手にしていた銃を用いて相手に発砲したが何れも防がれてしまった。


「やはり狙いは私か…くッ!!」


すると2人の前へ蒼空が駆け付け、その場に立つと彼女は首から下げていた青色の宝石を外して左手に握り締めてから訴え掛けた。


「小鳥遊君、リーナさん!街の人達を頼みます!!」



「幾ら何でも無茶だ!あんなデカいのに勝てる訳ないよ!!」



「それでも、誰かがやらなくちゃいけない…ヒーローは目の前の敵から絶対に逃げたりなんかしませんッ!!」


そして彼女は深呼吸し右手首の白い腕輪へ青色の石をセットし叫んだ。


「──ジュエルストーン・コネクト!!チェンジ・サファイア!!」


直後に青色の眩い光が彼女を包み込むと青と白の衣装を纏ったサイドテールの戦士が姿を現した。


「青く輝く勇気の騎士!サファイア・ナイト!!」


 彼女の長い髪が風に靡く、そして左右の拳を握り締めてファイティングポーズを取ると同時にクライナーがサファイア・ナイトへ襲い掛かって来た。右腕にある指の代わりに付いたバゲットを頭上から振り下ろして彼女を襲うがサファイア・ナイトはそれが当たる前に後退し躱す、そしてそこから僅かな助走をつけて駆け出すとバゲットを踏み台にしてから右足を軸にし空中へ跳躍する。


「たぁあああああぁッ──!!」



「クライナァアアアッ!!」


 そして右手の拳を勢い任せで相手の胸部目掛けて突き出すと殴り飛ばした。凄まじい衝撃と共に数歩後退したが、それでも倒れる気配は無い。するとクライナーは反撃し左手のバゲットを用いて彼女を振り払う動作を行って来るとサファイア・ナイトはそれを躱して腕を蹴る様にして後方へ宙返りしてから街灯の上へ着地する。


「まだ力を完全に制御出来ていない…でも、やるしかないッ!!」


 再び放たれた右腕の攻撃が来る直前に街灯を蹴って上空へ飛翔、そして姿勢を制御してから勢い良く落下速度を付けると今度は空中から右足を突き出して蹴りを放つ。それが頭部へ直撃しクライナーは地面へ倒れると土煙を上げていた。それを離れで見ていた翔太が歓喜の声を上げる。


「やった!?」



「いや、まだだ…奴はまだ生きている!!どうやら以前見た兵士達と違って奴は段違いらしい…!!」


 リーナが土煙の中を指差すとクライナーが再び立ち上がり、サファイア・ナイトへ向けて襲い掛かる。繰り出して来たのは左右のバゲットを用いた乱打攻撃でそれを自身の力を利用して躱し続けると再び攻撃が繰り出される直前で懐へ潜り込む様に駆け出すと彼女は左右の拳でパンチを放った後、今度はその場で身体を左へ捻って正面蹴りを右足で解き放つ。ダメージは与えられているが完全に倒す迄には至らなかった。

突き放しても尚、クライナーは倒れずに踏み止まる。


「くッ…!これだけの攻撃を繰り出してもまだ倒せないだなんて!!」


それを見ていたリーナが彼女へ声を掛ける。


「サファイア!お前の技、ブレイヴパンチなら奴を倒せるかもしれない!!」



「解りました、やってみますッ!!」


サファイア・ナイトがその場で咄嗟に身構えると同時に再び駆けて行き、右手にエネルギーを集中させる。そして間合いが詰まると同時に更に加速して拳を突き出した。


「サファイア!ブレイヴ・パーーーンチ!!」



「クッ、クライナァアアア──ッ!?」


 青色の閃光がクライナーを突き抜け、サファイア・ナイトは敵を背にして立つと背後で身体が白色へ変化すると消えてしまった。破壊された道路や元だったショベルカーが全て元に戻ったのを確認した後に変身を解いた彼女は2人の元へ戻って来る。


「ふぅ…何とか倒せました。それにしても、まさかあんな大きな怪人が出て来るとは。」



「クライナー…。私の国を襲った奴も同様の事を叫んでいた。」


リーナが敵の居た方向を見ながら呟くと翔太も口を開いた。


「昨日のもそうだけど特撮みたいな事が現実に起きるなんて…本当に夢じゃないんだよね?」



「残念ながら現実だ。そして敵の真の狙いは地球、そして奴等の追っ手から逃れた私…。今後もあの様な者達と戦う以上、此方も戦力を整えなければならない。」


 蒼空と翔太はリーナの言葉に対して強く頷く。

未知なる脅威、ヴィランデールは着実にその手を伸ばし始めている。3人の戦いはまだ始まったばかりだ。















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